第四十一話 狂気のピエロ
拘束された悪霊も、ロマネクスと共に消えた。これで一件落着――。ではないのだ。
子供たちをさらった犯人。あのピエロがまだ残っているのだ。
あいつを野放しにして置いたら、また被害者が出かねない。奴をどうにかしないと……。
いざ学園に戻ろうとする校長が口を開いた。
「さて、マサト君――。君に話しておかなければならないことがある。学園に戻りながら話そう」
「待ってください! イオラ達から聞いたと思いますが、あの子供達をさらったのは、昨日噴水広場にいたあのピエロなんです! あいつをどうにかしないと――!」
俺は焦りながら校長に話した。
「それなら問題ない。奴は今頃――」
校長は森の奥を見ながら、自信たっぷりな表情で俺に返した。
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森の広場から少し離れた林の中にて――。
「――あーららぁ……、これは予想外でしたねぇ……。まさかあの狼とあの小僧が契約してしまうとは……。っち……あと少しで面白い物が見れたというのにぃ……」
ピエロは離れた場所で爪を噛みながら悔しそうに、広場の様子を観察していた。
「――お前が首謀者だな?」
ピエロの周りを囲むように、突然三人の男達が現れた。
「……!! 貴方達は――」
「よーやく見つかったね~」
「こんな所でコソコソと何をやっているんですか? ――『第二級国家犯罪者』ジョンズワース?」
「国家精霊料理人オムニバスぅ……!!」
ピエロを囲んだのは、ガストルメ料理学園教師兼、国家精霊料理人オムニバスのパンザ、ラテ、スティーニだ。
三人は校長の命令で、ピエロを拘束するためにここに来たのだ。
「ジョンズワース――。お前を拘束する」
「っく……。なぜ私が首謀者だと分かったのですか……?」
「昨日の目撃者による証言です。貴方は噴水広場で、何らかの毒物が含まれた飴を子供達に食べさせ、催眠術を掛け、この森におびき寄せた――。大方、この森の悪霊を利用して大量殺人を目論んでいたのでしょう」
スティーニに図星を突かれたピエロ、ジョンズワースは、三人のオムニバスを前にしてたじろんでいる。
身の危険を感じたジョンズワースは自分の精霊を出す。
「無駄な抵抗はよせ、ジョンズワース。貴様ごときじゃ俺らに勝てん」
パンザは腕を組みながらジョンズワースを威圧している。
「黙りなさい! 私はまだちっとも殺し足りないっ! まだ面白い物を見れてないっ! だからここで捕まるわけには行かないんですよォォ!!」
ジョンズワースの精霊が両手をパンザにかざし、白黒の炎を勢いよく投射した。
パンザは炎に飲み込まれてしまった。
続いて、スティーニとラテにも炎を投射し、二人も炎に飲まれてしまった。
「フッ……フフフフフ! 国家精霊料理人とはこの程度ですかぁ? 思ったよりあっけなかったですねぇ? ヒヒヒヒヒ!」
ジョンズワースの精霊はしばらくすると、炎を投射するのを止めた。
辺りが白黒の炎に包まれてしまった。草木にも炎が乗り移ってしまっている。
ジョンズワースは高笑いをしながら、メラメラと燃える炎の中を見つめている。
「さてぇ――。そろそろ行きますよぉ。今回は失敗しましたが、次の国でまた一からやり直すとしましょう――」
「――逃がすわけないだろう?」
突然、ジョンズワースとその精霊に大量の水が纏わりついた。
ジョンズワース達は、水の中に閉じ込められ、完全に身動きが出来ない状態に陥った。
「――!? ――!!」
二人は苦しそうに水の中でもがいている。
ジョンズワースはふと上を見上げる。すると木の枝に炎に飲み込まれたはずの三人が立っていた。
三人は炎に飲み込まれる直前、すぐさま上へと避難したのだ。
パンザは、もがいている二人を見下ろしながら言う。
「よく俺達から逃げられるなんて思ったな。無理に決まってるだろ――?」
精霊の方は、限界が来て消えてしまった。同時に周りに燃え移っていた白黒の炎も徐々に消えていった。
「――!! ……! …………」
とうとうジョンズワースの方も限界が来た。
ジョンズワースは水の中で気絶してしまう。
気絶したのを確認したパンザは、ジョンズワースに纏わりついていた水を解除した。
ジョンズワースは地面にぐったりと倒れ込んでしまう。
犯罪者ジョンズワースの目論見は、失敗に終わった。
「任務完了だね!」
「まだですよ。この犯罪者をフーディリア城の牢獄まで運ぶんですから」
「俺は帰る。あとは二人でやってくれ――」
「あ! ちょっ――! ……もう! なんでパンザはいつもいつもめんどくさい仕事ばっか最後に押し付けるのさ!」
「まぁまぁ」
パンザはそれだけをラテとスティーニに言い残し、消え去っていった。