第七十一話 変える事ができるのは
「校長……いまなんと……?」
予想外の処罰の内容にティラは動揺している。
ルボナード自身もあっけにとられて口を開けている。
「二カ月の出勤停止。それが今回のルボナードに対する処罰の内容だ」
「つ、つまり……ルボナードには引き続き学園で教師を続けてもらう、と……?」
「うむ、そういうことになるな」
処刑でもオムニバス脱退でもなく、まさかの二カ月の出勤停止のみ。しかも処罰が満了したら引き続きこの学園で教師を続けてもらうというのだ。
前回の処罰より一ヵ月伸びたには伸びたが、生徒達にこれでもかという恐怖を与え続けたにもかかわらず、この程度の処罰で済んでティラは納得いかない様子だった。
校長が何を考えているのか分からない……。
ティラは心の中で、自分がもし校長だったら、即この男を学園から追放するのに、と強く思った。
「……いいんだな本当に? 撤回しておくなら今のうちだぜ?」
「俺はお前を信じてこの処罰を下したんだ。二言はない」
「……ふんっ、どこまでも甘ぇ校長だなぁ……」
ルボナードはそう言いながら目を瞑り、仰向けになり手足を大の字に広げた。
「保健室の先生を呼んである。もうじき到着するから手当を受けるといい」
「……余計なお世話だ」
「ふっ、じゃあ俺達はそろそろ行くとしようか」
「は、はい……」
実習室の床に大の字に寝そべるルボナードを一人置いて、校長とティラは実習室を後にした。
廊下に出て、しばらく歩くとティラは立ち止まり、抱いていた疑問を校長に問いかけた。
「校長」
「む、どうしたティラ?」
「……なぜ彼をこのままにしておくのですか? これでは前回と変わりません……処罰が終わったら、きっとまた――」
ティラは思いつめた表情でそう言った。
しかし校長は、自信気な表情でこう言った。
「本当にそう思うかね?」
「え……?」
「心配するな、二か月後になれば分かるさ」
校長を信頼していないわけではない、だが、何を根拠にそう言ったのかティラにはあまり理解できなかった。
「それはどういう……」
「……なぁティラ。マサト君、なかなかに度胸があると思わないか? 彼はきっといい料理人になれるな! はっはっはっ!」
校長は高笑いをしながら再び歩き始めた。
「……? え、えぇそうですね――」
ティラは校長のその言葉を聞いて、何かが引っかかった。
そして先ほど少しだけ疑問に思った校長の一言をふと思い出す。
確か校長はさっきルボナードに、ルボナードの前にマサト君が来なければどうなっていたことか、と言っていた。
おかしい、なぜ校長は、マサト君がルボナードを庇ったことを知っているのだろうか。
今だって、度胸がある、なんて言葉、その場にいなければ言えない発言のはずなのに……。
「……はっ!」
ティラの中で、点と線が繋がったように答えが導き出された。
「まさか校長、既にあの場所に……!?」
「……俺が出てルボナードを止めるのは簡単だ。だがそれでは何の意味もない。ルボナードを変えることができるのは俺じゃない。マサト君だ」
校長は最初からあの実習室にいた。いいや、いたというよりは監視していた。
おそらくロマネクスを通じて監視していたのだろうとティラはふんでいた。
「……まさか、マサト君がルボナードを庇う事を予知してて今までルボナードを追放しなかったのですか……? ……ですが、私にはあの男が変わるなんて――」
「それは後のお楽しみだ」
校長はティラの方を振り返ってニヤリと笑った。