時空刑事モモタロウ
桃太郎、こんな感じってどうですか笑笑
「じいさん、ばあさん。行ってくるぜ」
そう告げると、俺は徐に小屋の扉をシュッと開いた。
外は快晴。
青々と広がる空が、俺の旅立ちを祝っているようだ。
と思っていたらかなりの本降り。
それも大雨だ。
おい、クソジジイ。
何肩揺らして笑ってやがる?
「も、も、くは、モ、ぷは、モモタロウ! さ、寂しく、な、な、なるのぅ、プヒャ!」
……ばあさん。ウケすぎで入れ歯が口から飛び出したぜ……
うぉ!
土払っただけで口に突っ込むなよ!
きったねぇ……ちゃんと洗えってば!
「く、くふふ、あ、あはは! ぶばばばば! モモモ、モモタロウ! で、伝家の宝刀は、こ、腰に……」
あぁ、勿論だクソジジイが。
伝家の宝刀じゃねぇ。
電荷ブレードだ、この野郎!
「あ、あぷひゃ! そ、そ、それと、き、き、き……」
あぁ、それも持ったぜ。
二一四五年で大人気の惚れ薬たぁ、よく言ったもんだ。
このキビダンゴはな。
「そ、それにしても、ああ、あ、雨とはな! 折角の晴れ舞台が、台無しじゃなぁぁぁ!」
嘘付け、何が台無しだよ。
絶対嬉しいだろ? 喜んでるだろ?
不気味な赤ん坊が、たった五年で立派な成人になるんだ。
見ちゃいけねぇって目で見てやがったからなぁ。
仕方ねぇだろ、二一四五年から、流刑刑務所で好き勝手やってる犯罪者を黙らせるために派遣されたんだからな。
身元を隠すためには、一時的に赤ん坊に成らざるを得なかったんだ。
それをこのクソババア。
萎びた乳なんぞ見せやがって。
誰が好き好んで食らいつくかってんだ!
あぁ……
ジジイはそういや食らいついてたか……
う……
嫌なもん思い出しちまった……
「と、とにかく、モモタロウ! 達者でな! 気張って鬼を……」
「っるせぇんだよ、クソジジイが! 言われなくてもな、ばっちし痛め付けてきてやるってよ!」
俺の啖呵にジジイが黙る!
まぁ、今の俺には敵なしだわな。
一億ボルトの電力が流れる電荷ブレードに自白剤をたっぷり入れ込んだキビダンゴ。
この胸元の前垂れは電磁シールドが展開できる防弾チョッキだ。
ワラジに見えるこれには、歩速を早める加速装置が内蔵されてる。
誰がどう見たって、向かうところ敵なしじゃねぇか。
まず負けねぇ。
さぁて。
こんなところでチンタラやってる場合じゃねぇ。
さっさと任務を終わらせて、恋人が待つ二一四五年に戻らねぇと。
何せ五年間もご無沙汰だからな。
俺のマグナムが廃っちまうぜ。
あぁ、早くお前の美しいブランドの髪の香りと、柔らかい肌に俺の傷だらけの肌を重ねたい……
待ってろハニー!
「さぁ、行くぜ! モモタロウ様の鬼退治だぁぁぁぁぁ!」
俺は颯爽と外に出て躍り出ると、電荷ブレードを高らかに雨雲へと掲げた!
そして、光る!
周囲を眩しく照らし出す俺こそ、この世界を救う英雄!
見てろよ、チョンマゲ共!
この俺の勇姿を……!
▲※◇◾︎♬♪!?
突然の全身をつらぬく衝撃に、俺は一瞬で意識を刈り取られた……
ーー
「やれやれ、本当に大丈夫か?」
私は頭に被っていた頭巾を外すと、中にあるスイッチを押す。
瞬間、老人から壮年へと姿を変えた。
ピシャリとしたスーツにその襟元には旭日章が輝いている。
「……さすが警視庁一の問題児ですわ。私をばばぁ呼ばわりするなんて」
老婦人は、襟元にあるスイッチを押す。
すると、タイトスカートに胸元がはち切れんばかりのブラウス姿へと変わる。
その顔は、超一流モデル並みの美貌だ。
「時空流刑収容所『鬼ヶ島』の暴動鎮圧にはうってつけの人材ではあるのだがな」
「素行不良に上官に対する暴行行為。部下、容疑者問わず、気に入らなければ鉄拳制裁。気に入った女性には強姦紛いに行為を強制する、法律という虎の威を犯罪者ですが……」
「この時代に派遣する際に乳児まで退化させたが、中身は変わっていなかったとは。驚きは隠せんよ」
「ま、功を奏したと言いましょうか。私たちには一切の疑いを持ちませんでした」
「明らかに対象外だったようだからな。お陰で段取りはすんなりと出来た」
「しかし、最後の最後で雷に打たれるとは……、馬鹿なんでしょうか?」
「……」
二人がそんなことを言っていると、モモタロウはムクリと起き上がった。
瞬間、二人は肩をビクリと揺らし、勢いのまま互いに抱きしめあった。
「あ、あれ? 僕は一体?」
二人は耳を疑った。
今の今まで、モモタロウは自分を『僕』とは呼ばなかったからだ。
「あ、あー、だ、大丈夫、か?」
男は、女性からゆっくり離れると、囁くような声で話しかけた。
「え、えぇ……、、体がまだ痺れていますが……」
とモモタロウは立ち上がる。
「えーと、僕は?」
オトコはしめたと思った。
あのモモタロウが、雷に打たれた衝撃で人格が変わったようなのだ。
「いいか? 君の名はモモタロウ。今から鬼ヶ島の鬼たちを退治しにいくところなのだ」
「あ、そうなんですねー。でも、雨ですけど……」
「そ、そうね。でも問題ないわ。その服からはつねに電磁シールドが展開されてて、あなたを雨に濡れていない筈だから」
「は? で、でんじ……」
「と、とにかく、急ぎたまえ! こうしてる間にも鬼たちが人間たちを脅かしているのだ! 君の使命は凶暴極まりない鬼どもから人々を救うのだ!」
「そうなんですねー。あれ? そう言えば僕は……」
「君の名はーー!」
男はそこで止めた。
何て言おう?
どうも衝撃が強すぎて一時的に記憶が飛んでいるようなのだ。
だが、ここで違う名前を言っても意味はない。
それこそ、記憶が戻れば混乱するかもしれない。
そうなると一大事だ。
キレた彼は、誰にも止められない。
だから、そこは隠さないことにした。
「君の名はーー!!」
「僕の名は?」
「「モモタロウだ(よ)!!」」
雨が止み、雲の隙間から太陽の光が差し込む。
それが彼を照らし出した。
「僕の名は、モモタロウ!」
彼は勇ましさに溢れた笑顔を見せる。
モモタロウの旅が始まった!