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第九話 双子の精霊

修正完了しました!

 一心不乱に走り続けてるうちに見覚えのある街道へと出た。

 周囲を見渡してみると、俺が入った路地裏への入り口が目に入った。


「えっと……確かこっちだ!」


 俺の体力なんかどうでも良い。

 二人の方がずっとつらいに決まっている。

 そう思いながら速度を落とすことなく一直線に走り続けた。

 

「あった! あの店だ!」


 最後の力を振り絞り、その店へと走る。

 

「ローザさんっ!!」

 

 勢いよく店の扉を開けると、激しいドアベルの音が店内に鳴り響いた。

 その拍子にローザさんの身体がビクッと跳ね上がる。


「正人! 良かった無事だったようだね……。一体今までどこにいたんだい? 盗人(ぬすっと)は?」


 俺はそのままローザさんの座ってるカウンターへと近づいた。

 

「それよりローザさん……頼みが、あります」

「……なにか訳ありみたいだね。話してみな?」

「はい。実は――」


 俺はローザさんに今までの経緯を迅速かつ簡潔に話した。


「――というわけです。なので急いで俺と一緒に二人のところへ来てください!」

「…………ダメだ」


 思ってもいない言葉が返ってきて驚愕する。


「なんでですか!?」

「なぜ? おかしなことを聞くね? ()()()()()()()()()犯罪者をなんで助けないといけないんだい?」

「うちの商品……って! さっき『やる』って言ってたじゃないですかっ! だからもうあれは俺の……!」

「ああ言ったよ? でも『タダでやる』とは一言も言ってない。あの後ちゃーんと代金を請求するつもりだったのさ。……だから()()うちの商品だ」

「そんな……っ!?」

 

 理不尽な言い訳に俺は歯を食いしばった。

 

 どうすればいいのか……。

 こうしている間にも二人の状態がどんどん悪化しているかもしれない。

 

 時間が無い。

 このままではきっとこの人は梃子(てこ)でも動かない。

 けど他に頼れる場所も……。

 どうすれば、どうすれば……!


 ズボンのポケットを強く握りしめながら、ひたすらに思考を巡らせる。

 

 その時、稲妻のように、とある案が浮かんだ。


「商品……代金……」


 もうこれしかない、と決意する。

 

 どうせ()()は、ここでは役に立たないだろう。

 だったらもういっそ――。


「犯罪者を助けるなんざまっぴらごめんさ。さぁ、他を当たる――」

「じゃあ――これ売ります」

 

 カウンターの上に、それを置いた。

 

「……なんだいこの鉄の箱は?」

「――『スマホ』です」

「すまほ?」


 俺はローザさんにスマホの事を説明した。


「これはこの国、いや――この世界にたった一つしかない、かなり貴重な代物です」

「へぇ……それで? どのくらいの価値があるんだい?」

「価値……は、えっとー……なんとこの国がまるまる一個買えちゃうくらいの価値があります!!」

 

 「ほぅほぅ」とじっと興味深そうにスマホを見つめるローザさん。

 実際そんな価値があるのか分からない。

 適当に言ってしまった。


「これを売るのでどうかお願いしますっ!!」


 深々とローザさんに頭を下げる。

 きっちり九十度。

 誠心誠意おねがいした。


「――ぷっ、く。あっははは! もうムリ降参降参! やっぱあたしこういうの苦手だな、最後まで我慢なんてできやしない!」

「は?」

 

 突然の高笑いに頭を上げる。


「ごめんな正人、さっきの全部ウソ。ちょっと意地悪したくてさ。あの包丁はもう正真正銘あんたの物。その二人もちゃんと助けるさ」

「ほんとですかっ!? っていうかマジでそういうのやめてくださいよ! もうどうしようかと思ったじゃないですか!!」

「だからごめんって言ってるだろ~」


 そう言って軽く謝るローザさん。

 

 長い溜息と共に深く安堵した。

 

 本当に洒落ならない演技だった……。

 こんな理不尽な店、この国の住民に言いふらして潰してもらおうかと思ったほどだ。

 

「こうしちゃいられない。ローザさん、早く二人のとこへ……!」

「ああ。それならもう大丈夫さ」

「え。それってどういう……?」


 理由を尋ねようとしたその時、ローザさんが顎で入り口の方を指し始めた。


 疑問に思った俺が振り返るよりも早く、ドアベルは鳴った。


「ちょっと、おんもいんだけどっ!」

「お、おねぇちゃん! 引きずっちゃダメだよっ! あ、ただいまローザ……連れてきたよ」

 

 店の入り口から入ってきたのは、青と赤の綺麗な羽衣を身に纏った、二人の小さな男の子と女の子。

 プカプカと宙に浮きながら、自分たちの元へと向かってくる。

 

「おーおつかれさん。早かったじゃないか。そのまま奥の寝室で寝かしてやっておくれー」

「うん、わかったよ」

「えぇー、クッソめんどくさいわねぇ……」


 その二人が抱えていたのは――。

 

「フィナンにイオラ!? それにこの子達は……?」

 

 愕然としてると、ローザさんが答えてくれた。

 

「この子たちは、アタシの精霊さ。さっきその二人のところへ向かわせておいたんだ。こっちの女の子が『ルリ』。そしてこっちの男の子が『チサ』。双子の姉弟なんだ」


 ローザさんは一人ずつ名前を教えてくれた。

 この子達も……精霊?


