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第四十話 契約

 「たしかこうやって――」


 俺は、初めて儀式をした時のことを思い出しながら急いで準備を進めた。

 そこらへんに落ちていた石を使い、地面に大きな丸を描いていく。その次に、円の中にピッタリ納まるくらいの正方形も描いた。

 そして次は蝋燭を四本立てるのだが……。


 「しまった――、蝋燭が無い……。――仕方ない、これで代用しよう」


 俺はそこら中に散らばっている木の枝を拾い上げ、それを蝋燭の代わりにすることにした。

 そして火はちょうど周りが燃えていたので、そこで火を付けた。

 火を付けた木の枝を、正方形の四隅にそれぞれ刺す。


 「――ちぃっ! いい加減当たれぇ!!」

 「…………」


 後ろではまだ戦闘が行われていた。

 悪霊はずっと包丁を投げ続けているが、校長は顔色を一切崩さず避け続けている。

 

 最後にポケットに入ってあった小袋からシナモンとカルダモンを取り出し、中央に盛った。

 これで契約の陣は完成だ。


 「よし……! 準備完了だ!」


 狼も完成したことに気付き、よろよろと立ち上がった。

 すると、木の枝に灯した炎が急に紫色の炎へと変わり、激しく燃え始めた。


 「うっ!」


 急に紫色の炎が高く大きく燃え始め、思わず腕で顔を塞いだ。

 そして炎は一気に狼に(まと)わり付いた。

 丸ごと狼を炎が包んでしまったせいで、どうなったのか分からない。

 あれだけ火傷をしてしまったのに、炎に包まれてしまって大丈夫なのかと俺は心配した。

 

 「――アオォォォォォン!!」


 狼の大きな遠吠えが周囲に響き渡る。と同時に、纏わりついていた炎が弾け飛んだ。


 「――!! なんだ!?」


 戦闘を続けていた悪霊が今の遠吠えに驚き、首をこちらに向けた。


 弾け飛んだ炎の中から出てきたのは、傷が完璧に消え去り、黒い毛並みも元通りになった凛々しい狼。今にも消えそうだった足の紫色の炎は、以前にも増して激しく燃え上がっている。

 

 「グルルゥゥ……」

 「良かった……! 元気になったんだね……!」


 ゆっくりと近づいてきた狼の顔を、俺は優しく撫でてあげた。

 精霊との契約は、成功したようだ。


 撫で終わると、狼は悪霊の方を睨みつけた。

 状況を把握した狼は、すぐさま校長を助けに走り出した。


 「ば――! バカな!? あの怪我でなぜ――!!」


 悪霊が自分のところに向かって来ている狼に攻撃をしようとするが、狼の方が早い。

 目にも留まらぬ速さで狼は悪霊に飛び掛かった。


 「ぐわぁあああ!?」

 

 地面に抑え付けられる悪霊。

 悪霊の身動きが取れなくなってしまったため、校長へ降り注ぐ包丁もピタリと止んだ。


 「よくやった――!」


 校長はこの隙に、投げつけられていた包丁を消した。

 

 「そのまま抑え付けておいてくれ」


 あれだけ走りながら包丁を避け続けていたというのに、校長は息一つ切らしていなかった。

 校長は、地面に押さえつけられている悪霊の元に駆け寄った。


 「ぐっ、うぅぅぅ……人間風情が……俺を見下ろすなぁ……!」

 「この前の二人の件もあるからな。お前をこのまま野放しにさせるわけにはいかない。ロマネクス――」

 「――ハッ!」

 

 これが校長の精霊か……。

 校長の真横に突然、黒紫色をした鎧を着た精霊が現れた。肩から足元まで長いマントが特徴的だ。顔の部分が兜に覆われているので、どんな顔なのかが全く分からない。兜の目の部分から赤い瞳が光っているのだけは分かる。


 「この悪霊を拘束しろ」

 「了解しました――」


 校長が命令すると、ロマネクスの赤い瞳がギラっと光った。すると押さえつけられている悪霊の陰から黒紫色をした影のようなものが伸び、悪霊に纏わりつき、口と体全体を縛り上げた。


 「――! ――!!」


 口と体が塞がれてしまった悪霊は、血走った目で校長を見上げながら、必死に何かを訴えかけている。

 身動きが取れなくなったところで、狼は大きな前足を悪霊から離した。

 俺も校長たちの元へ急いで駆け寄る


 「校長!! 大丈夫ですか!?」

 「あぁ、おかげさまでね。……お前もよくぞやってくれた――」

 「グルルゥゥ……」


 校長は狼の頭を撫でて(ねぎら)った。


 「あの、校長。この悪霊は……」

 「無論、このままにしておくつもりはない。危うく犠牲者が出るところだったからな。こいつの処理は私に任せてくれ」


 当然の報いだ。こいつは今まで、多分俺がこちらの世界に来る前も、色んな人に迷惑をかけてきたに違いない。

 けれど……。

 俺は、目で必死に訴えかけている悪霊を見て、どこか悲しい気持ちになった。

 この悪霊からしたら、自分の住処に勝手に入り込んだ俺達の事を悪だと思うだろう。そう思うと罪悪感を少し感じる……。


 「……マサト君。君が気にすることはない。これは、この悪霊の報いだ。我々と共に力を合わせる事を拒み、人間を忌み嫌い、恨み、傷つけた。間違った道を選んだ結果の成り果てなんだ。――この精霊は……」

 「え、ということは……」


 ということは、この悪霊は、()精霊……!?

 俺は、この前の保健室でのカディアさんの話を思い出す。

 カディアさんも似たようなことを言っていた。『悪い心を持った精霊が悪霊になる』と。

 噂は本当だったようだ。

 

 これがそういう存在というならば、俺は、俺達はちゃんと割り切らなきゃならない……。

 俺は悪霊を見ながら唇を噛みしめた。



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