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第八十三話 地下図書館

 「うーん……」


 エレベーターの入り口手前で俺は顔を上げながら、まじまじとレトロチックな文字盤を見つめていた。


 「地下に図書館……確かに学園の外から見てもそれらしき建物は見当たらなかったし……」


 そもそも学校に図書館なんて聞いたことがないから、なおさら驚いている。


 先ほどのマーロウの情報によれば、図書館へは少し特殊な行き方をしなければ辿り着けないらしい。

 と言っても難しい事ではない。ただ単にエレベーターの精霊に図書館に向かいたい、と一言告げればいいだけらしいのだ。

 しかしそれでも学園に地下図書館なんて、今でも信じられない自分がいる。そりゃ異世界だからと言えば全ての疑問が解決するのだが……。

 マーロウが嘘を吐くとも思えない。出会って間もないけど、信じて良い人だってのは第一印象で理解できた。

 ワクワクとドキドキを背負いながら、いざエレベーターへと乗り込んだ。


 「ゴ利用デスカ?」

 「え、えっと……図書館お願いできるかな?」

 「トショカンデスネ? カシコマリマシタ!」


 内心ほっとし、本当にあるんだという感情と共に期待感が膨れ上がった。

 そういえば地下って何フロアまであるのだろうか。素朴な疑問をエレベーターの精霊に問いかけた。


 「ねぇ、地下って何フロアまであるの?」

 「チカハ、トショカンガアル、ビーイチ、ノミトナッテオリマス!」

 

 ガコンと機械的な音が鳴ると同時にエレベーターが上下に一瞬揺れる。


 「へーそうなんだ、じゃあすぐ着く――」

 「サガリマス。キケンデスノデ、テスリニツカマッテクダサイ」

 「はい?」


 言葉を遮るようにエレベーターの精霊が注意喚起した。

 途端エレベーターはゆっくりと下がり始めた……かと思いきや、急激にスピードを上げ下降し始めた!


 「えぇナニコレちょっと早すぎない!? 大丈夫!?」

 「ダイジョウブデスヨ! ……テスリニツカマッテサエイレバ」


 にっこりと笑みを浮かべながら言う倒置法の言葉が、今はとてつもなく恐ろしく感じた。


 まだまだ下がるエレベーター。さながら何とかランドの何とかマウンテンの様な絶叫アトラクションにでも乗っているかのような恐怖感に襲われ、身動きすら取れず、ただただ手すりに掴まっているしか出来なかった。

 

 永遠とも感じる時間は過ぎ、ようやくエレベーターは止まった。


 「つ、着いた……?」

 「ハイ! ビーイチフロア、トショカンデス!」


 完全にエレベーターは止まっているはずなのに、まだ下がってるという錯覚に陥ってしまう。

 油断していたせいで思わず低くなった腰を上げる。こんな絶叫アトラクションなんて聞いてないよマーロウ……。あとで会ったら問い詰めてやろう。


 「ドアガヒラキマス、ゴチュウイクダサイ!」


 少々ふらつきながらも、開く扉の前に立つ。

 開かれた扉の先に見えたものは――。


 「これが……ガストルメ料理学園の『地下図書館』!」


 エレベータから降り、二、三歩歩いて図書館の全景を見渡す。

 フロア自体は長方形で床はチェック柄の大理石。顔を上げると五階まで吹き抜けで、五階とも三百六十度びっしりと棚に本が収められている。その本の量はまさに圧巻。感動の言葉も忘れてしまうほどに。

 元居た世界で例えるとするならば聖堂だろうか。図書館なのに神聖さすら感じてしまう。


 「うちの学園の地下にこんなすごいところがあったなんて……。これはもしかしたら良いヒントが見つかるかもしれない!」

 

 早速、料理に関する本を探す小さい冒険に出た。

 しかしその冒険も、この膨大過ぎる本のおかげで、あっけなく幕を閉じようとしていた。

 

 「多すぎ、何この量……。とてもじゃないけど、これじゃあコンテストまでに良い資料見つからないよ……」


 俺はひたすら探し回った。時間にして二時間くらい。

 料理の本を探すのにはさほど困らなかった。だってこの図書館にある本、全部料理に関する本っぽいし……。

 しかし、二時間くらい本を漁りまくったが、きっとここにある本の一割も探しきれてないはずだ。これでは時間がいくらあっても足りない。

 良さそうな本が無かったわけでもないのだ。ただピンと来るものがほとんどなかった。


 俺は近くにあった丸太椅子に腰かけ、ため息を一つこぼした。


 「あーあ、せっかく来た図書館だけど、ここまで量が多いとは思わなかった……。早くレシピを考えないと、こうしてる間にも練習の時間がどんどん減ってきてる……はぁ」

 

 頭の中で二週間という言葉が渦の様にグルグルと回る。焦りと不安が募る中、もっと早いうちにこの地下図書館を知っていればという後悔も次第に生まれていた。

 

 「優勝へは長く険しい道のりになりそう――」

 

 どこからかゴトっと物音が聞こえてきた。


 「……そこを通してください!」


 同時に近くで誰かの囁く声が聞こえてきた。

 よく聞き取れないけど、誰かがもめているようだ。俺は気になり、声のする方向へ忍び足で近づいてみた。

 本棚の陰からひょっこり顔をのぞかせ、その現場を確認する。


 「大体お前みたいな弱虫がコンテストに出たって、すぐ落選に決まってるだろうが。だからその本は俺が代わりに貰ってやるよ」

 「あんちゃんの言うとおりっす~」

 「図書館ではお静かにぃ、へっへっへ」

 「い、いやです! やっと見つけたんですから!」


 女子生徒が不良トリオに絡まれている。その女子生徒は一冊の本を大事そうに両手で抱きしめながら、必死に抵抗していた。


 「(あの本、料理のレシピ本みたいだ。しかもあの不良のリーダーっぽい奴が言ってたこと…………よし!)」


 その女子生徒が置かれている状況を察したうえで、正人はその場から一時去った。


 「おら、早くその本さっさとよこさねーと、図書委員の奴らが来るだろうが!」

 「いやっ言ってるじゃないですか! 私だって、変わりたいんです、これを期に……。だから絶対に渡しません!」

 「……なんだぁその目はぁ? クソ犬が……さっさとよこせば痛い目みないで済んだものを……。おい、お前ら。かるーく痛い目見せてやれ」

 「く、うぅ……」


 半泣きの女子生徒に、不良リーダーの仲間が不敵な笑みを浮かべながらジリジリと迫り寄ってくる。

 もうダメかも。女子生徒がそう思った刹那、不良トリオの背後から狼の唸り声が聞こえてきた。


 「グルルゥ……」

 「ヒィ! お、狼!?」

 「ななななんでこんなところに!?」


 リーダーの仲間が、牙をむき出しにしながら唸る狼を見て酷く怯える。しかしいっぽうリーダーだけは意外にも冷静だった。


 「いやちげぇ、ありゃぁ――」


 その瞬間、狼が一気に女子生徒の元まで走ってきた。そして一瞬で、大事そうに持っていた料理の本を奪い、咥え去っていった。


久しぶりの更新です、大変お待たせしました!

よければ感想レビュー等よろしくお願いします。

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