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第三十三話 神隠し

 カランコロンと聴いてて心地いいドアベルが鳴り、新しいお客さんが入店してくる。


 「おっと、いらっしゃい! さて――、アンタも欲しい物があるんならゆっくり選びな」

 「あ、はい、ありがとうございます」


 そう告げてローザさんはレジへと戻っていった。

 

 この張り紙の事を肝に銘じておこう。そう自分に言い聞かせ、俺も店内を回り始めた。


 一時間ほどたった頃、俺たちはようやく買う品を決めれた。

 

 「ようやく決まったねぇ。マサトはハーブの苗。イオラとフィナンは包丁と包丁ケース……おっと、忘れてたよ! ちょっと待ってな」


 何かを思い出したローザさんは、店の奥へと潜って消えてしまった。

 そしてすぐに何か持ち出して戻ってきた。


 「忘れるところだったよ。はいこれ。この前あたしがアンタにあげた包丁だよ。気絶してる間、預かっといたのさ」

 「あ……俺もすっかり忘れてました……。持っててくれたんですね、ありがとうございます!」

 「マサトもこれを機にケースを買うといいさ」

 「そうします」


 俺はイオラとフィナンが選んだのと同じ包丁ケースを選んで持ってきた。

 それから宣言通り、すべて特別価格で俺たちに売ってくれた。


 「まいど!」

 「なんか得しちゃったね!」

 「えぇ、来て良かったわ」

 「それじゃあローザさん、また来ます」

 「あぁ。気を付けて帰りな!」


 笑顔で見送ってくれ、俺たちは雑貨屋を後にした。


 「今何時だろ?」

 「今は……12時前ね。結構長居しちゃったわね」

 「学園にかえろー!」


 フィナンの掛け声とともに俺たちは、帰路を歩き始めた。



************



 皆が眠りについた深夜二時過ぎ。月光は国全体を淡く照らしている。

 街道に人気(ひとけ)はなく、昼間の活気の良さがまるで嘘のように、しんっとしている。

 いるのはゴミ箱をあさっている野良猫くらいだ。

 

 いいや、いたのだ。

 噴水広場で薄っすらと笑みを浮かべながら、ポツンと立っている一人の道化師(ピエロ)が――。


 「――今宵も月が綺麗ですねぇ……。あぁ~……絶好の日だぁ」


 野太い声が暗闇の噴水広場に響き渡る。

 それを合図に、月光によってできたピエロの陰からモノクロの精霊が不気味に顔を出す。

 

 「お願いしますよぉ? タピオ」


 精霊がコクっと小さく頷くと、小さな手から、どす黒く光るラッパを出し、吹き始めた。

 

 乾いたラッパのメロディーが、しんっとしている街に響く。

 

 吹き始めると同時に、精霊は歩き出し、ピエロもボールで愉快にジャグリングしながら歩き始めた。

 

 すると、街中の家の扉が次々に開き始め、中から子供たちがパジャマ姿で、うつろな目をしながら出てきた。

 

 「フフフフフ……。さぁ、芸の続きを始めるよぉ。飴玉欲しい子、着いといで~」

 

 子供たちは、ジャグリングをするピエロの後を追うように、一列になって行進しはじめる。


 止まることのないラッパのメロディーを聴きながら、子供たちは街外れにある森に向け、行進し続けるのだった。

 

 

************



 いつものように、俺は朝の陽ざしで目が覚める。


 「う~~ん!」

 

 昨日は街中の市場を見て回ったりして結構疲れてたから、よく眠れた。

 

 「あ、そうだ。昨日買った苗に水あげなきゃ」


 ベッドから降り、テーブルに置いてあった白い陶器で出来ているポットを持ち、洗面台へと向かい水を注いだ。


 ハーブの苗は三種類買った。カモミールとローズマリーとペパーミントだ。小さめの茶色いポットに入れてある。

 

 床に置いてある苗に丁寧に水を入れていく。まだ小さい芽が出ているのみだが、心なしか喜んでいるように見えた気がした。


 自分で植物を育てると、まるで幼い子の面倒を見ているような気分になれる。

 だから学校の庭の水やり当番は、毎日欠かさず行っていた。

 おかげでどのクラスの庭よりも、綺麗な花が乱れ咲いていた。

 先生や友達からは几帳面だとよく言われたものだ。


 「これでよし!」


 水やりを終えた俺はポットを置き、部屋に朝の新鮮な空気を入れてあげようと窓を開ける。


 ふわぁっと気持ちのいい優しい風が部屋へと入り込んでくる。

 

 「今日も天気が良いな~。――あれ? でもなんかおかしいような……」


 俺は何か違和感を感じた。

 

 何かが足りない。

 天気は普通に良い、雲一つない日本晴れだ。

 別に体調を崩しているわけでもない、いたって健康だ、どこも悪くない。

 街の方に目を向けてみるが、昨日と、い……しょ?


 「そういえば、今日は街がやけに静かだな。昨日はここからでも市場が賑わってるのが分かるくらいだったのに……。もしかして休みかな?」


 その時、ドアの方からドンドンッと大きなノックが聞こえてきた。

 俺の体は、反射的に驚いてしまう。

 

 「マサト起きてる!? 大変よ!!」

 「イオラ?」


 ノックの正体はイオラだった。けれどどこか様子がおかしい。

 

 イオラは声を荒らげながら俺を呼んでいる。

 俺は急いでドアの方へ向かった。

 

 「あ、今日も新聞挟まってる」


 昨日と同じくドアの下の隙間には新聞が挟まっていた。

 後で読もうと、とりあえず今は放置しておくことにする。


 扉を開けると、片手に新聞を持ったイオラが青ざめた表情で立っていた。

 

 「どうしたの?」

 「マサト大変なの!! これ見て!!」


 片手に持ってた新聞を俺の目の前で広げてくれた。


 「なっ!?」


 大きく目を見開き、表紙に大きく書かれている記事のタイトルを見る。

 そこには、にわかには信じられない事が書かれてあった。


 『街中の子供たち謎の失踪 この一夜に一体なにが……』

 

 何度もその記事を確認するが、目の錯覚でもなんでもなかった。

 

 「こんなことが……。だって昨日噴水広場で一緒に芸を見てたばかりじゃないか!」

 

 すると遠くの部屋が勢いよく開き、獣耳が生えた女子生徒が泣きながら飛び出してきた。


 「オッシュ!! あぁ……嘘……。どうか……どうか無事でいて!!」


 女子生徒は、心配そうに誰かの事を叫びながら走ってどこかへ行ってしまった。


 「あの子まさか、身内がこの事件に巻き込まれたんじゃ……」


 イオラは悲しそうな表情を浮かべながら、走り去る女子生徒の後ろ姿を見守った。


 さっきの子だけじゃないはず。

 きっとこの学園にも身内が巻き込まれた生徒が大勢いるに違いない。


 怒りと恐怖感を抱きながら、俺は新聞をぎゅっと握りしめた。



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