電話5
1月11日
「優しくしすぎたのかもね」
奈津子はそう言う。
日陰は、うんと言ったが、日陰のスマホから奈津子が布団をガサゴソと動かす音でかき消される。ふと日陰はスマホの画面の右上に刻まれている時刻に目を向ける。もうこんな時間か。
“0:15”
「ちょっとトイレ行ってくる」
おう、と日陰は言ってから、少し考え事をし始めた。一体、いつ自分は奈津子から独立するのだろうか、ということである。毎日夜な夜な電話をつなげて迷惑なのではないか。奈津子に依存することも恐怖に思えた。面倒くさいと思われてはいないだろうか、ふとそんなことを考え始めると猛烈な自己嫌悪に苛まれる。日陰は、テーブルの上に置いてあるミネラルウオーターに手を伸ばす。キャップを外し口の中に流し込む。再びキャップをつけて、テーブルの上にぽんっと置く。ふうっと溜め息をつく。
今日の電話はここまでにするべきではないかと思った。別段、今日はそこまで孤独に食われていないし、めずらしく眠気もうまれてきて、電話を切った後にもすぐ眠れそうである。
日陰は電話を切った。“今日もありがとな!毎日毎日お前に頼りすぎているから少し今日は我慢してみるから切る。(スタンプ)”とメッセージを送った。
「ひな」と別れてからというもの、寂しさで「病み」がちであったとき、ふと誰かのあたたかさに甘えたくなる瞬間が日陰にはあった。自分を肯定してほしいわけでもない。ただ話を聞いてくれる存在が欲しかったのだ。それが女であればなおさらだ。女を失えばそれを埋め合わせるのは女だ。そんな腹黒いような考え方が日陰の中には眠っていたのだ。その対象は奈津子になった。
間もなく既読をあらわす文言が表示され、“おけおけ!すこしずつ元気になっているようでよかった(スタンプ)”とスマホに通知が入る。
誰に話すわけでもなく、日陰は手のひらで顔面を覆いながら独り言を言う。「持つべきものは友だ」と籠った声で。