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第八話 疲憊する二人の異国人

修正完了しました!

 体力を使い果たし疲労状態の犯人を支えて、迷路の様な薄暗い路地裏を歩き回ること数分。


「そういえば名前まだだった。俺は正人。よろしく」

「ボクは『フィナン』だよ~。で、友達の名前が『イオラ』。よろしく~」

 

 おっとりした口調でフィナンは自己紹介してくれた。


 そのイオラって友達のところに向かってるのだが、あとどれくらいこの路地裏を彷徨い続けなければいけないのだろうか。

 

 さっきみたいなやつが、また現れるかも分からない。

 できれば早々にこの場所から抜け出したいが……。

 

「――あ! そこのトンネルくぐって!」

 

 フィナンが指さしたトンネルをくぐる。

 

 少し肌寒さを感じる短いトンネル。

 ぴちょん、ぴちょんと水が滴る音が少し怖い。

 

 人の住んでいなさそうな家が立ち並んでる場所に出た。


「そこ! そこの家! 入ってっ!」

「分かった! 分かったから頭叩かないで! っていうか尻尾も生えてたの!?」

 

 フィナンが尻尾で激しく頭を叩いてくる。


「ここか……すごいぼろっぼろ」


 木製で出来たボロボロの扉の前に立つ。

 あちらこちらに穴が開いていて、扉自体も外れそうだ。


 家全体を見てみると、赤レンガの色がほとんど剥がれてあったり、窓ガラスがすべて割れてあったりと、明らかに人が住んでいない古屋だと分かる。


「イオラっ!!」

「あ、ちょっ!」

 

 フィナンが一目散に扉を開け、家の中へと入っていった。

 俺も追いかけるように家の中に入る


 暗い。

 明かりはガラスの無い窓から射しこむ僅かな日光のみ。

 

 足の折れたテーブルや椅子が散乱しており、大昔に誰か住んでいたことを思わせる。


「ねぇイオラぁ……大丈夫?」


 八畳ほどの部屋の隅の方で、フィナンの悲しげな声が聞こえてきた。

 

 ひと際くらい隅に目を凝らすと、その子――イオラがいた。


「……フィナ? あれ、なんで私こんなとこに……?」

「ボク達着いたんだよ、フーディリアに!」

 

 フィナンの声に、途切れそうな声で応じるイオラ。

 薄明りで容姿がはっきり分からないが、フィナンと同じ焦げ茶色のフードを身に着けているようだ。

 

 腰まで伸びた長い茶髪で、前髪ぱっつん。

 レモンの断面のような髪留めを付けている。


「そう……良かった……」


 どうやらまだ意識は残っているらしい。

 だがその凛々しい声に力はあまり入っておらず、とても弱々しい。

 

「……? フィナ。あの人……は?」

「彼は正人。ちょっとさっき色々あってさ、会ったばかりなんだ」

「そう……なの……」


 俺の代わりにフィナンが紹介してくれた。

 

「うん……まぁ深くは話せないけど、もう安心していいよ! 経緯はどうあれ、彼がボク達に食べ物をくれるらしいんだ!」


 とりあえずイオラの安否は確認できた。

 これで一安心。

 

「お腹空いたろ? すぐに何か食べさせてあげ――……イオラ?」

 

 フィナンの声のトーンが突然低くなった。

 肌寒かった空間がさらに寒くなった気がした。

 

「イオラ、イオラ。イオ……え、え? ねぇってば!! 返事しろよ!?」

「……………………」


 フィナンがいくら呼びかけようともイオラは返事をしなかった。

 

 嫌な予感が頭をよぎる。

 俺は二人のそばに急いで駆け寄った。


「……………………」

「ウソだよね……? ねぇ? せっかく二人で夢を叶えようって約束して、ようやくこの国に来たって言うのに……イオラ……うっ……うぅ」


 大粒の涙が、イオラのフードを濡らしていく。


「――まだ息してる」

「……え?」


 手の甲をイオラの口元に近づけると、本当に微かにだが吐息を感じた。

 そう言うと、フィナンもイオラの口元に耳を近づけ始めた。


「…………っ! ほんとだっ! イオラ!!」


 もう一度大声で呼びかけるが、返事は帰ってこない。

 

