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第十話 万能の力

修正完了しました!

 振り返ると、そこにはさっきの双子が立っていた。


「あれ、さっきの……ルリちゃんとチサ君?」

「どうもです、お兄さん」

「……ふんっ」


 チサの後ろにいた不満顔のルリが、腕組みをしながら鼻を鳴らす。

 この二人、性格が真反対すぎる。

 

「あっ! そう言えばまだお礼言ってなかった」


 俺はその場にしゃがみ込み、チサの頭にポンと手を乗せた。


「さっきはあの二人を助けてくれてありがとう。君たちとローザさんが居なかったら今頃どうなってたことか。ほんと感謝するよ」

「い、いえ。大したことはしてない……ですので」

「むぬぬぬぬっ……! ふんっっっっ!!」


 後ろのルリがご立腹だ。

 そっぽを向きながら、チラチラと俺とチサを見ている。


「あ、あの!! おねぇちゃんも、その、頑張りました……だから……」

「うん、分かってる。――ルリちゃんも一生懸命運んで来てくれたんだよね? 重かっただろうけど、よく頑張ったね。ありがとう」

 

 微笑みながらそう言うと、ルリは驚いた表情をしながら顔を赤らめ始めた


「え……? なっ! うっさいバカっ!! ボケっ! スカタンっ! 足の小指の爪剥ぐわよ!?」

「ピンポイント過ぎでしょ! 絶対痛いからそれだけは止めようね!?」

 

 ほんと恐ろしいことを思いつく精霊だ。

 可愛らしいのやら恐ろしいのやら……。

 

「ところでなんで二人がここに?」

「ローザに、手伝ってやれってに頼まれたんです。」

「ローザさんが?」

「あんた、パートナー(精霊)いないでしょ? 今時珍しい……。仕方ないから私たちが仮契約してあげる。仕方なく……仕方なーーっくねっ!! それにそのほうが早く終わるしねっ!」

 

 それは心強い。

 作業効率も上がるだろうし、精霊の力を使うって実際どんな感じなのか気になっていたところだ。


「ありがと二人とも、すっごく心強いよ! ところで仮契約ってどうやってするの? 『血』?」

「どこの世界の契約よそれ……。()()()()()()()()()()()()

 

 俺は少々驚いた。

 一体どこを持っていかれたのか心配になって、体中を手で触って確認する。

 

「どうやって?」

 

 俺の疑問に今度は二人で答えてくれた。


「僕たちが仮契約するって決めた相手に触れさえすれば、仮契約は成立するんですよ」

「そう。でも本契約とは別のイレギュラーな契約だから、一時間もしたら切れちゃうわ。それと――」

「一時間!? じゃあ早く準備しないと! えーっと、何作ろう……」

 

 制限時間があるとは。

 しかも一時間だけ。

 まだ何を作るかすら決めていない。

 

 あの二人は何が好きか……いいや、それよりも栄養があって体力が付きそうなものを……。

 俺は食材を見て回りながら、急ピッチで献立を頭の中で練り始めた。


「ちょっと、話は最後まで――! ……まぁいっか」

「大丈夫かな、おねぇちゃん? だってあのお兄さん……」

「ま。たぶん大丈夫でしょ」


 ルリとチサが何やらブツブツと話しているが、俺は気にもせず献立作成を続けた。


 一時間、一時間か。意外と時間が無い。

 仮契約が切れる前に早く二人に栄養満点の料理を作ってあげなければ。

 

 メニューを考えること五分くらい。

 食品庫内のちょうど良いと感じていた涼しさが、次第に寒く感じてきた。

 

「あれと、あれと……あと、あれもあったほうがバランス良いかな。よし! 早速材料集めて作ろう!」


 ようやく、栄養満点で体力の付く、それでいて元気も出る、良バランスのメニューが完成した。

 

