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電話4

1月5日

 深夜の日陰の部屋にはスタンドライトとスマートフォンの灯りだけが灯されている。耕平との通話を示すスマホの画面の右上には午前2時35分を知らせる数字が並んでいる。ゴミ箱に入りきらなくなったティッシュペーパーが丸められて床に散乱しており、テーブルの上には空になった酒の瓶が3本置かれてある。今日の昼間に着てた衣類は脱ぎ捨てられ、大学で使う教科書も本棚の中ではなく床に積まれている。

 「お待たせ」

耕平の声がスマホから聞こえるとすぐに、日陰はおかえり、とトイレから返ってきた耕平を出迎える。

「たしかに俺のことがもう好きじゃなくなってさ、別れるのはしょうがないよ」

耕平はうんうんと頷く。

「ただ大事な存在だって言うんだぜ?それなのに井上と二人で今頃オールしてるって一体全体どうなってるんだ。いくら好きじゃないにしろ行動が軽すぎるだろ」

日陰はそう言ってからペットボトルのお茶をとりだして、ごくごく飲み干す。すると耕平が

「貞操観念が緩すぎる」

と豪快に言い切る。

「そうなんだよな。昔も似たようなことがあったんだ」

ほう、と耕平が興味深そうに返す。

「“私、好きじゃないかもしれない”“なんで?”“気になる人ができた”っていうことがあった」

日陰は、声を使い分けて説明していった。さらに日陰は続ける。

「あいつ海にドライブデートまで行ったんだぜ?その気になる人と」

「まじか」

「耕平さ。これ、アウトだと思う?」

「完全にアウトだよ。俺ならな」

日陰は深いため息をついて、やっぱりかと吐息交じりに言った。

「正直俺さ、ぎりぎりセーフだと思ってたんだ。アウトだと思ってたけど最初は」

「もはや洗脳されてたんだろう」

洗脳という初めてのワードに日陰は一瞬大きく日陰は震えた。背筋に刺すような寒気が通り過ぎる。

「なるほど」

「かげちゃん。おまえ、精神状態やばいぞ」

はっとするとはこのことだろうか、と日陰は我に返った気がした。いままで正しいと追い求めてきたものが間違っていたかもしれないということに、胸の動悸が一気に高まる。スマホを持っている手と声が大きく震える。

「俺、やばいのかな」

日陰は恐る恐る切り出してみた。

「正直言うとね、結構おかしい」

耕平のその言葉が日陰の心に突き刺さる。うわーと日陰はスマホを置いて頭をかかえる。まじかーと布団を軽くたたいた。

「普通、夜な夜な迎えに行くだけで別れることはあるしな」

耕平のその言葉が最も日陰を混乱させた。常識が覆った。付き合うってそんなんでいいのか、と日陰は行き当たりのない強い後悔にさらされる。

「なんか、たぶん、しがみつくような恋愛だったんだろうな」

耕平は咳ばらいをしてから

「かげちゃんは面倒見がよすぎるんだよ」

と言った。




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