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プロローグ


プロローグ  旅の始まり



「あぁ、羨ましい…羨ましいよぉ…!」

「リコルよ、また下界を見ておったのか。何を羨ましがることなんてあるんだ?」


ここは天界、地上とは違う別次元にある神々が住む都。

今日もまた酒神しゅしんの見習い、リコルは下界の様子を見ていた。


「だって、酒神様。あちらの街では肩を組みあんなに楽しそうに、こちらの屋敷では味わい深く仲間で飲んでいるじゃねーか…」

「何を言う!天界のほうが酒は旨いし、つまみだって大量にあるではないか!」


リコルは夜になっては人間族や獣人族、下界の色々な種族の酒を飲んで騒ぐ様子を見ていた。

そう、リコルは旨い酒をひたすら飲みたいわけではない。友や愛する人、仲間と騒がしく飲みたいのだ。

他の神見習いとも飲むこともあるが、皆まじめで騒がず静かに飲むだけで、正直つまらない。


「俺は!あんな儀式のような飲みなどごめんだ!天界は本当につまらないー!!」


酒神は呆れて宮殿に戻ってしまった。

片手に天界一の美味しい酒を、もう片手に極上スルメを持ち、下界が静かになるまで眺めては、ちびりちびりと晩酌するのが、ここ最近の習慣ともいえるほど続いていた。


「俺も、友達が欲しいなぁ…あーあ」

「また見ておったのかい?リコルよ。そんなに下界に行きたいのかのぉ?」

「誰だぁ?って最高神様!?ようこそいらっしゃいました!」


リコルが飲んでいると後ろから声をかけられる。振り返ると最高神が徳利(とっくり)を持ってフラフラと、歩いてくる。

流石に大胆不敵のリコルといえど、最高神には無礼な態度を取る気はない。


「よいぞ、リコルよ。一緒に飲もうではないか。わしもな、若いころは天界の民の考えとは違うなんだ…」

「へぇー、最高神様はどんなことをしてたんですか?」

「わしか?わしはなぁ、この天界から抜け出して下界に遊びにいきよったわい!」


最高神は年老いた顔に反して,少年のような二カットした笑顔でリコルに過去を語りだす。

リコルはキラキラとした目で、最高神の過去話を聞いていた。

最高神は見習いのころ、前の最高神に隠れて下界に遊びに、または魔物を倒したり時には悪役ともなり、面白おかしく語る。

だが、リコルは聞けば聞くほど段々と羨ましい気持ちは募るばかり。


「そんな顔をするでないぞ、リコルよ。そうじゃ!これをやろう。この天界の酒が沸く徳利じゃ。」


しわくちゃの手で頭を撫でられるリコル。最高神は申し訳ないと思ったのか、自分の持つ徳利をリコルに渡す。


「最高神様!いいんですか!?やったぜ!」

「よいよい、その代わりのぉ、我ら天界の者の魔力でしか酒は沸かんぞ。」

「ありがとだぜ!絶対大切にします!」


リコルは徳利をこれでもかというほど、頬ずりしながらお礼を言う。


「懐かしいのぉ、それと、天界と下界を行き来出来るポートキーを持って下界の者を集めて騒いだのぉ。」

「ポートキーですか?なるほど…」


その後、また下界が鎮まるまで最高神と酒神見習いのリコルは語りながら飲み耽る。


「んじゃ、最高神様。俺は寝ます、お先に失礼します。」

「うむ、またのぉ、リコルよ。」


リコルは残ったスルメと、最高神に貰った徳利を抱え、自分の寝床へ帰った。

その場でもう少し飲んでいた最高神に近づく酒神。


「最高神様、あまりリコルを甘やかされては困りますぞ。あれは、憧れているだけで行く気などないのだから。」

「いやな、若いころのわしを見ているようで、思うところはあるんじゃよ。」

「まさか、最高神様…リコルを下界に行かせるつもりで?なりませんぞ?」

「どうかのー?ほぉっほぉっほぉっ。面白いのも良きじゃよ。神生、刺激がないとのぉ」


困った顔の酒神と、成長を喜ぶのか、ただ、楽しくなりそうだから嬉しいのかわからない最高神。

最高神の周りを、ふよふよと飛ぶ二つの光がチカチカと輝く。


「陽と陰もそう思うじゃろ?あの頃を思い出すし、本当に懐かしいわい…」



次の日、リコルは神の仕事を終えると、こっそりと天界大倉庫に忍び込む。

数々のアイテムの中からポートキーを探すために、きょろきょろとする。

天界大倉庫には、海を割ることが出来る玉、最上位魔法を数百と撃てる杖。

ドラゴンや幻獣を呼び出すことが出来る笛、空を飛ぶ絨毯など下界や様々な世界のアイテムが保管してある。


「ポートキーはどっこでっすかーっと...この辺かな?」


流石、天界の大倉庫と、いう広さを誇る大きさだけはある。

時間が経つにつれ、倉庫番が見回りにいつ来るかと焦るリコル。


「あった!けど、似たようなものが二つもあるぞ?最高神様、肝心のことは教えてくれないんだもんなー。」

「ん?誰かいるのか?誰か倉庫に用があるなんて聞いてないぞ?」

「やっべ!逃げなきゃ!!」


リコルはポートキーを掴むと、逃げるようにこそこそと大倉庫を後にする。

赤色と虹色のポートキーがあったのだが、リコルはどうやら虹色のポートキーを持ってきたらしい。


「あぶねぇ...まあ、お目当ての物は借りれたし良しとしますか。」

「リコルよ。早速、下界へ行くつもりか?決断が速いの。」

「最高神様!?なんでわかったんだよ!」


隠れたと思っていたリコルは、突然現れた最高神に驚く。

いたずらが成功したような、にやにやとした顔で話しかけてくる。


「なんたってわしは最高神じゃからな。と、言っても昨日あんな話をしたんじゃ。行動に移すのは時間の問題じゃろ。まぁ昨日の今日じゃ流石に早いと思ったのぉ」

「なぁ、内緒にしてくれませんか?ちょっとだけだからー。」

「そうじゃのぉ、少しだけじゃぞ?ポートキーを起動させるんじゃ、呪文は”我はこの地を離れ、異なる地へ飛ぶ者なり”じゃぞ?」


リコルはまるでもらったばかりのおもちゃ箱を開けるように、嬉しそうな顔でポートキーを起動させる呪文を唱えようとする。

徳利と、飲みの席で披露するための琵琶(びわ)、それからポートキーを持ち呪文を唱える。


「最高神様!行ってきます!”我はこの地を離れ、異なる地へ飛ぶ者なり”」

「あぁ、楽しんでくるんじゃぞ。ん?待つんじゃ!!そのポートキーは違うのじゃ!」


慌てる様子の最高神に目がいかず、まだ見ぬ下界に期待を膨らませ、今か今かと転移されるのを待つリコル。

どうやら赤いポートキーが天界と下界を行き来するもので、虹色のポートキーは、神すらも分からぬ場所に飛ばされるものであったのだ。


「もう転移は、始まっているようじゃ!仕方ない、陰よ!リコルについていくがよい!待ってるのじゃぞ、すぐ探し出してやるからな!」


最高神の周りに飛んでいる黒い光がリコルの陰に入っていく。


「行ってくるよ!最高神様!いざ、下界の彼方へ、さぁ!いくぞー!!」

「ほんとに彼方へ行ってしまうんじゃー!」


こうしてリコルは下界に一方通行という形で転移されていく。

本人は、ちょっとしたお散歩気分で。

そして、まだ見ぬ仲間を探しに......

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