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第三十六話 黒狼

 忘れ物を取りに行くと言ったマサトを見送った私たちは、今回の件を早急にオムニバスに知らせるため、急いで学園へと向かっていた。


 「――ねぇイオラ。さっきのマサトなんか変じゃなかった?」


 フィナも薄々感づいているようだ。

 確かにさっきのマサトは、どこか様子が変だった。

 落とし物をしただけで、あんなにも険しい表情をするだろうか……?

 

 もしかしたら――。

 私の中で一つの予想がついた。

 まだ出会って数日しかたっていないけど、マサトがどんな人物かは、私たちを助けてくれた時点で大体理解した。

 

 マサトは正義感の強い人――。目の前で困っている人がいたらすぐ手を差し伸べる勇敢な人。

 この前だってそう。悪霊に襲われた二人が血だらけで戻ってきたとき、彼は、相手が手は必要ないと言っているのにもかかわらず、問答無用で手を差し伸べた。

 餓死しそうだった私たちの事も、必死になって助けようとしてくれた。あの時食べたカラアゲテイショクの味は今でも忘れられない。


 だから――。さっきの言葉は嘘に違いない。マサトはきっと、あの森に一人で向かったんだ。

 となると、早く応援を向かわせなきゃ。


 「――急ぎましょうフィナ」


 フィナは私の意図を読み取ったのか、私を見て深く頷いてくれた。



************



 冒険は好きなほうだ。

 古代より眠る大秘宝を求め、洞窟、海、森、遺跡、はたまた別世界へと冒険の旅に出る。そんな話は小さいころから好きだった。

 男の子なら大体がそうだろう。冒険映画に出てくるトレジャーハンターに一度は憧れたことがあるはずだ。

 でも今になってなんとなく、トレジャーハンターの気持ちが少し理解できたような気がした――。


 おどろおどろしい形をした植物や木々。動物の白骨死体や腐敗臭。聴いたことも無いような怪鳥の鳴き声。

 秘宝を求めるトレジャーハンターは、こういう場所に入ってたのかと、酷く痛感した。

 

 ゲートを潜り抜けて数十分が経過した頃か。俺は今どこにいるのかすら認識できなかった。

 見渡す限り、木、木、木で、どこが北で、どこが南なのかも全然分からない。多分、ゲートからまっすぐ歩いてきていると……思う……。

 それほどまでに、あやふやだった。

 

 「とりあえず真っすぐ進もう……」


 周囲に警戒しながら俺は慎重に、森の奥へと足を運び続けようとした。その時だった――。

 前方の太い樹木の陰から出てきた()()を見た瞬間、歩いていた俺の足が急にピタッと止まった。

 

 狼だ――。しかも体長約二メートル近くある巨大な黒い狼だ。

 黒くて長い艶のある毛をしており、前足と後ろ足からは、メラメラと紫色の炎が燃えている。なぜか地面の草木に火は燃え移っていない。


 「嘘でしょ……」


 その威圧感を前にして、俺の足は無意識に後ずさった。


 黒い狼は、じっとこちらの様子を伺っているようだった。

 

 こいつがあの二人に傷を負わせた犯人……。――悪霊か!!

 俺は狼から目を離さずに、ごくりと唾を飲んだ。


 どうすればいい……。一気に振り返って、思いっきり走って逃げるか。それとも向こうがどこかへ行くまで、こうやってにらみ続けるか……。


 俺は何かないかと、ポケットに手を突っ込んでみる。

 だがあったのは、この前、精霊との契約の儀式をした際に使った、イオラから貰った、シナモンとカルダモンが入った小袋だけだった。

 これじゃあどうにもならない。

 俺は色々、突破口を考えた。けれどこれといって良い案は浮かばなかった。


 俺は狼と睨み続ける事しか出来なかった。

 すると、どこからともなく子供の泣き声が聞こえてきた――。


 「――うわぁぁぁん!!」

 「――今の声!!」


 狼もその声に反応し、声のする方向に首をバッと向けた。

 もうここしかない――。

 俺は狼がこっちを向いていないうちに、泣き声がする方へと全力で走った。


 走ってる途中で後ろを素早く確認してみるが、あの黒い狼は追いかけて来ていないようだ。

 背を向けている俺を捕らえるのは、あの巨体なら容易いはずなのに、なぜ追いかけてきていない?

 何はともあれ、これで振り切れたはずだ。

 

 子供の泣き声がだんだんと近づいていっている。しかも複数だ。

 女の子、男の子、すべて子供の泣き声だ。

 これはもう疑いようがない。この先に行方不明になった子供たちがいる。


 「――いた!!」

 

 木々を避けつつ全力で走っていると、奥に広い空間が見えてきた。その中央にたくさんの子供たちが、怯えながら、身を寄せ合い集まっているのが分かった。

 そしてようやく、目的地に到着した。


 「――え? だぁれ……?」


 子供たちが怯えた表情でこちらに気付いた。


 俺は近づいて、子供たちを見渡してみる。

 その中には確かに、昨日噴水広場にいた子供たちの姿もあった。

 

 「大丈夫。もうすぐ大人たちが君たちを助けに来るから、安心して」


 俺は警戒心を解くために、子供たちに微笑みかけた。

 子供たちも次第に笑顔を取り戻し、目に光が宿り始めた。

 

 「――おやぁ? 誰ですぅ? ダメじゃないですかぁ? こんな恐ろしい森の中に勝手に入り込んじゃぁ」

 

 野太いスローな声をした昨日のピエロが、薄っすらと怪しげな笑みを浮かべなが、子供たちの後ろから、現れた。



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