第六十七話 猛炎の教室
突然の出来事に生徒達は、俺とイオラを除いて、実習室の後ろへと非難する。
「グルルゥ……」
「テメェら……いったい何の真似だ」
「その言葉、そっくり返しますよ。先生、いったい何の真似ですか?」
鬼の様な形相のルボナードと睨み合う。
威圧感が半端ない。押しつぶされそうだ。でもそれより今は、この男に対する怒りの方が勝っていた。
「見て分からねぇか? 物覚えの悪ぃ生徒を指導してたんだよ。なんか文句あんのか?」
「大ありです。まずイオラは物覚え悪くなんかないですし、むしろ俺なんかよりずっと勉強熱心です」
「マサト……」
「それを見抜けない貴方みたいな暴力教師は、指導者、そして料理人にも向いていないと思います。今すぐにこの学園から出てってください」
他にも沢山言いたいことがあるが、早くこの場から離れなければ俺もイオラも危険だ。多分今の言葉で、またこの男に火をつけてしまったに違いない。
「さ、イオラ。早く後ろに――」
「……どいつもこいつも……腕が無ぇくせに出しゃばりやがってよ……」
俺が背を向けてると、後ろの方からものすごい熱が伝わってきた。思わず振り返ってみると、そこには炎に包まれた、まるで悪魔の様なルボナードの姿があった。
熱風がルボナードの方から止めどなく溢れてくる。俺は態勢を整えようと、近くの調理台に手をついた。
「あっつ!!」
手をついた調理台は、ルボナードが放つ熱風によってかなり熱くなっていた。俺は余りの熱さに手のひらを火傷してしまう。
「マサト! 大丈夫!?」
「このくらい大丈夫……」
「――ちょっとルボナード!!」
怒り狂ったルボナードの前にロゼが立ちふさがった。
「あんたこの子達、本気で殺す気じゃないわよね!? さすがにそれはヤバいわよ!!」
ロゼは止めさせようとルボナードを必死に説得している。
すると、後ろにいるイオラが口を開いた。
「あの精霊、さっき私に向けて炎を放とうとした時、悲しそうな目で謝ってきたの……」
「え……?」
「だからきっとあの精霊も本意じゃないのよ。本当は人を傷つけたくないんだわ……」
必死にルボナードを説得している姿を見ていると、確かにそう思えてくる。
そういえばさっきの炎も簡単に相殺できた。オムニバスが扱う精霊の炎が、あそこまで簡単に打ち消せるわけがない。
手を抜いていたんだ。俺達を最小限傷つけないために。
「うるせぇっ!! テメェは黙って俺に従ってればいいんだよっ!!」
「うぐっ!!」
暴走しているルボナードは、ロゼの首を思い切り掴んだ。ロゼは苦しそうにもがいている。
「大人しくしてろ。お前は黙って俺に力を注ぎ続ければいいんだよ。こいつらをぶっ飛ばすまでな」
「最低……」
「くっ……」
ルボナードが近づいてくるにつれて、熱風の勢いがさらに増す。
俺は近づけさせないために、ロアにルボナードを止めるように指示する。
「ロアっ!」
「グルゥゥアア!!」
ロアは思い切り紫の炎をルボナードに向けて放った。だが炎はあっけなくかき消されてしまう。
「くそっ! ダメか!」
どんどんルボナードが迫ってくる。そしてついに、教室の後ろの方へと追いやられてしまった。
「キャアアア!」
「うぅ熱い……」
生徒達が混乱している。
右も左も炎に囲まれてしまい、とうとう逃げ場が無くなってしまった。
「出来の悪ぃやつは――」
ルボナードの炎が急に勢いを増し、いっきに俺達を覆う。
これを食らってしまったら大火傷。いや……最悪――『死』。
「消えろぉぉおお!!」
万事休す。そう思った瞬間、突然激しい突風が吹き荒れ始めた。
そして俺達を襲おうとしていた炎とルボナードに纏っていた炎が、一気に吹き飛ばされてしまう。
「炎が消えた……!? この風……まさか……!?」
ルボナードが答えにたどり着いた時にはもう遅かった。
今度は、見覚えのある鎧を着た精霊が現れ、ルボナードを押さえつけた。
「ぐあぁああ!!」
「愚かな。大人しくしてろ」
生徒の皆は何が起きたのかよく分からず、口を開けたまま、ただ驚いていた。
あの鎧の精霊は確か前に森で見たことがある。そう、たしかあの精霊は――。
「皆さん!! 大丈夫ですか!?」
心配しながら俺達の元に駆け寄ってきたのは、ティラだった。