第三十一話 大道芸
「あの……もしかして、ここの店長さんですか?」
俺はその短い金髪の青年に質問した。
「えぇそうですよ。僕の名前はルポネ。ここ『ジェノワーゼ』の店長を務めています。お待たせして申し訳ありませんでした……。ちょっと材料が切れたもので、近くの市場まで買い出しに行ってたんです」」
ルポネと名乗るこの店の店長は、レジに入ると、持っていた重そうな買い物袋を床に置いた。
それからルポネは、俺たち三人の会計をしてくれた。
「このチーズケーキ、すごく工夫されてて美味しかったです」
「うん! ほんとに美味しかった!」
「えぇ。こんな美味しいチーズケーキ食べたことなかったわ」
「それは良かった。これはうちの看板ケーキでもあるんですよ」
一言ずつ感想を告げると、ルポネは爽やかな笑顔を俺達に見せてくれた。
そしてお土産を紙袋に入れて渡してくれた。
「はいどうぞ。早めに食べてくださいね」
「ありがとうございます。また来ます」
紙袋を受け取り、俺たちはジェノワーゼを後にした。
ここは行きつけのお店になりそうだ。
「さてと――。ローザさんの家に向かおうか」
フィナンが、おー! と気合を入れて、俺たちも歩き出した。
ジェノワーゼに入ってから三十分くらいが経過しただろうか。外はまだ依然として賑わっている。
それどころか、さっきより通行人が多い気がする。特に子供連れの親子が多い
「ねぇなんかさっきより人多くない?」
「そう言われてみればそうね……」
「――あ! ほら見てあそこ!」
フィナンが指さした方向を見てみると、遠くの噴水広場にたくさんの人だかりができているのが確認できた。
ワイワイガヤガヤとすごく賑わっている様子だ。
「アレなにかしら?」
「行ってみよう」
気になった俺たちは、その人だかりの方まで行ってみることにした。
「来てみたはいいけど……」
「人がいっぱいいて何が起きてるのか全然分からないわね……」
大量の人だかりのせいで、なんで盛り上がってるのか全然分からない。
唯一分かるのは、みんな笑いながら何かを見ている、ということだけだ。
「ちょっとごめんなさい!」
人ごみをかき分けながら前に行く。
狭苦しい人ごみを通り抜け、ようやく前に出ることができた。
「これは――」
目の前にいたのは、赤と紫の派手なだぼだぼ服を着た、中年太りの男性ピエロだった。
顔面は真っ白で、赤いアフロヘア―をしている。
ピエロはニコニコと笑みを浮かべながら、拳ほどのカラフルなボールをジャグリングしている。
かと思いきや、わざとらしく手を滑らせ、せっかくうまくジャグリングしていたボールを全て地面に落としてしまった。
ピエロは、およおよと慌てながらおどけている。
そしてその滑稽な姿を見て、周りの人たちは大爆笑している。
「あはははは! ばっかだなぁ!」
「そ、そこまで面白いかしら……」
イオラの言う通り、はっきり言ってあまり面白くはない……。
小さい子向けの教育番組を見させられている気分だ。
地面に落っことしたボールをすべて拾い集めると、マジックの様にポンポンと煙のようにボールを消した。
そして観客に一礼すると、次の芸が始まった。
ピエロが頭を上げると、背後から、奇妙な仮面をかぶった一頭身姿の精霊がひょっこり現れた。
その精霊には大きく長い耳が生えており、体の色が黒と白で綺麗に分かれている。
周りの子供たちは、その精霊を見て、可愛いとキャッキャ喜んでいる。
今度の芸は一味違った。
その精霊は、手から黒と白の火の玉をいくつも出し、ピエロの方へ勢いよく投げつけた。
このままでは直撃してピエロが大やけどを負ってしまう。
観客は手で目を半分隠しながら、その光景を見守っていた。
しかしピエロは、それをしなやかに一個ずつキャッチし、火の玉でジャグリングを始めた。
熱そうなそぶりを見せるが、全然余裕でジャグリングを続けている。
観客からは、おぉ! と歓声が飛び交った。
目にも留まらない速さでジャグリングを続けると、次に火の玉を空高くへと飛ばした。
ピエロは空を見上げながら大口を開けている。そして空から一個ずつ落ちてくる火の玉をなんと、ごくごくと飲み込んだ。
そしてすべての火の玉を飲み込み終わり、苦しそうな顔をしているピエロは、モノクロの精霊にお尻を向け、勢いよく、大音量のおならをかました。
どくろの形をした白と黒のおならを食らった精霊は、うっ! と臭そうに顔を抑え、くるくる回ってバタンと倒れてしまった。
周りの観客は、さっき以上に大爆笑している。
一芝居終えた精霊とピエロは、二人一緒に並び、見てくれた観客に向け深くお辞儀をした。
どうやらこれで終わりみたいだ。
噴水広場には、大きな歓声と拍手が沸き起こった。