第三十話 街のお菓子屋
時間が進むにつれて、通行人も徐々に増えつつある。食材市場にちょっとした人だかりができているほどだ。
せっかく臨時収入が入ったのだから、何か買わないと損だな……。
そう思いながら、色んなお店を見て回る。
するとイオラが何か発見したようだ。
「――あら? あそこの店、もしかしてお菓子屋さんじゃない?」
「どこ~?」
「あ、ほんとだ。行ってみようか」
イオラが指さした先にあったのは、茶色いテントがトレードマークの、白いレンガで出来た小さなケーキ屋だった。
店の前まで近寄り、窓から店内を覗いてみる。
まるでお菓子の宝物庫の様だ。キャンディやチョコレートやクッキーなどが入った木箱が、ずらっと並べられている。
それだけじゃない。レジの下には、丸みを帯びた長いガラスのショーケースがあり、中には艶のあるチョコレートのケーキ、モンブラン、ショートケーキ、マカロン、タルトなど、数えきれないほどのケーキが並べられている。
そしてなんといっても特徴的なのが、店のど真ん中にある、厳重にガラスケースに守られた、どでかいお城の形をしたケーキだ。
「うっわぁ! すっごーい!」
「あのケーキ……まさかフーディリア城じゃないかしら? すごい再現度ね……」
「どこかで見たことあると思ったら、あの城だったのかぁ……」
どうやらお店はオープンしてるみたいだったので、俺たちは入店してみることにした。
チリンチリンと心地良い鈴の音が俺たちを歓迎してくれる。同時に、色んなお菓子の甘い香りが出迎えてくれた。
まだお客さんは来ていないようだ。店の中には誰一人いない。スタッフもいない。
本当にオープンしてるのかとちょっと不安になるが、構わず店内を見て回ることにした。
「うわぁ! これ美味しいよ二人とも!」
「ちょっとフィナ!? 貴方なに売り物食べてるのよ!!」
「やだなぁ、これは試食用だよ~。二人も食べてみなよ」
そう言ってフィナンは俺たちに、一口サイズに切ったチーズケーキが入った小さい木箱を差し出した。
「びっくりした……。じゃあ私も一口」
「じゃあ俺も~」
白と黄色の層が綺麗に分かれたチーズケーキを手に取ってみる。
外側はタルト生地だ。
やや弾力があり、チーズの濃厚な香りが俺の別腹を刺激する。
いただきますと一言告げ、口に放り込む。
サクッ、とタルトの触感が耳に響く。
そして、濃厚でなめらかな二種類のチーズ。これが何とも言えないくらい美味い。
濃厚ながらも爽やかで、全然飽きが来ない。きっとこの二種類の層のおかげだろう。
見事なまでに、タルトと二種類のチーズが調和しており、奇跡的な美味しさを生み出している。
本当にこれが試食用なのか?
「なにこのチーズケーキ……これが試食用って、レベル高すぎるんじゃ……」
「そ、そうね……。お金を払わなきゃもったいない気持ちになるわね……」
「ほんとに試食用だってばー!」
思わず二個目に突入してしまう。
そこで俺は思いついた。
これをローザさんのお土産にしよう。この前色々とお世話になった事だし。
「フィナン。これどこにあったの?」
「ショーケースの上だよ。ホールも中に入ってるんじゃないかな? マサト買うの?」
「うん。ローザさんのお土産に一つね」
「あ! それなら僕たちも何か買おうよイオラ! ローザさん僕たちを看病してくれたでしょ?」
「それもそうね。何にしようかしら」
それから二人は、何をお土産にしようかうなりながら、店中を探した。
しばらく探しまわって、先に決まったのはイオラだった。
「私はこのマカロンにするわ」
イオラが選んだのは、箱に数種類詰め込んである色鮮やかなマカロン。
「じゃあ僕はこれ!」
フィナンが選んだのは、色んな種類のチョコレートが敷き詰められた缶。
それぞれのお土産が決まったところで、俺たちはレジへと向かう。
だが、スタッフはいない。
「あのー! すいませーん!」
俺の声はお店に虚しく響きわたるだけで、店の奥からは誰一人出てこない。
やっぱりまだオープンしてないのでは……。
「誰も出てこないわね……」
「も~……。すーみーまーせーんー!」
今度はフィナンが大声で店の奥に向かって叫ぶ。
その声が外にも聞こえたのだろうか、通行人がチラチラとこっちを見てくる。
「……ダメだ、出てこないや。諦めて別のお店で――」
フィナンが言いかけたその時、入り口から、チリンチリンと音が鳴った。誰か入店してきたようだ。
俺たちは振り返って確認してみる。
「――あちゃ~やっぱり来てたか~。ごめんなさい! お待たせしました!!」
爽やかな声で入店してきたのは、真っ白いコック服を着た青年だった。