表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/96

第七十八話 目指す場所

 マーロウの手のひらから紫色に光る時計が浮かび上がる。

 

 「――っと、そろそろ行かないと。それじゃあなマサト。お互い頑張ろうな」


 マーロウは去り際に手を振り、この場から走り去っていった。


 「うん、じゃあ……あ、しまった、俺も急いで食堂行かないと!」


 幸いにもここから自分の部屋は近かった。

 俺はすぐに荷物を置き、エレベーターに乗って急ぎ足で食堂へと向かった。


 「――はぁはぁ……ふぅ~……せ、席は……!」


 食堂の大扉を開き、中へと入り空席が残っているか辺りをを見渡して確認する。


 一階、満席。

 

 「くっ! じゃあ二階だ!」

 

 二階のテラスに空席が残っていることを願い、小走りで階段を上がる。

 

 二階テラス、満席。

 空席、無し。


 「遅かったか……」


 人が座っていない席があるにはあるのだが、荷物が置かれているところを見ると、既に先客がいるようだった。

 別に席が無いからと言って昼食が食べられなくなったわけでもないし別にいいのだが……。


 「はぁ……仕方ない、適当に手軽に食べれそうなの買って外で食べよう……」

 「あれ? マサトだ!」

 「ん?」


 後ろの方で馴染みの声が聞こえてきた。

 もしやと思い、振り返ってみてみる。


 「こんなところに突っ立っててなにしてんの?」

 「なんだフィナンかぁー」

 「むー、なんだとはなんだよぅ」


 そこには昼食であろう料理のお膳を持ったフィナンが一人立っていた。


 「あれ、今日は一人なんだ」

 「ううん、イオラもいるよ、ほらあそこ」


 フィナンは下の階にいるイオラを指差す。

 確かにその方向には、列に並んで待っているイオラの姿があった。


 「僕たちさっき来たところなんだ~。もう少し遅れてたら席が埋まるところだったよ~」

 「へ、へーそうなんだー……」

 「――ははーん、まさかマサト……一足遅かった?」

 


 にやにやした表情でフィナンが顔を覗かせる。


 「うっ、そ、その通りです……ちょっとトラブルがあってね……」


 図星を突かれてますます気分が落ち込む。

 急いで走っていた俺の方が悪いのでなんともいえない。


 「ふ~ん。じゃあ一緒の席で食べるかい? ほらあそこの席」


 フィナンの視線の先には、先ほど荷物で席取りされていたあの席があった。


 「あそこ二人が取った席だったんだ」

 「そだよー。こほん、さてどうかなマサト君。どうしてもって言うなら席を分けてあげてもいいけど? そうだなー、マサトの手料理で手を打つっていうのは――」

 「――あ」


 ふとフィナンの頭に目を向けてみると、そこには『フィナン強制目覚まし精霊(どけい)』が歯をむき出しにしてちょこんと立っていた。

 そしてフィナンが気づくより早く、その(きら)めく小さい牙はフィナンの頭にかぶりついていた。


 「あ痛ぁあ!!?」

 「こらフィナ! マサトを困らせちゃダメじゃない! ごめんなさいマサト、一緒に座りましょう?」

 「ありがとイオラ」


 一仕事終え、心なしか満足げなミンティがイオラの元へと飛び移る。

 

 「ちょっとからかっただけじゃないのさ~。あとせめて手でチョップとかにしてほしいんだけど~……」

 「だって私、今手塞がってるんだもの」

 「ぶ~」


 涙目のフィナンは両手に持ったお膳を落とさぬよう、その場で痛そうにしゃがみ込んでいる。

 何はともあれ席が確保できてよかった。


 下の階に降り、カウンターで適当な昼食を注文し、再び二階へと上がり、二人がいる席に着く。

 そしてようやく昼食へとあり付けた。


 「二人ともありがとう。俺が来た時にはもう席が埋まってて、どこで食べようか困ってたんだ」

 「いいのよ、これくらい。それにしても、マサトが出遅れるなんて珍しいわね」

 「うん、ちょっとさっき廊下で人とぶつかっちゃって……」

 「そうだったの」


 さっきのマーロウとの一連のやり取りを振り返り、俺は大事なことを思い出す。


 「そうだ……! 二人とも大変なんだよ!」

 

 思い出した途端、その場に勢いよく立ち上がる。

 俺がいきなり立ち上がったせいで、食事中のフィナンがビックリして喉に食べ物を詰まらせる。


 「んー! んー!!」

 「あ、ごめん」

 「もう、頬一杯に詰め込むからよ……ほら飲み物。それで大変って何かあったの?」

 「実は――」


 二人に先ほど廊下に貼られてあったポスターの事について話した。


 「学内料理コンテスト……そう、もうすぐなのね……!」

 「優勝したら何がもらえるんだろう~? 腕がなるねぇ」

 「今の自分たちがどこまでできるか分かんないけど、出てみる価値はあるよ、きっと」


 拳をぎゅっと握りしめ、見つめる。


 「そしてあわよくば、優勝を狙う……!」

 「私もそのつもりよ」

 「みんながライバル、だね!」


 目指す場所は皆、優勝一択だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