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第五十六話 制限

 「それでは最初の調理実習――。『実力テスト』を開始したいと思いま~す」

 

 あまりに唐突すぎるプッタ先生の発言に、生徒一同は困惑している。

 実力テストなんて誰が予想しただろうか。きっと誰一人として予想が的中した者はいないだろう。

 

 「あの~……テストがあるなんて、自分達何も聞いてないんですケド……」


 俺達が一番気にかかってた疑問を、生徒の一人がプッタ先生に問いかけた。

 

 「あらあら、そうなんですか? うふふっ、心配いりませんよ。難しいテストじゃありませんから」

 「は、はぁ……」


 プッタ先生は口に手を当て、おしとやかに微笑んだ。難しくないなら心配いらない……のだろうか。

 おっとりした大人の女性という印象のプッタ先生は、ずっとニコニコしているので、何を考えているのか全く読めない。ゆえに、恐ろしい……。

 俺達は気を引き締めて先生の話を聞いた。

 

 「テスト内容は至って簡単かつシンプル。二人組のペアを組んで、好きな料理を三品作ってくださ~い」


 生徒達は一気に拍子抜けする。

 本当に簡単な内容だった。どんな難題を繰り出してくるかと思ったが、どうやら考えすぎだったみたいだ。


 「は~い、それではペアを作ってくださ~い」

 

 皆が一斉にペアを組もうと動き出した。


 「マサト~、一緒に組も~?」

 「いいよー」


 側にいたフィナンが誘ってきたので、俺はフィナンと組むことにした。

 全員が二人組になったところで、プッタ先生が急に口を開いた。


 「あ、言い忘れてました~! 制限時間は正午まで。それと精霊には――()()()()()()()()()()

 「――な!?」


 俺達は、またしても唐突なプッタ先生の発言に驚く。

 

 「それでは皆さん準備は良いですか~?」

 「ちょ、ちょっと待ってください先生!!」

 「はい?」


 そこにまた一人の生徒現れ、プッタ先生に異議を申し立てた。


 「精霊に火しか使わせちゃいけないって、どういうことですか!?」

 「……? その言葉の通りですよ?」


 プッタ先生は首を傾げて生徒に言った。


 「で、でも火だけで俺達どうやって調理すれば……それに加え正午までって……絶対間に合うわけ――」


 生徒が必死に抗議する。だが次の瞬間、生徒の言葉を遮るように、プッタ先生が口を開いた。


 「貴方は――、ここに何しに来たのですか?」

 「……は?」

 

 思わず背筋が凍った。今までまったりだった口調が、一気に切れ味のある口調へと変わったのだ。

 調理実習室は一気にシンっとしてしまう。


 「もう一度聞きます。あなたはここに何しに来たのですか?」

 「こ、国家精霊料理人になりたいから、料理の勉強をしに……」

 

 ただならぬ雰囲気のプッタ先生を前にして、生徒は言葉を詰まらせながら返答した。


 「えぇ、えぇ、そうでしょうとも。きっとこの教室にいる生徒達の大半がきっとそうなのでしょう。ですが――よろしいですか? 精霊ばかりに頼っていては、私達の様な料理人になるなんて、夢のまた夢ですよ?」


 正論だった。そして俺はなぜかその言葉が、その生徒だけに言った言葉のようには感じられなかった。俺達全員に言い放った言葉の様に感じたのだ。

 

 「うっ……」


 生徒は思わず後ずさった。もうここまで正論を言われてしまっては引き下がる他ない。


 「――は~い! それでは皆さ~ん? 張り切って作ってくださいね~。あと――あくまでテストだという事……お忘れなく」

 

 プッタ先生は両手をパンっと叩き、授業開始の合図をする。同時に、生徒達は血の気が引いた表情で、慌てて作業に取り掛かった。

 

 さすがは国家精霊料理人率いる料理学園と言ったところか。やはり一筋縄ではいかないようだ。この先生も、一見優しそうに見えるがとんだ思い違いだった。オムニバスはプロの料理人達の集まりなのだ。甘い教え方をする者がいるはずもない。

 

 「ちょっと……メニューどうするのよ! 三時間で三品よ? 間に合うわけないじゃない……!」

 「あぁ……精霊は火しか使っちゃだめだから、火だけで作れる料理……いやでも簡単な物を作ったら評価が下がるかもしれないし……」

 

 周囲のペアが頭を抱えながらメニューを考えている。

 さっき先生が言ってたように、これはあくまでテスト。好きな品を作っていいとは言ったが、きっとその言葉通りに作ってしまったら点数が下がってしまう可能性もある。だから油断はできない。


 「おいっ! 早く決めろよ!! 時間無いんだぞ!?」

 「うるさいなっ! 分かってるよ! お前も少しは考えろよ!!」


 ついには喧嘩するペアまで現れてしまった。精霊から借りる力が限られるため、皆必死にメニューを考えている。

 

 「ねぇマサト……僕達も早く取り掛からなきゃ間に合わないんじゃ……?」

 

 フィナンもやはり危機感を感じているようだ。声が少しだけ弱々しい。無理もない、調理を簡略化できる精霊の力が制限されてしまった上に、時間制限付きだ。

 俺はそんなフィナンを安心させるように返事をした――。


 「心配しなくて大丈夫。ちゃんと間に合うから――」

 

 調理終了まで、残り約三時間弱……。

 

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