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第六話 パートナー

修正完了しました!

 顎に手を当てながらさっきの店主がやっていたことを思い出す。


 急に現れた光の玉。

 それがグルグルとジョッキの周りを回り始めたかと思うと、中のフルーツがミキサーのように攪拌して、一瞬にして極上のミックスジュースへと様変わりした。

 

 透明の蓋をしているかのように、周りには一切飛び散ってはいないし、明らかに何かしらの力が働いている。


 ここは何でもありの異世界……。

 という事はやっぱりあれが『魔法』というやつなのだろうか……。

 

 すると、にまにま顔のティラがひょっこりと顔を覗き込んできた。

 

「ふっふーん。さっきのが気になって仕方がないって顔してますね?」


 俺は思ってることが顔に出るタイプの人間らしい。

 ここに来る前にもティラに心を読まれたような気が……。


「だからなんで分かるのさ……でもうん、当たり。何なのさっきの光の玉?」

「あれは『精霊』と呼ばれるもの――。私たちを支えるパートナー的存在なんですよ」

「精霊……?」

「詳しい事は多分授業で習うと思いますが、この際ですし少しだけ予習しておきましょうか!」


 そう言うと、唐突にティラのミニ授業が始まった。

 

「先ほど言ったように、精霊はパートナー――。私たちの日常生活に欠かせない存在です。建築、医療、移動手段、そして料理。他にもいろんな場面で精霊たちの力を借りて、日々助け合いながら我々は生きています」

「なるほど。やっぱり魔法みたいな感じ?」

「掴みはそんな感じです。ですが、精霊と契約していなければ力を借りる事はできません。つまり、精霊というパートナーがいない人は力を使えないというわけです」


 という事は、ここに来たばかりの俺は、まだ精霊と契約していないわけだから、さっきのジュース屋のような不思議な力は使えないってことか。

 

 そんな大事なパートナーを物で例えるのは失礼だが、分かりやすく例えると『スマホ』みたいなものなのだろうか。

 あれも確かに無くてはならない身近な存在だ。

 一応持っては来たが、ティラの言った通りこの世界では役に立たなさそうだ。

 電波絶対入らないし。やっぱり置いて来ればよかった……。


「先ほども言ったように精霊の力を借りて料理をすることもできます。もちろん精霊無しでも料理することはできなくもないですが、力を借りて料理することによって、普通はできないような技術が可能になります」

「あ、さっきのミックスジュース!」

「そうです! 食材を攪拌したり、急速に温めたり冷やしたりすることも可能になります。正人さんには心当たりあるんじゃないですか?」

「心当たり……俺の世界にあった、ミキサー、電子レンジ、冷蔵庫……とかかな?」

 

 確かに、あんな瞬時に、かつ綺麗に跡形もなく攪拌できるのは精霊の力以外無理だろう。

 きっとミキサーなどでは時間がかかる上に塊も残って、混ぜ具合に(むら)が出てしまう。

 機械と精霊の力の差がはっきり分かる。


「はい。それらの能力が一つに凝縮されたのが『精霊の力』です。ですが、複数の機能を同時に行うのはかなり難しく、多少なりとも本人とパートナーのレベルが必要になってきます」


 まさに万能だ。

 元の世界の物は基本、一個に付き一つの能力しか持ってはいなかった。

 けど精霊の力を借りることによって色んな能力を使えるようになるわけだ。

 こう言っては何だけど、元居た世界より便利そうだなぁここ。


「それと、精霊というのは人の心に非常に敏感な生き物ですので、契約する際は気を付けてください。あくまで立場が上なのは精霊なんです。誠意と礼儀をもって契約するようにしてくださいね?」

「わ、分かった、気を付ける。誠意をもって礼儀正しく、だね」

「はい。何事もリスクは生じるもの――。もし悪意を持って契約しようものなら必ず痛い目を見ます。まぁ正人さんの場合は全く心配ないと思いますが、一応警告だけ」

 

 精霊にとってどの程度が悪意なのか基準が分からないが、とにかく今言われた、誠意と礼儀。この二つをしっかり胸に刻んでおこう。

 

 俺ならきっと大丈夫……のはず?

 やばい、自分の心が分からなくなってきた。


「ふふっ。そんな深刻そうにしなくても、正人さんならだーいじょーぶですよっ! 私が保証しますとも!」

 

 また読まれた……。

 

「あ、ありがと……。あ、そういやまだ聞いてなかったけど、入学式っていつ?」

「明後日ですよー」

「明後日……って、いいの? こんなにのんびりジュース飲みながら歩いてて? 入学手続きとかあるって言ってなかったっけ?」

「あーんなの事務所でちょちょいのちょいですよ! すぐ終わります。最悪、校長がなんとかしてくれます! ……たぶん」

 

 小声で最後『たぶん』と聞こえた。

 ティラがそう言うんだったら、きっと大丈夫なんだろうとは思うけど……。


「突然のトラブルが起こらない限り間に合いますって! ですので、のんびりこの街を観光しながら学園に――」

「ティラ先生ぇぇえええ!! 大変ですぅぅううう!」


 突然前方から情けなさそうにティラを呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「なんか頼りなさそうな声が聞こえた……」

「おや、今の声はもしや……」

 

 前方から女子が手を大きく振りながら猛スピードで走ってくる。

 学生服を着てる……?


