第三十二話 お土産
噴水広場での大道芸が終わり、ピエロは子供たち一人一人に飴玉をプレゼントしている。
嬉しそうに飴玉を貰った子供たちは、片方の頬をぷくりと膨らませながら美味しそうに舐めている。
「いいなぁ~、僕も貰って来ようかなぁ」
「やめてよ……見てるこっちが恥ずかしくなるじゃない……」
「確かに……」
「えぇ~」
大道芸を見終わった俺たちは、再びローザさんの雑貨屋に向け歩き出す。
しばらく歩くと、例のアーチ状の橋が見えてきた。
ということはローザさんのお店まであと少しという事である。
「ほら、見えてきた」
俺は雑貨屋を指さした。
遠目で見てみると、客が出入りしているのが見て分かる。
どうやら、お店はオープンしているようだ。
さっきの大道芸がいい時間つぶしになったのかもしれない。
いろいろ道草を食ってようやくローザさんの雑貨屋に到着した。
「なんか思い出すね、この前の事」
「そうだねぇ。僕がここでマサトの包丁を盗んで、路地裏まで追いかけっこしたんだっけ」
「え、盗んだって何を?」
「はっ! え~っとぉ、そのぉ……それはかくかくしかじかでして……」
イオラは、じとーっと、慌てているフィナを怪しそうにうかがっている。
なんか面倒な事になりそうな気がしたので、俺は強引に話題を変えた。
「さ、さぁ! 早くお店に入ろう? イオラもここ来たかったんだよね!」
「そそそそうだよ! 入ろう入ろう!」
「……怪しい……」
これ以上イオラが問い詰めないように、すぐさま扉を開け店へと入る。
カランコロンッと聞きなれたドアベルの音が店に響き渡る。
「いらっしゃ――、おや、誰かと思ったら、あんた達かい!」
「こんにちはローザさん」
ローザさんは、思いもよらなかったという表情で俺たちを迎えてくれた。
「今日はどうしたんだい?」
「今日は普通に買い物しに来ました。あ、それとこれを――」
ローザさんが座っているレジの机に、先ほど買ったお土産を置く。
「ん、これはなんだい?」
「この前お世話になったので、これはそのお礼です。ここに来る途中で見つけた『ジェノワーゼ』というお店で買ったチーズケーキです」
「ルポネのチーズケーキかい!? それは嬉しいねぇ! ありがとうなマサト!」
ローザさんはすごく嬉しそうにチーズケーキを受け取ってくれた。
イオラとフィナンも続けて、プレゼントを渡そうとする。
「私達の事も助けてくださって本当にありがとうございました。でなければきっとあの学園に入学できませんでした。――これマカロンです、良かったらどうぞ」
「僕からはチョコレートの詰め合わせ!」
「あんた達まで……。やっぱり助けて良かったよ、ありがとうな! 全部大好物だよ!」
ここまで喜んでくれると、俺たちもプレゼントした甲斐があった。
「よーっし! 今回は特別だ! 店に売ってあるもの特別価格で売ってあげるよ!」
えぇ!? と俺たちは腹の底から大声を出し、喜んだ。
この雑貨屋にある高そうな包丁やら、食器やら調理器具やらが全部特別価格なんて……。まるでスーパーの特売日みたいだ。
こっちがお礼をしたかったのに、これじゃまるで逆だ。またお礼の品を用意したくなってしまう。
でもそれだと一生ループしそうなので、ここはお言葉に甘えよう、と俺たちはワクワクしながら店内を回り始めた。
「今は客が少ない時間帯だからゆっくり選びな~。……おー、ルポネの坊や、また腕を上げたみたいだねぇ」
ローザさんは、袋の中身を見てにやにやしながら、お土産を持って店の奥へ消えていった。
「この包丁すごく高そうね……これも特別価格で売ってくれるのかしら……」
「見て見て、このでっかい鍋! いったい何人分できるんだろう?」
二人とも子猫並みの好奇心で商品を見て回っている。
この前は倒れてて見て回れなかったから、ここに来て正解だった。
俺は我が子を見守るように、楽しそうな二人を眺める。
ふと外の景色を見ようと、窓の方向に目を向ける。
すると、窓になにやら張り紙の様なものが貼ってあることに気が付く。
外に出てるときは気づかなかったけど、これは……。
その張り紙には見覚えがあった。
それは今朝、俺が部屋を出ようとしたときに、ドアの下に挟まってあった、『例の森』に関する注意喚起の張り紙だった。
「決まったかい?」
「ローザさん、これって……」
俺は張り紙の事について尋ねる。
するとローザさんは一気に真剣な表情へと切り替わった。
「……校長の命令で街中に張り紙を貼ったのさ。これ以上被害が出ないためにね……。マサトも知ってるだろう? 昨日あの森にうちの生徒が入っちまった事。」
「……はい。昨日玄関でちょうど出くわしました。二人とも酷い有様でした……」
「あぁ。――だから、あんたも絶対に入るんじゃないよ、いいね?」
ローザさんはシリアスな表情で、強く注意を促した。