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第四十八話 間一髪

 急になぜ唐揚げの作り方を教えてほしいと乞われたのか、疑問を抱いた俺は理由を尋ねた。


 「な、なんでですか……?」

 「珍しい肉料理だったんでな。俺も作ってみたくなったのよ。だがどの本屋にもあの茶色くてコロコロした料理のレシピは載ってやしなかった」

 「だから俺に教えてほしい、と……?」

 「あぁそうだ」


 そういう事だったのかと理解した。

 けれど少し意外だった。学園の一教師が俺なんかに料理の教えを乞うなんて。それもオムニバスの中でも一番乱暴そうなこの男が――。やっぱり一応プロの料理人だから探求心とかがくすぐられるのだろうか。

 

 だが俺は少し悩んだ。教える事に関しては問題ないとは思うが、あまり気乗りしない。だってこの男ルボナードは、今まで何度も生徒に体罰を与えてきたと聞く。そしてその度に謹慎処分を食らってきたとの事。今も確か謹慎中で、確か一カ月ほどだっただろうか。そんなおっかない教師と俺はあまり関わりたくない。俺は断ってこの場を去る事にした。


 「さっさと教えろ」

 「す、すみません、俺急いでますので――」

 

 俺は振り返って逃げようとした。すると真っ赤な炎が突如として現れ、中からルボナードの精霊ロゼが飛び出し、俺の行く手を遮った。


 「まぁまぁお待ちになって? 悪いことしないから大人しく言う事聞いてちょうだい?」

 「うっ……」


 前にはルボナード、後ろにはルボナードの精霊。完全に挟まれてしまった。まるでこれからカツアゲでも始まるかのようだ。通行人も関わりたくないような目で通り過ぎていく。

 ロアも態勢を低くし、両足の炎をメラメラと燃え上がらせて二人を威嚇している。

 

 「さっさと教えた方が身のためだぜ?」


 もはや教師の言うセリフじゃない。

 万事休すか。そう思った刹那、どこからか聞いたことのある青年の声が聞こえてきた――。


 「こんな所で何をなさってるんですか、ルボナードさん?」

 「あっ!」

 「……テメェは、確か……」


 第一ボタンだけが外してある真っ白いコックコートを来た、見覚えのある金髪の青年。そういえばと向かい側にあるお店を確認すると、なぜこの人が現れたのかも納得できる。

 

 「マサト君を解放してください」

 「ルポネさんっ!」

 「ルポネ……そうかあのお菓子屋の店主か。っつーことは…………っち、めんどくさくなりそうだな。今日のところは引いとくか」

 「はぁい」


 お菓子屋ジェノワーゼの店主ルポネさんが来てくれたおかげで、ルボナードとロゼはこの場から離れて行った。危機が去ったため、ロアも安心して俺の中へと消えていった。

 

 あんな事するから色んな人から嫌われるんだ、と俺は去っていくルボナードの背を見ながら心の中でぼやいた。


 「大変な目に会いましたねマサト君。大丈夫ですか?」

 「はい……ありがとうございます。おかげで助かりました……」

 

 俺は両手一杯に手荷物を持っているルポネさんに深くお礼を言った。


 「買い物から戻って来てみたら、店の反対側でマサト君がルボナードに脅されてたので驚きましたよ。なるべくあの男には近づかないようにしてください、何されるか分かりませんからね」

 「はい……以後気を付けます」


 反省した俺は、お礼と言ってはなんだけど、ルポネさんのお店でお菓子を買っていくことにした。

 

 共に店に向かう途中、ふとさっきルポネさんが言ってたことが気にかかった。

 そういえば、俺の名前を一度でも教えただろうか、と――。

 イオラとフィナンと共に店に最初に店に訪れたとき、誰も俺の名前を口にしなかったと思うのだが……。

 懸命に思い出すが、そんなことはどうでもいい事だった。そういう事もあるだろうと適当に解決させた。


 カランコロンッとドアベルの音が、まだ誰も客が訪れていないルポネさんのお店に響く。

 やはりまず最初に目に入るのが、店の真ん中に置いてある、ガラスケースに入ったフーディリア城を模したケーキだ。


 「よいしょっと――」

 「ルポネさん」


 手荷物を置いた所で、俺はルポネさんに声を掛けた。


 「どうしました?」

 「前ここに訪れたときにも気になってたんですけど、――このケーキってルポネさんが作ったんですか?」

 「はい、僕が作りました。こう言っちゃなんですが結構力作だと自負してます」


 ルポネさんは自信に満ち溢れた表情でそう言った。

 

 それから俺は受付にある、おしゃれなケーキが沢山並べられているショーケースへと歩み寄った。

 今日も品ぞろえが豊富だ。しかも今日が月に一度の安売りの日だけあって、ケーキも全て安くなっている。

 

 俺がケーキを見ていると、ルポネさんは何かを思い出したかのように、手のひらから淡く光る黄色い時計を出し時間を確認した。


 「――おっと、もうこんな時間だ、早く起こさないと――。姉さーん! 時間だよー! 送れちゃうよー! ……あっ、大声出して失礼しました」

 「いいえ、大丈夫ですけど、姉さん? お姉さんがいるんですか?」

 「はい。もうすぐ仕事なので早く起こさないといけないんですが、何分姉は朝が弱くて……」

 

 俺の身の回りにもそういう人が一人いるから気持ちは分かる……。

 せっかくジェノワーゼに寄ったのだからイオラとフィナンにお土産を買っていこう。

 俺は二人のお土産に、彩りの良いフルーツが沢山入ったロールケーキと自分の顔が映るほど艶のあるドーム型のチョコレートケーキ、そして以前買ったジェノワーゼ自慢のチーズケーキをそれぞれ一切れずつ購入した。


 「ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!」

 「こちらこそ今日は助けてくれてありがとうございます! また来ます」


 見ているこっちも清々しい気持ちになれる接客態度を受けた俺は、イオラとフィナンへのお土産を片手にジェノワーゼを後にした。


 

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