「はぁ、はぁ……先生ぇ……良かった見つかって……」

 

 その女子は息を切らしながら目の前で立ち止まった。

 金髪おさげで、眼鏡をかけた、ドジっ子というワード以外当てはまらないであろう女子。

 学園の生徒なんだろうか?


「ココ! どうしたんですか? そんなに息切らせて?」

「ゼェ……ハァ、じっ……つは……うぇっぷ、ハァ……」

「喋れてないじゃないですか! とりあえずこれ飲んでください!」

「……ありが……うぇっ……ござっま……」

 

 ティラは持ってたジュースを、『ココ』という苦しそうに喋るに女子に上げた。

 

 この人あの学園からノンストップで走ってきたのだろうか。

 まだ割と距離あるのに、凄いな。


「んッ……んッ……っはぁ~! 生き返ったぁ……」

「教えてください、何があったというんです?」

「実は……」


 一気にジュースを飲み干し、ようやく落ち着いたかと思いきや、再び顔が青ざめ始めた。


「ルボナード先生が、明後日の入学式の仕込みを中止して、どっか行っちゃったんですよぅ!」

()()ですかっ!? それで生徒は無事なんですか!」

 

 ティラは険しい表情をしながら、涙目になってるココに聞いた。

 無事、とはどういう意味なのだろう?


「じ、実はぁ……――」


 ココは周りをキョロキョロした後、ティラにコソコソと耳打ちし始めた。


 離し終えた途端、ティラの表情が今まで見たことのない表情に変わった。

 理由はしらないけど、あれは、()()()()()()()顔だ。


「……ちっ、あのパワハラ教師が……。それで仕込みの方はどのくらい進んでるんですか?」

「メインビュッフェの仕込みは、もう八割ほど終わってるみたいです。けど……」

「デザートビュッフェの仕込みがピンチということですか……」

「うぅ、はいぃ……」

 

 ティラは顎に手を当て、何かを深く考え始めた。


 場の空気がどんどん重くなっていく。

 状況が全く把握できない俺は、ただただ突っ立て見ているしかできなかった。


「指示を出す人がいないとさすがに――はれ、貴方は……?」


 ようやく俺の存在に気付いたようだ。

 ティラが我に帰り、俺の事を紹介し始めた。


「あ、この人は、いせか……じゃない。遠い国から遥々やってきた、明後日入学する予定の――」

「桐宮正人です。よろしくお願いします」

「わわっそうだったんですか!? すいません慌ただしくしちゃって! わたし、生徒会および入学式実行委員、二年のココと言いますっ! よろしくです!」

 

 生徒会の人……しかも二年。

 という事は俺より年下ってことか。

 あまり年下に思えない……。


「それにしても、『キリミヤマサト』さんって……とても不思議な名前ですね? 遠い国の名前って感じがします」

「あはは……ソウデスネー……覚えずらいと思うので正人だけで大丈夫です」

「? 分かりました」


 ティラ、さっき異世界って言いかけたけど止めたな。

 ということは、俺が異世界から来たっていうことは秘密にしておいた方が良いってことかな。


「ハッ、こうしちゃいられないんだった! ティラ先生、今すぐ戻って指示を出してください! じゃないと明後日までには到底……」

 

 ココは困り顔でティラに深く懇願した。

 

「……仕方ありません。分かりました、行きましょう」

「せ、せんせぇぇありがどうございまずぅ……」


 不安の線が切れたのか、ココは涙を流しながら喜んだ。


「と言うわけです正人さん……今すぐに戻らないといけなくなりました……」

「いいって、気にしないで! なんか大変な事になってそうだし急いで行ってあげなよ。あとは俺一人でも学園に行けるから大丈夫」

「すみません……。学園の玄関に入ったら事務室があるので、そこで入学手続きを済ませてください」

「おーけー分かった!」


 ティラは俺に申し訳なさそうに頭を下げ、背を向けた。


「それでは、くれぐれもお気をつけて! ――先行ってますよ、ココ!」

「はいぃ! ひぃぃまた走らないとぉ……あ、それじゃあまた入学式で。失礼します!」

 

 二人ともそう言い残してこの場から去っていった。

 

 二人を見送った俺は一人取り残されてしまった。さて、どうしたものか……。

 

 ヒュゥオオオゥゥ!


「ぅわっ!」


 突然強い風が笛のような音を立てて吹いてきた。

 その影響で周囲の市場のテントがバタバタと強くはためく。

 

 しかしそれは一瞬で過ぎ去った。


「変な風だったな。異世界って何が起こるかほんと予想できない……」

 

 風の影響でくしゃくしゃになった髪を整えながらそう呟き、これからどうしようか考える。


「うーん……よっし。とりあえず今日中には絶対間に合うから、街を観光しつつ、のんびり向かうとしよう!」

 

 俺は心を弾ませながら、異世界を観光し始めた。

 

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