表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/96

第六十一話 大ハズレ

 翌日――。正人は今日も調理実習があるため、調理室へと足を運んでいた。


 「おはようございま~す」


 やや眠たそうな声で挨拶をしながら実習室のドアを開けると、最初に目に飛び込んできたのはイオラだった。

 

 「あら、おはようマサト。今日は同じ教室ね」

 「おはよう、そうみたいだね」


 イオラがいる調理台へ向かい、包丁ケースを置いた。


 「よいしょっと」

 「ちゃんと包丁研いできた?」

 「もちろんだよ。ほらこの通り――」


 俺は自分の包丁ケースを開け、研いできた包丁を全て鞘から出し、調理台の上に並べて見せる。

 包丁は全部で三種類ある。手前から、小形(こがた)の包丁『ペティナイフ』。長い形状をしている万能な包丁『牛刀』。そして野菜を切るのに適した、薄い刃を持った『菜切包丁』の三種類。もちろん昨日夜遅くまで研いでいたため、ピカピカな上に切れ味も抜群だ。

 

 「自分の顔が映るくらいピカピカ……まるで鏡みたい……。さすがマサトね、隙が無いわ……」

 「昨日夜遅くまで研いでたからね」


 包丁というのは、料理人にとって命より大事な物……と言ったら少し大袈裟に聞こえるかもしれないが、大切な物に変わりない。

 特に俺は牛刀は大事にしている。これは、この世界で初めてもらった、ローザさんからのプレゼント。この世界で初めて手にした俺の最初の宝物だ。だから俺は、いつも日頃の感謝も込めて入念に研いであげている。


 「あ、そろそろ時間よ」


 イオラが時間を確認する。授業開始まで残り二分。そろそろ先生がやってくる頃だ。

 基本、実習内容は先生が来るまで明らかにされない。時間割にも『調理実習』とだけしか記されておらず、予習のしようがない。そしてもちろん、オムニバスの誰が来るかも分からない。

 

 最近生徒の中では、どの先生が来るか、という予想ゲームが流行っている。特に女子生徒達がいつも予想する先生が、パンザ先生だ。理由は、ただ会いたいからだろう。

 入学式の時にしか見かけたことが無いが、あの時の女子生徒達の反応は半端なかった。オムニバスが壇上で挨拶する中、一人だけ超絶イケメンホストみたいな人がいるのだから。

 しかしパンザ先生だけは、まだ一度も調理実習に来たことが無いので、来る確率は低いと俺は思っていた。


 一番来る確率が高い先生と言えば、最初の調理実習で予想外の登場をしたプッタ先生だろうか。プッタ先生は最初の実習以来、顔を出していない。それに他の先生達は、最低でも十分前には実習室に入っている。

 

 授業開始まで残り一分。この遅さにデジャブを抱く。これはもうプッタ先生で間違いないだろうと、心の中で囁く。という事は多分この前みたいに、ドタドタと廊下を走って、調理室のドアに突進するパターンだろうか……。

 

 「…………」


 誰も来ることなく、とうとう授業開始時間になってしまった。調理室はシーンと静まり返る。


 「誰も……来ない……?」

 「おかしいわね……、教室は間違ってないはずだけれど……」


 さらに五分が経過する。次第に生徒達もザワザワとし始める。すると廊下の方から突然声が聞こえてきた。


 「ぁあ? ここか? ちっ、長い事来てなかったから忘れちまってるな――」


 その瞬間、教室のドアが勢いよく開き、その男は入ってきた――。そして不意に目が合ってしまう。


 俺は同時に、ある事を思い出す。そうだ、あれからもう一ヵ月が経過したのだ。

 ()()()の出勤停止処分は、もう切れた――。


 「オムニバス、ルボナード。よろしくな、クソガキ共」


 ルボナードは、俺に視線を向けながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、教師にあるまじき挨拶をした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