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第十七話 歓迎会

修正完了しました!

 教師たちの挨拶が終わり、壇上には校長だけが残っている。


 「以上が我が学園の教師たちだ。必ずや君たちを立派な料理人にしてくれるだろう。無論それは君たち次第でもある。そしてこれだけは胸に刻んでおいてほしい」


 校長は両手を教壇に置き、全校生徒を見渡して言った。


 「――君たち一人一人に私たちのような料理人になれる素質、可能性を持っている。それだけは覚えておいてほしい。以上だ」

 「ディサローニ校長ありがとうございました!」


 校長は話を終え、壇上の影へと消えて行った。


 あの人たちみたいな料理人になれる、その素質と可能性はみんな持っている。

 校長の言ったことが俺の頭の中で何度もリピートされる。

 国家精霊料理人。国で一番の料理人……。

 なりたい。なってみたい。いや、ならなくちゃ。

 だって俺はいつか母さんのような料理人になるって決めたから。

 そのためには絶対に通るべき道だ。


 「マ、マサト? どうかしたのかい? 眉間にシワ寄せちゃって。おしっこ?」

 「へ? あぁごめん違うんだ、ちょっと考え事してただけ」


 気づかないうちに顔に出てたみたいだ。焦っちゃダメだな、俺の悪い癖だ。

 でも、頑張らなくちゃならない。たくさん勉強して腕を磨き、そしてまずは目指そう、国家精霊料理人に。

 まぁその前に早く精霊を扱えるようにならないと話にならないか……。

 俺は心の中で苦笑した。


 「それでは以上を持ちましてガストルメ料理学園の入学式を閉会いたします!」


 校長の話と教師の紹介だけで入学式は終わった。校長の話はかなり長いと相場が決まってるのだが、元居た世界よりだいぶ早くて助かった。

 そんな事を考えていると、壇上の影からティラがひょっこり出てきた。


 「え~皆さん! 入学式お疲れさまでした! 改めてご入学おめでとうございます! それに伴いまして、ささやかながら別ホールにて、歓迎ビュッフェをご用意しております!」


 生徒たちの中から、おぉと、歓声が沸き起こる。入学式よりそれを楽しみに待ってたって人がほとんどだったって事が一瞬で理解できた。

 

 ホールの出口が開き、生徒たちが次々と小走りで出ていく。


 「ねぇ二人とも! 僕たちも行こうよ!」


 フィナンが立ち上がり、尻尾をブンブン振り回しながら俺とイオラを誘う。

 フィナンはきっと感情が尻尾に出るタイプだ。


 「そうね、行きましょうか」

 「早く行かないと無くなっちゃったりして」

 「えぇ!! じゃあ早く行こう!!」


 俺が軽い冗談を言うと、フィナンは急いで扉を開けた。

 廊下に出ると少しだけ暖かい。絵画ばかりで窓も時計も見当たらず今が何時か全然分からない。

 そもそも時計という概念はこの世界にあるのだろうか。


 「イオラ、今何時か分かる?」

 「分かるわよ」


 そう言うと、イオラは自分の手を顔の前まで持っていき、何やら目を瞑っている。

 二秒間ほど瞑った後、突然イオラの手から黄色く光るいくつもの歯車と二本の針が出てきた。

 時計だ。まるでホログラムのような時計がイオラの手のひらに浮かんでいる。


 「今は正午ね」


 そしてその光る時計はスッと消えた。

 その光景が凄すぎて何時か聞きそびれてしまった……。


 「イオラ……今のどうやったの?」

 「……? どうって、精霊の力を借りたのよ?」


 当たり前の事の様にイオラは言った。


 もう何が出てきても驚かない。俺は心の中で静かに決意した。


 「あなたって本当不思議な人ね」

 「え……?」

 「だって、精霊の事も知らないし、食べたことのない料理も作るし、見ず知らずの私たちを助けてくれたし……」

 「それは放っておけなかったからだよ。あのまま飢え死にする姿は見たくなかったんだ」

 「…………ありが――」

 「おーい! 二人ともー! 早くー!」


 前を歩いていたフィナンがいつの間にか遠くにいた。歓迎ビュッフェが待ちきれないのだろう。


 「わかったー! ほらイオラもお腹減ってるんじゃない? 早くいこう?」

 「……まったくフィナったら――。そうね行きましょうか!」


 俺とイオラは走ってフィナンに追いついた。

 フィナンはしかめっ面な表情で腰に手を当てている。


 「遅いよ~無くなっちゃったらどうするのさ~」

 「ごめんごめん」

 「大丈夫よ、オムニバスの方々が作ったのよ? きっと入学生が食べ切れないくらいの量を作ったに違いないわ」


 三人でワイワイ話してるうちに、下の階にあるビュッフェ会場の扉の前に到着した。

 入学式会場のと同じくらい大きな扉だ。扉の隙間からは賑やかな声が聞こえており、良い匂いも少し漏れていた。どうやらもう始まっているようだ。


 「じゃあ開けるよ――」


 俺は重たい扉を押して開けた。

 扉を開け最初に感じたのは、その広い空間の事ではなく、食欲をそそる美味しそうな香りだった。


 「うっわぁ~! すごいよ二人とも! 色んな料理があちこちに!」

 


 入学式会場よりも少し広めな空間のあちこちには大きな丸テーブルが置いてあり、その上に見たことも無いような料理がビュッフェ形式でたくさん置いてある。


「これは……予想以上ね」


 さらに両端の細長いテーブルには、プリンやケーキなどの生菓子、クッキーやドーナツなどの焼き菓子など様々なデザートも置いてある。

 生徒たちはワイワイガヤガヤと料理を自分の皿へと盛っていっている。


 「イオラの言った通り心配する必要はなかったみたいだね」

 「そうみたいね。良かったわねフィ……あれ? フィナは?」

 「あぁ。フィナンなら既にあそこに――」


 俺はホールの中央にあるテーブルを指さした。

 俺も今さっき気づいたのだが、フィナンは我慢の限界で既に料理を盛り始めていたのだ。


 「あの子ったらいつの間に……」

 「俺たちも行こうか!」


 それから俺たちは学園のビュッフェを楽しんだ。

 肉料理、魚料理、スープ、他にも見たことのない料理が様々。それらは全て、俺が作るより遥かに美味かった。当たり前と言えば当たり前だ。この国のトップの料理人たちが作ったのだから。


 まだまだな及ばない自分を心の中で叱った。けれどもこれからだろう。これから俺はこの世界で暮らし、きっと何回も何回も料理を作る。そしてその度に学んでいけるだろう、と未熟な俺は自分自身を激励した。


 異世界で何が待ち受けているのか、今の俺には予想もできないから不安しかない。でも、きっと何とかなる、根拠は無いけど。

 これは母さんの受け売りだ。

 後のことを深く考えても仕方がない、と楽観的な母さんはいつも言っていた。

 だから今は料理を楽しもう。


 俺は静かに闘志を燃やしながら、引き続き料理を口に運んだ。



第一章の大幅修正および改稿終了しました!

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