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第三十八話 炎の壁

 なぜさっきの狼が……もしかして味方なのか……?

 理由を考えようとするが、その時間は与えてくれなかったようだ。

 狼は、その大きな口と牙で、悪霊の巨大な腕に必死に噛みついて、止めている。

 

 「離せぃ! くそっ! 一度ならず二度までもっ!!」


 二度……? 

 まさか一度目は。

 俺には思い当たる節があった。それはこの前の森に行った二人の生徒の件だった。

 

 カディアさんは言っていた。


 『一般人は普通入ったら戻って来ないのだけれど、この子たちは本当に運が良かったわ』と。


 ただ単に運が良かったというわけでは無かったのかもしれない。

 もしかしたら今みたいに、この狼が彼らを助けて森から逃がしてあげたのでは……、とふと思った。

 それにもし悪い奴だったとするとさっき出くわした時点で俺を襲っているはず。

 そうだとすると、この狼は悪霊じゃない? 普通の獣? それとも――。


 「ぐるぅぅあああ!!」

 「ぐわぁっ!!」


 狼は必死に抵抗する悪霊を押し倒すことに成功した。

 狼は一度、悪霊の腕から口を離し、メラメラと紫色に燃える前足と後ろ足を用いて、悪霊の四肢を抑え込んだ。

 押し倒された悪霊は身動きが取れない状態へと陥った。


 「ぐっ……」

 「…………」


 狼は地面に押さえつけられている悪霊を、その鋭い目で睨み、黙って見下ろしている。

 すると狼は押さえつけた態勢のまま俺のほうへ振り返った。

 俺を見るその目は、何かを語り掛けているようだった。


 「――! そうだ!」


 狼が何を言いたいのか理解した。

 多分この狼は、『今のうちに子供たちと共に逃げろ』そう言いたかったんだろうと思う。

 悪霊が押さえつけられている今がチャンスだと思った俺は、子供達を森の出口へと非難させることにした。

 だが肝心の出口がどこか分からなかった。

 でも迷ってる暇はない。とりあえずここから離れなければ!


 「みんな! 今のうちに逃げよう!!」

 

 子供達は泣いて怯えながらも、最後の勇気を振り絞り、立ち上がって先導するに俺についてこようとしてくれた。

 急がなければ……。あの狼も多分長くは抑え込んでいられないだろう。

 森の広場から出ようとした、その時――。


 ――ぼぉぉぉ!!


 急にその広場を囲うような分厚い白黒の炎が出現した。

 

 「炎に……閉じ込められた――!?」


 俺は三百六十度、周囲を見渡してみた。だが広場から出る抜け道などはすべて途絶えており、びっしりと白黒の炎の壁が俺たちを閉じ込めている。


 「この炎、どこかで――。…………そうか! あのピエロの精霊――!!」


 俺たちを囲んでいるこの白黒の炎。それは昨日あのピエロの精霊が手から出していた炎だった。

 どこかにいるのか!?

 俺は広場全体を見渡してみる。だが広場には、俺と子供達、そして悪霊に黒い狼のみだった。ということは、どこかに隠れてるにちがいない。


 「――あっつ!」


 近づいて本物かどうか確かめてみるが、それは紛れもない炎だった。

 完全に逃げ場をなくした俺は困り果てた。そしてさらに追い打ちをかけるように最悪の事態が起きてしまった。


 「ぐるぅぅがぁああ――!」


 突然、狼が苦しそうな声を発した。

 何が起きたのかと狼の方向に視線を向けてみる――。

 そこには、白黒の炎で体中が燃えている狼の姿があった。

 狼は必死に地面の上を転がって火を消そうとしている。


 「なんで火が!! いや、それよりも悪霊は――!?」


 抑え込んでいた場所にいたはずの悪霊が姿を消している。

 狼がパニックになってる間に抜け出したようだ。

 

 俺は子供たちを守りながら、警戒心マックスで周囲を見渡した。

 

 「――フフフフフ。何が起こったのか知らないが、ざまぁない、なぁっ――!!」


 悪霊は、悶えている狼のすぐ横に出現した。そして、勢いよく狼を蹴り飛ばした。


 「がぁあああ!!」


 狼は火は消えたものの、今蹴り飛ばされたダメージと火傷のダメージがあってか、ぐったりしてしまった。

 さらに悪霊は、蹴り飛ばした狼に近づき、もう一度、蹴りをお見舞いした。


 「ぐ……がぁ……」

 「――さっきのはこの前の分だ。そして今のが、今日の分だ」


 不敵な笑みを浮かべながら、悪霊は苦しそうな狼を見下している。

 

 「立場が逆転したなぁ? ははははは!! ――さてと……」


 高笑いを終えると、悪霊は首だけをこちらに向け、冷たい目で俺たちを睨んだ。


 「次は……、お前たちだ――!!」


 作戦を考える暇も与えさせてはくれず、悪霊は勢いよくこちらへと、腕を振りかざしながら走ってきた。

 悪霊がこちらにたどり着くまで、あと三秒あるかないか。子供たちを守るので精いっぱいだ。

 もうこればっかりはダメな気がしてきた。

 

 「っぐ――!」

 「俺の森から、消え失せろっ!!!」


 悪霊は巨大な右腕を振り下ろす。

 もうこればっかりは、――ダメな気がした。


 「――ピィヤァアアア!!」

 「え――?」

 「なにぃ!?」


 急にどこからともなく、大きく翼を広げた(わし)が現れ、悪霊に体当たりをしてきた。

 悪霊はその衝撃で大きくよろめいた。

 

 「何が起こって…………」

 

 とりあえず悪霊から離れようと、後ろへ下がろうとした。すると、何か背の高いものにぶつかった。そして俺の肩にポンっと男性の手が置かれた。

 誰かと思い振り返ってみると――。


 「――遅くなって済まない。マサト君」

 「こ、校長――!!」


 ようやく助けが到着したようだ。



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