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第四十七話 三度出現

 イオラとフィナンと一時分かれた俺は、とりあえず部屋に籠ってても特にやることはなかったので、夜までの暇つぶしに街へ出掛けることにした。

 

 「今何時かな……」


 俺は手のひらを出し、紫色に光るホログラム映像の様な時計を出し、今の時刻を確認した。


 「――八時か」


 時刻を確認し終えると、手のひらに浮かび上がった時計はフッと消えた。

 精霊であるロアと契約したことにより、俺も精霊の力を借りれるようになった。ちなみに時計の出し方はイオラに教わった。

 出し方はいたって簡単だ。ただ手のひらを出し、心の中で時間を確認したいと願うだけ。

 授業が開始するまでに契約が間に合って本当に良かった。これで俺も晴れて精霊使いというわけだ。


 俺は学園の玄関を出て街へと歩みを進めた。

 今日の天気は、やや雲が多めの晴れ。緩やかな坂道の両端に高くそびえ立っている林の中から、聞いたことの無いような小鳥の鳴き声が聞こえている。

 

 「平和だなぁ~」


 思わず声が出てしまう。それくらいのどかで心地よかった。

 そんな空間を歩き続けてると学園のレンガの門に到着した。

 門の横に設置されている警備室を覗くと、いかにも門番という、獅子顔の体格の良い警備員が気持ちよさそうに寝ていた。これだけ気持ちのいい朝なのだ、無理もない。

 でも最近大きな事件があったばかりだし、しっかり警備しないと何が起こるか分からない。そう思った俺は、わざとらしく足音を大きくして門をくぐった。するとその音に反応して警備員が大きなあくびをしながら起きた。

 

 門をくぐり抜け、道なりを歩いていると、いつものように活気のある賑やかな街の声が聞こえてきた。今日も市場は平常運転のようだ。

 

 街に到着すると、路上の真ん中で商われている市場が、入り口付近からずっと街の奥に向けて連なっているのが分かった。今日はいつにもまして市場の数が多く感じる。

 

 俺は街に入り、市場を見ながら歩き始めた。

 市場の店主が呼び込みをする中、俺の耳に聞き捨てならない言葉が入った。


 「はいはいはいっ! 寄った寄ったぁ!! 今日は月に一度の格安セールだよー!! なんと全品どれでも五パーセント引きだー!」

 「なん……だって……!?」

 

 俺は呼び込みをするその店を振り向いて驚愕した。しかし、その店だけではなかった。


 「ほらほらぁ! 今日だけ何と一人一回限り、銀貨一枚で好きな野菜が詰め放題だよー!! 寄った寄ったぁ!」


 その真横の野菜市場でも、同じような大盤振る舞いセールをしている。

 そこだけじゃない、どの市場も似たような格安セールを行っている。野菜に肉、魚や穀物、そして雑貨や装飾品や服なども全て安い。

 どうやら今日は全ての市場の商品が格安で売られている特別な日みたいだ。

 

 先ほどの店主は月に一度と言っていた。ならば今日という特別な一日を無駄にするわけにはいかない。

 俺の中の買い物魂がメラメラと燃え上がった。なぜなら俺は、安いという言葉には目がないからだ。

 

 昔、学校帰りの夕方、友達が遊びに行こうと誘った事があったのだが、その日はちょうど行きつけのスーパーの特売日だったので、俺は遊びの誘いを「ごめん! 今日スーパーの特売日だから!」と言って断ったのだ。

 そんな事が結構あったため、友達からはよく「主婦か!」と突っ込まれることが多々あった。

 だっていつもより安いんだよ? 十個入り卵がいつもの二十円も安かったりするんだよ? この二十円がどれだけ安いか、それはきっと全国の主婦と俺のみぞ知る。


 俺はワクワクしながら市場を見て回った。すると、ふと一軒の本屋を見つけ、立ち止まった。

 斜めに傾いている本棚には様々な種類の本が無数に置いてある。横長の机にも古本が山積みされている。白く長い髪と髭の、店主と思しき人は、ゆらゆら動く椅子に座り本を読んでいる。

 

 本の市場なんかあるんだなと、珍しがりながら見ていると、一冊の料理本を発見した。

 肉料理の事典のようだ。表紙には動物の生肉が描かれている。

 気になりその本を手に取ろうとした――。すると、誰かの太い手が横から同時に飛び出してきた。

 俺はとっさに横の人に謝った。


 「ごめんなさ――! あ……」

 「あぁ?」


 これで三度目だ。一度目は路地裏――。二度目はローザさんの家――。一番会いたくないと思ってたはずなのに、なんでこうも出くわしてしまうのだろうか……。

 また、会ってしまった、この男、ルボナード先生に――。

 ルボナードはニヤリと笑みを浮かべ俺を見下ろしている。


 「よぉ。また会ったなぁおい」

 「ソ、ソウデスネ~」


 思わず目を背け、作り笑いを浮かべながら俺は返事をした。

 なんだかこの前みたいに質問攻めされるような気がしたので、俺は早急にこの場を離れる事にした。

 

 「そ、それじゃあ俺はこれで――」

 「あ! おい、待てっ!!」


 ルボナードが引き留めようとするが、俺はお構いなしにスタスタと早歩きで本屋を後にした。

 本屋から少し離れたところで、俺はチラッと本屋を振り返った。だがそこにはルボナードの姿は無かった。どうやらもう本屋を去ったようだ。

 俺はホッとして前を向いた――。


 「待てって言ってんだろうが」

 「うわぁああ!!」


 前を向くと、本屋にいたはずのルボナードが、ホラー映画にも勝るとも劣らない登場の仕方をして現れた。

 あの位置から一瞬にしてこの場所に来たのだろうか。

 そういえばこの人もオムニバスの一人だった……この人もきっと只者じゃないんだ。俺は、どうりで、と心の中で納得した。

 そして俺の身の危険を感じたのだろうか、俺の目の前に紫色の炎がボッと一瞬燃え上がりロアが現れた。


 「グルルルル……」

 「ロア……!」

 「ほぅ、これはまた懐かしい奴が出てきたじゃねぇかよ。今度はこいつと契約したんだな、良かったじゃねぇか」

 

 ロアはルボナードを見上げながら牙を出して低く唸っている。ロアもこの男の事が嫌いみたいだ。


 「まぁそう怒んなよ。ちょっとばかしオメェの飼い主に聞きてぇ事があんだよ」

 「聞きたいこと……?」


 俺は威嚇しているロアの頭を撫でて落ち着かせながら、ルボナードに聞き返した。

 

 「テメェ、この前ローザんちで奇妙なもん作ってたよなぁ?」

 「奇妙な物……唐揚げの事ですか? それがどうかしましたか?」

 「あれの作り方教えやがれ」

 「へ……?」


 ルボナードは仁王立ちしながら偉そうに教えを乞うた。



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