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第七十四話 悪縁

 ルボナードの暴走調理実習から二カ月後の朝――。

 朝食を済ませ、部屋で授業に向かう準備をしていたら、ノックとイオラの声が聞こえてきた。


 「マサト、準備できた? 急がないと遅刻しちゃうわよ」

 「今行くよー」


 扉を開けるとコックコートに着替えたイオラが立っていた。

 おまたせと詫びた俺は、イオラと共に調理実習室へと向かった。


 他愛もない話をしているうちに今日の実習室へと到着する。

 

 荷物を机に置き、俺とイオラはいつものように包丁の手入れを確認する。

 

 「……よし。刃こぼれ無し、錆も無しっと――」

 

 ふと手を見てあることを思い出す。


 「私もよし……マサト? どうかしたの?」

 「いや、そういえばあれからだいぶたったなーって」

 

 俺は火傷を負った手を見つめながら二カ月前の出来事を思い出していた。

 

 あれから二カ月。火傷の後はきれいさっぱり無くなっていた。

 

 「ルボナードはどうなったんだろうね」

 「……どうかしらね。きっとただじゃ済まなかったはずよ。だって私達を焼け殺そうとしたのよ? あの暴力教師。辞めてくれたほうが私はせいせいするわ」

 

 イオラはムスッとしながら包丁ケースを閉じた。


 尋常じゃないほど毛嫌いしている。

 あそこまで悲惨な指導を見せつけられたのだ、無理もない。


 それにしても、あの男はどんな処分を食らったのだろうか。

 校長は私に任せておけと言ったが、さすがに殺してはいないはず。

 あの校長はそんな惨いことをするような人じゃない、と思う。


 だとするとやっぱり、学園追放が一番しっくりくる処分内容か。

 

 今思えば、本当に変に縁がある男だった。


 最初に会ったのは薄暗い路地裏だった。

 曲がり角を曲がって、何にぶつかったかと思ったら、二メートルもある鬼の様な形相をしたあの男だった。

 あの時既に、この男には関わらないほうが良いと悟っていた。のだが、それからも何回かあってしまった……。


 特に街中の本屋で唐揚げのレシピを教えろと脅された時はビックリした。

 結局教えることなく、あの場はルポネさんに助けられ事なきを得た。


 そして極めつけは二カ月前のルボナードによる調理実習。

 まさかあの男があの時の担当教師だとは思ってもみなかった。


 だがこの悪縁ももう終わった。

 あの男はきっともうこの学園を去ったに違いない。

 

 俺はホッとして包丁ケースを閉じた。


 「――もうすぐ授業開始ね。今日の先生はだれかしら?」

 「今までの流れからして、たぶん今日はラテ先生じゃないかな?」

 

 いつものように俺達は、ランダムに来る先生を予想する。

 特に当てたところで賭けもしていないが、これが日課となってしまっている。


 しかし、待てども待てども今日の先生が入室してこない。


 「……完璧に遅刻ね」

 「……そうだね」


 この遅刻の感じだと絞られる先生は二人だ。

 一人はプッタ先生、そしてラテ先生だ。

 

 あの二人は、なんというか少し能天気というかいつもマイペースなのだ。

 

 いつもの事か、と思いながら仕方なく待っていると、廊下から足音が聞こえてきた。


 ようやく来たなと思い、どちらの先生が入ってくるのかと生徒全員で扉の方に視線を向ける。


 扉がガラガラと勢いよく開かれた――。


 「え……」

 「な……」


 開いた口が塞がらないとはこの事を言うのだろうかと強く思った。

 俺達生徒は()()()を見て固まった。


 「授業を始めるぞ、クソガキども」


 一体誰が予想したのだろうか。

 実習室に入ってきたのは、二カ月前、大惨事を引き起こしたあの暴力教師、ルボナードだった。


 「なんだテメェら、その幽霊を見たような間抜けなツラは?」

 「な、なんで貴方が……!?」


 イオラは驚きの表情を浮かべ声を震わせながら言った。


 「あ? んだよまたテメェらか。ま、いろいろあってよ、めんどくせぇがまたここの教師をやる事になった」

 「う、うそ……!」

 「だって、あなたは学園を追放されたんじゃ……!」


 俺がそう言うと、ルボナードは不思議そうな表情をした。


 「あぁ追放? 何のことだ? んな事より授業始めるぞ。見てみろ、もうこんなに時間が経っちまってる」


 あんたが遅刻したせいだと突っ込んでやりたいところだが、色々整理が追い付かなかった。

 


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