「たぶん意識を失ってるだけだよ。まだ間に合う!」

「ほんと? ほんと? 助かるの?」

「うん。でも急がないと……」

 

 どこか他に安全に休める場所を探さないと……。

 ここは肌寒いし、食べ物も無いから環境が悪すぎる。


「よいしょっと……」

 

 俺が宛を考えていると、いきなりフィナンがフラフラの状態でイオラを担ぎ始めた。


「急がないと……イオラが……。絶対助けるから、ぜっ……たい、に――」

「……っ!? フィナン!!」


 目の前でイオラを担いだフィナンが勢いよく倒れた。

 どうやらフィナンも限界が来たようだ。

 

 気を失っている。

 俺と追いかけっこしたせいでかなり体力を消耗したんだ。

 

「くっそ、どうすれば……」

 

 倒れた二人を見つめながら、頭をフル回転させる。


 どこか安全な場所……。

 民家……見ず知らずの人間を入れてくれる保証はない。

 宿屋……どこにあるか分からない。金もない。探している暇もない。

 学園……遠すぎる。

 

「――そうだ……!」

 

 もう()()()しかないかもしれない。

 元来た場所は……覚えてる!

 

「よし……。少しここで待ってて。すぐ戻ってくるから!」


 俺は二人にそっと言いかけて、飛び出すように家を出た。



************


 

 彼への苛立ちを抱えながら私は一足先に学園に帰還した。

 

 今すぐに教室に向かわねば。

 そう思った矢先、後から追いかけてきたココの声が聞こえてきた。


「うへぇあ……はぁ……しんどい……ティラ先生ずるいですぅ……」


 膝に両手をついて苦しそうに息を切らすココ。

 

「休んでる暇はありません。――それでココ。()()()()()()()状況は?」


 深呼吸して息を整えてるココに聞いた。


「ふぅ~……はい。負傷したのは二人――。二人は軽い火傷を負ったようで、保健室で治療した後、今は寮に帰宅してると思います」

「……そうですか、大事に至らないで本当に良かった」


 私は深く安堵した。

 良かった、()()()()()()()()()()

 

「ごめんなさい……私がもっと早く駆けつけていれば、うぅ……」

「貴方は何も悪くありませんよ、ココ。それより急いで調理室に向かいましょう。明後日の仕込みを間に合わせますよ!」

「ぐすっ……はいっ!」


 私は優しくココを慰め、早歩きで明後日の仕込みが行われている調理室に向かった。

 

 そう、この子は何も悪くない。

 全てあの男。あの男の責任。

 あの男さえいなければこんな事には……!


 料理の腕は認めます。

 ですが、精霊の力を使って生徒に手を出すなど、この世の理を曲げる絶対にあってはならない行為。

 人として――この世の生き物として失格です。

 

「校長は今回の件の事をご存じで?」

「はい……」

 

 ココの顔が暗く沈む。

 それを見て、だいたいの予想が脳裏に浮かんだ。


「……校長はなんと?」

「一ヵ月の出勤停止処分……だそうです」

「――っ、そうですか……」


 私は人の考える事を当てるのが得意だ。

 けど校長の意図だけはなぜか読めない。


 分からない。

 なぜあんな奴を解雇せず、この学園で生かしておくのですか。

 

 一体奴に何の価値があるのか。

 精霊の力を悪用して生徒に手を出す輩に、料理人を語る資格など無いでしょうに……。


 めずらしく私は苛立っていた。

 もういっそのこと私が校長に直談判して解雇させようか、とも思うほどに。

 それでもきっとあの校長は……。


 ようやく調理室の扉の前へとたどり着いた。

 扉の隙間からは、困り果てる生徒達の声が漏れていた。


「とりあえず今は、明後日の新入生歓迎会のビュッフェに間に合わせる事だけ考えましょう」

「はいっ!」

 

 とにかく今は忘れましょう。

 …………邪魔です。



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