第二十七話 朝
うつ伏せ状態で目が覚めると、部屋には明るい日差しが差し込んでおり、窓の外からは小鳥のさえずりが聞こえてきた。
朝だ。こっちに来てから初めて見る朝日が俺の瞼を刺激する。
上半身を起こし、大きく背伸びする。
「う~~ん! ――さて、朝シャン浴びようかな」
ベッドから降りると、ひんやり冷たい床の感覚が足の裏を刺激する。
窓の方へ歩み寄り、両開きの窓を開いた。
同時に、心地良い風がふわりと入り込んだ。
街の方を見ると、人がちらちら歩いているのが分かる。ここから見ると、まるで蟻のように小さい。
ひと眺めし、窓を閉めシャワー室へと向かう。
シャワー室は、部屋の扉を入って右側にある。
中にはバスタオル、フェイスタオル、歯ブラシ、歯磨き粉と洗面用具が一通り揃っている。
シャワーは脱衣所の横にある。白いカーテン付きの、人一人分が入れるくらいのシャワー室だ。
とりあえず先に歯を磨く。
そしてその後、脱衣所にて服を脱ぎシャワー室へと入り込んだ。
しかし重要なことに気が付く。
シャワーのレバーがどこにもない。これではお湯を出せない……。
ただシャワーがシャワー掛けに掛かってるだけで、それらしきレバーがどこにも見当たらない。
俺はとりあえずシャワーを取ってみる。
と同時に勢いよくお湯が吹き始めた!
「うわっ!」と、思わず声を出してしまう。
どうやらシャワーを外せばお湯が出る仕組みの様だ。
お湯の出し方は分かったが水の出し方は分からなかった……。
でもまぁ朝シャンだしいいか、と思ってそのままお湯を浴び続けた。
一通り洗い終わり、シャワー室から出て、脱衣所に置かれているバスタオルで体と髪を拭いた。
着替えが終わり、洗面台の鏡に映る自分を見ながら身だしなみを確認する。
「――よしっ!」
鏡の自分に向かって大きく頷き、外へと出る。
俺はこれからの事を考える。
とりあえずは朝飯かな。せっかくだから食堂で食べてみようか。
身支度を整え、部屋から出ようとすると、ドアの下の隙間に何か紙のようなものが落ちているのに気付いた。
俺は隙間から顔を出している紙を引き抜いた。
それは一枚の紙で、表面にはいろいろ記事が書かれている。
どうやら新聞のようだ。
これはありがたいなと思い、俺は新聞をよく見てみた。
新聞の表紙には、二分の一ほどの大きさで、昨日の入学式の記事が書かれていた。
校長が挨拶をしている時の写真や、ビュッフェを楽しむ入学生たちの写真などが載せられている。いったいいつ撮ったんだろうか……。
それ以外には特に目立った内容は書かれていないようだ。
裏返して見ても、これといった内容は無いだろう。そう思いながらも裏返してみた。
しかし、そこには見覚えのある記事が載ってあったのだ。
俺の頭の中で、昨日の出来事が一気に蘇ってきた。
そう。そこには、あの森に関する記事がでかでかと書かれていたのだ。
『例の森、入るべからず』と。
表紙には、森への入り口の写真が載せられており、入り口の奥には暗い闇が広がっている。
そしてその写真の真横には、ドクロマークも描かれている。絶対に入るなと注意喚起しているのだろう。
これだけ注意を促されたら、森に入り込む生徒なんてまずいないはず。
俺は新聞紙をベッドの横のテーブルに置き、今度こそ部屋を出ようと扉を開け廊下へ出た。
廊下にはまだ誰もいないみたいだ。きっとまだ寝ているんだろう。
精霊がまだ扱えない俺は、今何時か全然分からない……。
するとイオラの部屋の扉が開く。
「――あらマサト、おはよう。早いのね」
「おはようイオラ。今何時か分かる?」
「七時よ。さっき確認したの」
ちょうどいいところにイオラが部屋から出て来てくれたおかげで、時間が確認できた。
精霊が扱えるようになるまでは、他の人に時間を聞くしかないかな。
「ありがと!」
「どういたしまして。それよりどこか出かけるの?」
「うん。今から朝食を摂りに食堂にね」
「奇遇ね。私も行こうと思ってたの」
「じゃあフィナンも誘おっか」
俺とイオラはフィナンの部屋の扉の前に立った。
扉の下を見てみると、まだ新聞が挟まったままだった。ということは、まだ起きてないってことかな……。
「フィナン起きてるかな?」
「たぶんまだ寝てるわ……。あの子、朝すごく弱いから……」
そう言いながらイオラはフィナンの部屋の扉をそーっと開けた。
そして忍び足でベッドの方へと近づいた。
「……ほらね?」
ベッドの上には、気持ちよさそうな顔をしながら、だらしない恰好で枕を抱いて寝ているフィナンの姿があった。
尻尾だけがプラプラ動いている。
「まったくもう……。――ほら、起きなさいフィナ! 朝食食べに行くわよ!」
イオラはフィナンの体を揺さぶり起そうとしている。こうやって見ると、もうお母さんだな……。
「すぅすぅ……」
「起きないねぇ……」
「はぁ。仕方ないわね。――ミンティ。お願い」
イオラの肩からピョコッとミンティが飛び出した。
そしてベッドの上に飛び移り、フィナンの尻尾の元まで歩み寄った。
ミンティは、ぱたぱたと動いているフィナンの尻尾を眺めている。
そして次の瞬間、尻尾を掴み取り、その小さい口でガブッと噛みついた。
「――いったぁぁぁい!!!」
フィナンは勢いよく飛び起き、痛そうに尻尾を撫でている。
うん。それ痛いんだよね。分かるよ……。
「いつつつ……びっくりしたなぁもう!」
「おはようフィナ。朝食食べに行くから早く準備しなさい」
「うぅ~、だからってミンティで起こすことないでしょ~?」
「あはは……」
心なしかミンティの顔が得意げだ……。
「私たちは廊下で待ってるから、早く準備してらっしゃいね」
「はぁい」
そして俺とイオラは、フィナンの身支度が終わるまで廊下でしばらく待つのだった。