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第八十一話 交換条件

 「……え?」

 「だから俺が手伝ってやるって言ってんだよ」


 なぜそうなる、と心の中で文句を言う。


 「お前がコンテストの試作品を作って俺が味見をする。その礼にお前は俺にレシピを教える。なんの問題もねぇ。フィフティフィフティの交換条件だ」


 理にかなった交換条件に思わず納得してしまいそうになる。


 こう見えてルボナード先生は国家精霊料理人(オムニバス。腕も料理を見極める舌もプロ中のプロだ。

 これ以上の味見役はいないと言っても過言ではない。

 きっと優勝への一番の近道になる。

 それにその御礼が唐揚げのレシピだけで済むのなら、これ以上美味しい話はないだろう。


 しかしそれだと非常に良くない。

 何が良くないかというと、万が一俺のコンテスト料理の味見役が国家精霊料理人だと皆に知れ渡った ら、間違いなく白い目で見られるに違いない。

 せっかく優勝しても、バレたら一気にボツ。

 評価もだだ下がり。

 金輪際(こんりんざい)コンテストに参加できなくなる可能性だってある。


 というかそれ以前に断るつもりだから、そんな心配しても意味がない。


 「お断りします。今の俺がどこまで行けるのか試してみたいんです。だから味見役は俺一人で充分です」

 「……ちっ、そうかよ」

 「じゃあ俺もそろそろ調理の準備に入りますので」


 ペコリと頭を軽く下げ、ルボナード先生に背を向け持ち場に戻ろうとする。


 だが何故か胸がモヤモヤする。

 以前街でルボナード先生に会って、レシピを教えろと脅された時は、こんな先生に教えてたまるか、と思っていたが、今のルボナード先生は以前よりはほんの少し、本当に雀の涙ほどだと思うが丸くはなった。

 今の先生になら別に教えてやっても良いかな、なんて思い始めている自分がいる。


 それにこのまま下がるというのも、なんだか少し可愛そうに思える。


 なら、と思い俺は持ち場に戻る足を止めた。


 「……コンテストの試作作りがひと段落したら、教えてあげても良いですよ?」

 「……何か企んでやがんな?」

 「別に何も企んでません。ただレシピを教えてもらえなかった先生が可哀想に見えただけです」


 地雷を踏んでしまったか? と思いルボナード先生の顔を見てみるが、その表情は怒りの形相ではなく、唖然とした表情を浮かべていた。


 「――ふはははは! 心底ムカつく生徒(やつ)だぜテメェはよ! いいだろう、それで手を打ってやるよ。ぜってぇ忘れんじゃねぇぞ?」

 「分かってますよ……」

 

 これで教えなかったら、まためんどくさい事になるのが目に見えてるから、しっかり覚えていなくては……。

 

 「よしっ! んじゃあ今日の授業始めんぞオメェら! おいマサト! テメェも早く準備に取り掛かれ!!」

 「先生のせいで出遅れたんですけどね……」

 「あぁ? なんか言ったか?」

 「いいえ何もー」


 いつにもまして気合の入っているルボナード先生は、いつもより倍うるさく、どこか上機嫌そうに見えた。


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