第五十話 オリエンテーション
「――皆様、お待たせしました。只今より、新入学生オリエンテーションを開始したいと思います」
実行委員らしき人物のマイクを通した声がホール中に響き渡った。ザワザワしていた生徒達は一斉に静まり返る。
「それでは進行役のティラ先生、よろしくお願いします」
その言葉と共に、壇上の影からティラがひょっこり出てきて、壇上の真ん中で挨拶を始めた。
「新入学生の皆さん、こんばんわ! 入学式の時にご紹介させていただきましたティラと申します! これから一時間ほど、この学園の事について説明いたしますので、しばしお付き合いください!」
マイクを片手に持ったティラが、相変わらず元気の良いハキハキした声で皆に挨拶した。そして人差し指を立て、最初の説明が始まった。
「それでは一つ目! 授業についてです!」
俺が一番気になってた内容だ。
「皆さんが言うまでもなく、ここは料理学園です。だから料理に関することのみ勉強――すると思ったら大間違いです!」
と、マイクを我々入学生に突き付け、ビシッと言った。
なんとなくそんな気はしていたが、いったいどんな科目があるのだろうか。
マイクを下すと、両手を後ろで組みながら壇上の上ゆっくり歩き出し、説明しだした。
「調理理論に調理実習、食品学に栄養学。そして食品衛生学と料理に関する科目は確かにあります。ですが他にも、数学、歴史学、化学、工芸学、そして精霊学があります」
予想以上に沢山の教科があった。中でも予想外だったのが工芸学と精霊学だった。
精霊学とはなんなのだろうか。その名の通り精霊に関する知識を学ぶ授業? 予想が付かない……。
物を作る工芸に関してはローザさんを見てわかるように、自分で雑貨を作ってそれを売る事を職業にしている。
壇上の端まで歩いたティラは再び話を続けた。
「まず、調理に関する授業に関しては、必修科目となっていますので、必ず受けなければなりません。ですが、数学、精霊学などの調理以外の五つの科目は選択科目となっておりますので、この中から二つ選んで授業を受けるようにしてください。全部の授業を全て受けなければいけない、というわけではありませんので安心してください!」
つまりは、必ず受けなければならない授業が五つ、選択科目が二つで、計七つの科目を受けなければならないというわけだ。割と良心的で安心した。
「明日の朝、各寮の部屋に、どの選択科目にするかのアンケート用紙を配らせておきますので、それを記入して、最初の授業にて提出してください!」
難しそうな科目はできるだけ避けたい……。
俺は数学が特に苦手だ。この異世界の住人も苦手な人が大勢いるはず。これはきっと万国共通なのだ。
「なお明日の授業に関しては、教室と時間が記載された時間割をアンケート用紙と共に部屋に配布いたします。それに従って授業に参加するようにしてください! これで授業に関しては以上です!」
薄々気が付いていたのだが、この学園、もとい異世界の学校にはクラスというものが存在しないようだ。各々に配布された、教室や科目が記載された時間割を確認し、それに従い授業を受ける。確か大学が似たような仕組みだったはずだ。高校なのに大学のようなシステムとは斬新だ。
壇上の真ん中に再び戻ってきたティラは、次の説明をし始めた。
「続きまして、大まかな年間行事について説明します!」
年間行事――。元居た世界での学校の年間行事と言えば、入学式、新人歓迎会、テスト、修学旅行、体育祭、文化祭などだったが、この世界の学校では何があるのだろうか。
「まず一学期にある大きな行事が、なんと言っても『学内料理コンテスト』!」
今日一、気になる情報が舞い込んできた。会場はまたザワザワとし始める。
入学して間もないうちに料理コンテストがあるのも唐突すぎるが、是非とも参加したいものだ。これでかなりモチベーションも上がる。
ティラは自分の杖を取り出し、ホール会場の真上に向け杖を差し始めた。すると鮮明な映像が空中に浮かび上がった。
そこには、料理を作っている沢山の生徒と精霊の姿が映っていた。これはもしや、そのコンテストの風景なのだろうか。皆パートナーである精霊と共に力を合わせて、かなりレベルの高い料理を作っている。そこに映っている料理は、全て優勝が取れてもおかしくないほどの出来栄えだ。
「この学内料理コンテストとは、その名の通り、ガストルメ学園内にて行う料理コンテストとなっております。参加は自由! 作る品も自由! 是非参加したいという方は、この日までに腕を磨いておきましょうー!」
俺はグッと拳を握りしめた。隣で聞いてたイオラとフィナンもやる気のようだ。
「ねぇ、料理コンテストだって!! 出てみたいなぁ」
「もし出ることになれば、皆ライバルってことになるわね……」
それはコンテスト。イオラの言う通り、参加するとなれば皆ライバルとなる。複雑な気分だが、それがコンテストの醍醐味でもある。
優勝すれば確実に学園に名を残すことができる。俺の夢へとまた一歩近づくことができる。俺はその日が来るまでしっかり腕を磨いておこうと、心の中で静かに決意した。