第七十六話 とあるポスター
入学式から半年が経とうとしている、とある気持ちの良い昼下がり。
正人は教室でスティーニ先生による精霊学の授業を受けていた――。
「――このように、精霊という存在は我々にとって必要不可欠であり――」
瞼が重い。
スティーニ先生の声が途切れ途切れに耳に入ってくる。
ちょうど日の光が当たる席で授業を聞いているせいで、俺はこくりこくりと、既にまどろみ状態に陥っていた。
入学したての頃は緊張と不安のせいで授業中眠くはならなかったのだが、半年ほど経った今、心に余裕が出始め、緊張も解け、思わず睡魔に負けてしまう事が最近よくある。
というのも、入学式からこれと言ったイベントが無く、暇を持て余している事も事実だ。
確かに授業や調理実習も大事な事なのだが、なんだが物足りない気分だった。
もっとこう、胸躍るイベントでもやらないものかと、最近常々思う。
「……あと五分……」
手のひらに浮かび上がる時計を確認しながら必死に睡魔と戦う。
この授業が終われば午前中の授業はクリア。
晴れて昼休みにあり付ける。
「あと一分……」
授業終了の五分前が一番長く感じるのは俺だけだろうか。
一分が数十分にも感じてしまう。
秒針を目で追いながら、心の中でカウントダウンをする。
すると秒針が零時を指すと同時に、いつものように授業終了の合図である時計のアラームの様な音が学園中に響き渡った。
「それではこれにて精霊学の授業を終了します。皆さん復習を忘れないように。では……」
スティーニ先生は軽く礼をし、教室を出て行った。
「う~ん! おわった~!」
腕を正面に伸ばし、伸びをする。
不思議と授業が終わると眠気が吹き飛んでしまう。
一体なぜだろうか……。
そんなことより昼休みだ。
教科書をトントンと机上で整え立ち上がり、背中を後ろに反らせ、さらに伸びをする。
約五十人ほどが授業を受けていた教室を後にし、俺は寮へと帰還し始める。
帰り道の廊下の途中、なにやら人だかりができているのを遠目で確認する。
「なんだろ、あの人だかり……」
近くに行って見てると、皆、掲示板に貼ってある何かを見ている様だった。
しかし、人だかりのせいで、それを確認するのは難しかった。
唯一分かるのは皆の目がキラキラと輝いている事だった。
「ますます気になる……よし」
意を決して、人ごみをかき分けながら掲示板まで進むことにする。
「――ふぅ、やっと来れた……」
やっとの思いで掲示板の前に出てくることに成功した。
そしてそれを見た――。
『一学期恒例 ガストルメ料理学園 学内料理コンテスト 近日開催予定! 乞うご期待!』
一瞬にして俺の物足りない気分が埋まった。