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第四十九話 会場へ

 正午前、手荷物を沢山抱え込んで、ようやく寮の自分の部屋へと帰り着いた。

 

 ジェノワーゼを後にした俺は、あれから帰りながら市場を見て回って色々買い物した。

 明日から授業が始まるため、文房具をワンセットと料理のレシピ本を数冊。そして衣服を数種類。後は、毎回ハーブの苗にポットで水を注ぐというのもおかしいと思ったので、雑貨屋で鉄製のジョウロを一つ買った。全て何かしら割引されていたので、金貨一枚だけで買い物ができた。それでもお釣りが出たくらいだ。


 「ふぅ、重かった」


 ため込んでいた疲れを一気に吐き出すように一息つき、全ての手荷物を自分のベッドへと置いた。そしてイオラとフィナンへのお土産のケーキが入った紙袋を持ち出し、二人の部屋へと向かった。

 まずはイオラの部屋。


 「いるかな?」


 俺はイオラの部屋のドアを三回ノックした。


 「…………」


 返事がない、どうやら留守みたいだ。

 次にフィナンの部屋へと向かう。


 「…………いないみたいだ」


 同じようにノックをするが中からは誰も出てこない。二人ともいないようだ。

 朝別れた時に二人もどこかへ出かけたのだろうか。


 誰にもケーキを渡さないまま、俺は再び部屋へと戻った。

 俺はテーブルの上にお土産を置き、悩んだ。二人はいつ帰ってくるかも分からない。もし夜まで帰ってこないとすると、せっかく買ったこのケーキが傷んでしまう。そんな事で悩んでるとロアが唐突に俺の横に姿を現した。


 「ガウッ」

 

 ロアは何か言いたげな表情で俺を見上げている。その瞳をじっと見つめ続け、ようやくロアが何が言いたいのか分かった。

 そうだ、今の俺は精霊を扱えるんだ。だったらあの時の様に――。

 あの時とは、ローザさんの家で初めて調理をした時の事だ。カチコチに凍った肉をルリとチサが一瞬で溶かしたり凍らせたりしていた。

 だったらできるはず。そう思った俺はロアに、ケーキを凍らせるように頼んだ。


 「ロア――」

 

 ロアが小さく頷くと、両足の紫色の炎が、水色の炎へと変化し、ケーキが入った紙袋に炎がまとわりついた。直後、ひんやりとした冷気が漂った。

 不思議な炎だ。近寄れば火傷をしそうなくらいメラメラ燃えているのに、全く熱くない。むしろ冷たい。言い方が矛盾しているかもしれないが、さしずめ冷気の炎と言ったところだろうか。

 

 紙袋の中のケーキは一瞬にして形を崩さぬままカチコチに凍った。袋の中からドライアイスの様に白い冷気が溢れ出ている。これで後は食べる時に精霊で解凍すればいいわけだ。


 「ありがとう、ロア」


 一仕事終えたロアの頭を撫で、労ってあげた。

 本当にまるで石の様にカチコチに凍っている。この様子だと今日の夜、いや明日になってもまだ凍ったままだろう。

 

 街中の市場を歩き回ったせいで、まだ正午だというのにクタクタになってしまった。

 夜のオリエンテーションまでまだだいぶ時間がある。また街に遊びに行くというのも面倒だったので、オリエンテーションの時間が来るまで自分の部屋で過ごすことにした。

 


************



 頬がこそばゆい。何者かが俺の頬を一定の間隔で舐めている、多分ロアだ。同時にノックの音が聞こえる。イオラとフィナンだろうか。

 

 目を開けると部屋は真っ暗だった。真っ暗なせいでベッドの横にいたロアが保護色で一瞬見えなかった。

 なぜ夜なのだろうと振り返るが、それはすぐに解決した。

 オリエンテーションの時間まで自分の部屋で時間をつぶそうと、買った本を読んでいたのだ。そこから徐々に眠くなって、睡魔に負けて今に至るというわけだ。

 時間を確認すると午後六時半だった。かなり眠ってしまった。多分もう夜は眠れない……。

 いや、そういう事はどうでもいいのだ。

 

 「やばっ! オリエンテーション!!」

 

 やれやれという表情でロアは俺の中へと消えていった。ロアが起こしてくれなかったら完璧に遅れていた。俺は急いで部屋から飛び出す。


 「マサト! 良かった居たのね」

 「うん……寝てたみたい……」

 「マサト~? 僕に何か言う事は~?」

 

 フィナンがジーっと俺を睨んできた。

 俺も人のこと言えないようだ。


 「スミマセンデシタ」

 「うむ、よろしい!」


 フィナンに深々と謝罪し、部屋の鍵を閉め、オリエンテーション会場である、大ホールへと向かい始めた。廊下にはオリエンテーションに向かう生徒が沢山いた。

 向かう途中イオラが俺に、今まで何していたのか聞いてきた。

 

 「マサト、今日何してたの?」

 「んー? 街に買い物行ってた。今日はなんか月に一度色んな物が安くなる日だったらしくてね。ついついいっぱい買っちゃった。あ、あと二人にお土産買ってあるからオリエンテーション終わった後あげるね」

 「お土産!? わーい!」


 フィナンがまるで子供の様に大きく両手を上げ万歳した。

 

 階段を上がり上の階へと到着した。ここからしばらく歩いて本館の方へと向かう。この階を歩くのは入学式以来だ。

 

 入学生達が通りゆく廊下を歩くこと数分。本館へと到着した。

 本館のあちらこちらには、『新入学生オリエンテーション会場はこちら』と書かれている大きな立札を持った実行委員らしき人たちが立っている。

 その案内に従いながら進み事また数分。ようやく入学式会場が行われた大ホールへと到着した。ホールの入り口の前にも『新入学生オリエンテーション』と書かれた立札が立っている。

 

 中に入ると、大勢の生徒でいっぱいだった。入学式の時は特例で上の階から受けていたが、皆と同じ目線の高さに立ってみると、改めて人数の多さにビックリしてしまう。

 すると実行委員の一人がマイクで案内を始めた。


 「オリエンテーション開始まで残り五分です。もうしばらくお待ちください」


 俺達は、一体何を教えられるのだろうと、少しワクワクしながらこの五分間を待った。

 

 

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