「ぅおっそいっ! どんだけ待たせんの? チャッチャと決めなさいよチャッチャと! 鼻毛全部抜かれたいの?」

「鼻ッ!?」

「おねぇちゃん、そんなことしたら病気になっちゃうよ! それにまだ五分くらいしかたってないから大丈夫だよ」

 

 しびれを切らしたルリが、カンカンになって怒った。

 

 本当にルリの独特な暴言には驚かされる。

 冗談なのか本心なのか良くわからない……。

 ただ、俺の中の精霊と言うイメージが完全にひっくり返ったことだけは、間違いなく言える。

 

 なんにせよ、ローザさんの精霊である二人が力を貸してくれるのは心強い。

 俺は大船に乗った気分で、必要な食材をかき集めた。

 

「これとこれとー……あとあれも。よしっと、これで揃ったはず」

 

 両手いっぱいに食材を抱えたまま食品庫から出る。

 

 キッチンに移った途端、急に暖かくなった。

 長い事あそこにいたから肌がまだ冷たい。


「よっこらせっと」


 中央のキッチンテーブルに食材を全て置いた。

 

「米、味噌、鶏モモ肉、ニンニク、ショウガ、キャベツ、トマト……――うん、オッケ! 揃ってる」

「調味料はあそこ」

 

 ルリが調理台の上にある木製の棚を指さした。

 

 棚の中には、瓶に入ったハーブに数種類の液体調味料。

 塩、胡椒、小麦粉、片栗粉などなど、俺の知る調味料がきちんと名前まで書いて整頓してあった。

 さすがは雑貨屋の店主だ。

 

 フライパンも鍋も調理器具も万全。

 まるでプロの料理人のキッチンの様だ。

 自分の家のキッチンがここまで完璧だったら……。

 嗚呼。理想のキッチンが、ここにはある。

 

 何はともあれ、これで心置きなく調理開始できそうだ。

 

「よし、まずは米を炊いて、それから鶏モモ肉を――あ」


 俺は、テーブルの上に置いた、()()()()()()()()鶏モモ肉を見て、固まった(凍った)


 コツコツと指で小突く。

 かなり硬い、まるで鉄だ。

 こんなの流水にさらしたって、一時間じゃ絶対に解凍できない。


「そうだ……! せめて電子レンジで――!」

「デンシレンジ……? なにそれ? そんな変なオレンジ、見たことも聞いたことも無いわよ」

「だよねー……そういうとこだもんね、ここ(異世界)は……」


 やっぱりそう言った文明の利器は存在しないらしい。

 

「じゃあこれどうやって解凍すればいいのさ……」

「? あんた、何のために私達がいると思ってんの? その肉に手かざして『解凍したい』って思えばいいだけじゃない」

「あ、そうか。そういう事もできちゃうんだ」


 ルリに言われた通り、鶏モモ肉に手をかざし、そう念じた。 


 すると暖かい光が、鉄の硬さを誇る凍った鶏モモ肉を包み始めた。

 

「すごい……これが精霊の――」


 みるみるうちに氷が解けていき、僅か数秒で、弾力のある新鮮な肉へと解凍された。

 

 電子レンジじゃこんなに早く解凍するのは無理だ。

 解凍スピードが尋常じゃない。

 

「ってことはもしかして!」


 次に俺は『凍れ』と念じてみる。

 

 また光が鶏モモ肉を包み始める。

 今度は冷気を感じる。


「おぉ……」


 思った通り。

 鶏モモ肉はパキパキと音を立てながら急速に凍っていく。

 そしてあっという間に、元の硬く冷凍された鶏モモ肉へと変化した。


「すっっっごい! ちゃんと凍ったぁ!」

「当たり前じゃない、最近産まれたの、あんた!?」

 

 好奇心旺盛な子猫のようにはしゃぐ。

 これ以外にもできる事が色々ありそうだ。


「これならすぐ作れそうだ。早速取り掛かろう!」


 精霊の力を再確認したところで、俺は調理に取り掛かった。


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