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第二十九話 棚から牡丹餅

 食堂を出て、玄関までやってきた。

 廊下にこびり付いていた血痕は、きれいさっぱり無くなって綺麗になっている。

 

 玄関横の事務室の窓からカディアさんの姿が見える。どうやら仕事中みたいだ。

 ちょうどカディアさんがこちらに気付いたので、俺は軽く会釈する。

 するとカディアさんは、微笑みながら手を振って挨拶してくれた。

 

 玄関の外へ向かいながらフィナンが口を開いた。

 

 「ねぇねぇ。()()()は街に行って何買うの?」

 「う~ん……買いたいのはやまやまなんだけど、恥ずかしながらお金持ってなくてね、あはは……」

 「君も色々大変なんだねぇ」


 そういえばまだこっちに来て一文無しだったことを思い出す。

 本当にこれからどうしたらいいんだろうか……。ローザさんの雑貨屋でアルバイトでもしようかな……なんて。

 

 事務室の前を横切ろうとしたとき、突然カディアさんがハッとした表情で俺を呼んだ。

 

 「――()()()? 貴方がマサト君だったの?」

 「カディアさん? はい、そうですけど、どうかしたんですか?」

 「ちょっとそこで待ってて!」

 「カディアさんどうしたのかしら?」

 「わからない……、先行ってて、後で追いつくから」


 イオラとフィナンは分かったと言って、先に歩き始めた。


 カディアさんは事務室の奥へと消え、しばらくすると手に何かを抱えて戻ってきた。

 

 「どうしたんですか?」

 「ティラ先生から荷物を預かっています。これをどうぞ――」

 

 そう言ってカディアさんは俺に、ずっしりと重たい巾着袋をくれた。

 中からは何やらジャラジャラと音がする。

 俺はふと巾着袋の中身を覗いてみる。


 「こ、これって……。――お金?」

 「はい。ティラ先生に、ここに入学生のマサトという男の子が入学手続きをしに来るので、ついでに渡しておいてほしいと頼まれたのです」


 袋の中には、ピカピカに輝く五百円玉くらい大きさの金貨が何枚も入っていた。

 

 「その金貨一枚で、普通の人は一か月暮らしていけると言われています」

 「い、一カ月!? いいんですか? そんなもの貰っちゃっても!?」

 

 もちろんです。と笑顔でカディアさんは返事をしてくれた。

 

 「――マサト君。あなたの事情はティラ先生や校長からお聞きしております。いろいろこの世界で分からないことがあるかもしれませんが、その都度私たちを頼ってくださいね」

 「カディアさん……。ありがとうございます。大事に使います!」

 「はい。お気をつけて」

 

 俺は金貨の入った巾着袋を、大事にポケットの中に入れて、先に行った二人の後を走って追いかけた。ちょっとズボンが重たいが……。


 しばらく走ると、二人の姿が見えてきた。

 先に俺に気付いたのはフィナンだった。入学式の時もだったけど、やっぱり耳がいいな……。


 「――あ! マサト戻ってきた!」


 二人に追いついた俺は、ふぅと軽く息を吐く。


 「お待たせ~」

 「なにがあったのマサト?」

 「うん、実は――」


 さっきあったことを二人に話す。もちろん俺が違う世界からやってきた事は一応秘密に。

 そしてポケットから巾着を出して、中身を見せた。


 「えぇ!? こんなに!? マサト大金持ちじゃないか!!」

 「す、すごい……こんな量の金貨見たことない……」

 

 二人はかなり驚きながら、金貨を見つめている。

 これで当分お金の心配することはないな。

 

 「マサトっていったい何者なの!?」

 「あははは……」


 フィナンが不思議そうに聞いてきたが、さすがにまだそれは答えられない……。

 俺は笑ってごまかし、再び街へと歩き始めた。


 緩やかな坂道を歩き続ける事、数十分。俺たちは鉄格子の門の前に到着する。

 門の両端は背の高いレンガの柱になっている。

 そのレンガには、卵に翼が生えた、ガストルメ料理学園のシンボルマークが刻まれている。

 そして門の横には警備室も存在している。

 

 学園の門を通過し、再び街へと歩き出す。

 

 しばらく道なりを歩くと、すぐに街の入り口へと到着した。


 「着いた~!」

 「今は――八時過ぎね」

 「朝なのに結構人いるんだね」

 

 街へと入ると通行人は思ったよりも多かった。

 家の外では若い奥様方が談笑をしていたり、おばあちゃんが花に水をあげてたり、獣人の人がランニングをしていたり、市場の店主が呼び込みをしていたりと、大変活気がある。

  

 俺たちはまず、ローザさんの雑貨屋を目的地に進むことにした。

 ここから割と距離はあるが、いろいろ見て歩くうちに着くだろう。

 

 しかし、この活気のある市場の風景は、世界が変わっても見飽きないもんだ。

 小さいころ、母さんによく商店街の市場に連れてってもらった時のことを思い出す。

 

 獲れたての新鮮な魚や肉、野菜や果物がたくさん売られているこの光景は、いつ見ても冒険心をくすぐられる。

 これは思ったより、ローザさんのお店に着くのは先になりそうだ。



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