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第四十五話 手紙

 授業開始前日の朝。ベッドから上体を起こし、俺を最初に出迎えてくれたのはロアだった。

 ロアは、朝日に照らされたフローリングの床にうつ伏せで寝ている。

 俺が身体を起こすと同時に、ロアも目を覚ました。


 「おはよう、ロア」

 

 眩しい朝日を浴びながら大きく背伸びをした。ロアも大きなあくびをしながら、ぐーっと伸びをしている。

 

 朝起きて俺がまず最初にやる事は、ローザさんのお店で買ったハーブの苗の水やりだ。

 俺はジョウロ代わりにしているポットを持って洗面台へと向かい水を注いだ。そして窓際に置いてある三種類のハーブの苗に水をやった。当然まだ買って一週間も経っていないため芽は出ていない。根気強く待つしかない。

 

 それから俺は再び洗面台へと向かい、顔を洗い、歯を磨いた。

 鏡の自分をチェック。少し寝癖がついていたので軽く髪を整えた。

 

 「これでよしっと!」


 身支度を終えた俺が次にやる事、それは食堂に行って朝食のムエットを食べる事だ。アレだけは外せない。

 サクサクカリカリに焼かれた細長いバケットをトロトロの濃厚な半熟卵にディップして食べる――。考えただけでお腹が減ってしまう至極の逸品だ。

 

 俺は当分朝食はアレしか食べないと心に決めている。

 他にも色んな種類の朝ごはんがあるにはある。他のも食べてみたいとも思う。だが、なかなか止められないのがムエットの特徴だ。俺はアレにかなりの中毒性があるとみている。将来自分の店を持つようになったら絶対に出そう。

 心の中でムエットについて熱く語っていると、ドアの方から声が聞こえてきた。


 「新一年生ノ方々ヘ、御手紙デス!」


 エレベーターにいた一頭身姿の精霊の声だ。

 気になって洗面室から出ると、ドアの下の隙間に、いつもの新聞と赤い封蝋(ふうろう)で閉じられた洒落た手紙が差し込まれていた。

 いつもと違う配達物に疑問を抱きながら、俺は新聞と手紙を拾った。

 

 新聞の内容は、これといった事は特に書かれていない。いや――、書かれてあった。

 表紙の右下にやや大きくローザさんのお店の事が書かれていた。

 全品十パーセント引き。これは、そそる……。

 

 ハッと我に返り、肝心の手紙にまだ手を付けてない事に気が付いた。

 確かに十パーセント引きはそそる内容だが、今はとりあえず置いておこう。

 俺は手紙の封を開けながらベッドに向かい座った。

 ロアも興味があるのか、お座りしてじっと封を開けるところを見ている。

 

 「これは――」


 中に入ってたのは、今回入学した生徒に向けられた、お知らせが書かれた紙だった。

 その内容はというと――。


 「『新一年生オリエンテーション』……?」


 そこに書いてあったのは、今日の夜、学園生活の大まかな内容についての説明会があるというものだった。

 時間はだいたい三十分程度。場所は入学式があった大ホールにて行われるようだ。

 俺は忘れないようにしっかり頭に入れて、手紙を机の上に置いた。

 

 「ロアも一応覚えててね」

 「ガウッ」


 俺が万が一忘れたときのために、ロアにそう告げると、眩く紫色に光り始めて俺の中へと消えていった。

 

 よいしょと立ち上がって、俺が食堂に向かおうとした時、またもやドアの方からノックと声が聞こえてきた。


 「マサトー。朝ごはん食べに行きましょう?」

 

 今度はイオラの声だった。

 

 「おっけー今行くー」


 今から誘いに行こうと思ってたところだったから丁度よかった。一人で食べるより皆で食べた方が良い。

 だが問題はフィナンだ。フィナンは朝がかなり弱いから起こすのに苦労する。

 最悪起きない場合は、イオラの精霊のミンティが、もれなく尻尾に噛みつく事になる。

 アレの痛みは俺も知ってるから、できればもう味合わせたくないものだ……。

 

 俺はドアを開けた。するとそこには、何とも信じがたい光景が――。

 今日は雪、いや(ひょう)でも降るんじゃないか……。


 「おはよ~マサト。よく眠れたかい?」

 「…………フィナン、大丈夫……?」

 「何がだい!?」

 

 フィナンが起きてる……。昨日も一昨日も、いくら声を掛けても起きようとしなかったあのフィナンが起きてる……。

 これはレアな光景を目にしたかもしれない。もし今日宝くじを買ったのなら当たりが出そうだ。


 「マサトが驚くのも無理ないわ……、私も驚いたもの。なんせ私を起こしに来たのがフィナだったのだから……」

 「こんなこともあるんだね……」

 「失礼だなぁ! 僕だって早起きするよっ!」


 フィナンは驚いている俺とイオラを見てプンプン怒っている。

 

 「ごめんごめん。今までがたまたまだっただけだよね?」

 「そ、そうさ? たまたまだったのさ! ――さぁて! 今日も元気よく行こー!」

 

 どこか焦っている様子のフィナンが歩き出すと同時に、俺達も食堂に向かい始めた。

 イオラが俺の横で小声で、いつもあんな感じよ、と言ったのはフィナンには黙っておこう。



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