「あん? 誰よアンタ? なにジロジロ見てんのよ、ムカツク。目くり抜いて鳥のエサにするわよ?」

 

 ルリと名乗る気の強そうな精霊が俺を睨み上げてきた。

 可愛らしい見た目とは裏腹に、究極的に口が悪い。

 あともうちょっと丁寧にフィナンを運んでほしい……。


「おねぇちゃん失礼だよ! ごめんなさいお兄さん。そんなことしませんから……」

「え? ああ大丈夫。気にしないで?」

 

 対して気の弱そうな精霊チサは、おとなしげにルリを注意して、代わりに謝ってくれた。

 こういう弟がいたらいいのにと、思わず考えてしまうほど真面目で優しくて、気の使える良い弟だ。


「ふんっ。さっさと行くわよー、チサー」

「うん。それじゃあ……」


 チサは小さく俺に頭を下げ、二人を抱えたまま奥の部屋へと吸い込まれるように入っていった。


「……」


 あっけにとられていると、何かを思い出したようにローザさんが話し出した。


「あ、そうそう。この鉄の箱……すまほ? だっけか。これはあんたに返しとくよー」

「あ、どうも……」


 再び俺の元にスマホが戻ってきた。


「さーてと――。ほら、ぼさーっとしてないで。奥使っていいから、あんたは準備してきな?」

 

 立ち上がったローザさんが俺に言った。

 

「え? 準備……? いったい何の?」

「そんなの、あいつらのメシの準備に決まってるじゃないか。どうせ食べ物を買ってやる金持ってないんだろう? だったら奥の食品庫のもの自由に使っていいからさ。あんたがそれで何か作ってやんな?」

 

 図星を突かれてしまったが、願ってもない申し出に俺は喜んだ。


「いいんですか!?」

「あの子ら腹空かせてるんだろ? 時期目を覚ますだろうし、起きて何も無かったら可哀想じゃないか」


 ローザさんは二人が運ばれていった奥の部屋を見据えた。


「そうですよね……! ありがとうございます。ありがたく使わせてもらいます!」

 

 礼を言って、俺は大至急、奥の部屋に向かった。


「おー、突き当りの左にキッチンがあるからなー!」

「わかりましたー!」


 後ろで聞こえた案内の通り、突き当りが見えてきた。

 右がきっと二人が寝ている寝室だ。

 そしてこっちが……。


 突き当りを左に曲がる。

 カーテンをくぐると、中央の天井に、ガラスの灯りがぶら下がってるキッチンにたどり着いた。


 中を見渡すと、最初に目に入ったのは中央の広い調理台。

 あそこで食材を切ったりするのだろう。


 東側には赤レンガで出来た横長の調理台とシンク。

 壁際には、店内に売られていたのと一緒の、質の高そうな調理器具やフライパンがぶら下がっている。


 あと調理台の上には、何か分からない弓矢の的のような石が取り付いていた。

 コンロのようにも見えなくはないが、点火するつまみがどこにも見当たらない。

 

 疑問に思っていると、入ってきた入り口の左側に、また別の入り口があることに気付いた。

 

「あ、まさかあそこが……」

 

 扉は無く、中は薄暗いようだ。

 俺はその部屋に近づいた。


「やっぱりここだ、食品庫」


 ローザさんの言ってた食品庫を、そろりと覗いてみる。

 両側には三段の木製棚が取り付けられており、色んな種類の野菜や果物が保管してある。

 中に入ってみると、ちょっと涼しい。

 

 奥の壁側に何やら鉄でできた大きな箱がある。

 腰くらいの高さで、上に開く蓋が付いているようだ。

 

「……? 冷たい?」

 

 触れてみると、冷やかさを感じた。


 俺は恐る恐る重い蓋を開けた。

 すると中から真っ白な冷気が飛び出してきた。


「肉と魚だ!」


 その中には、さっき捌いたかと思わせるほど綺麗に新鮮さを保ったままの、カチコチの肉や魚が冷凍されていた。

 冷凍庫だ。


 よく見ると一つ一つに、数字が掛かれた小さな紙が貼られてある。

 

「日付? 『七日前』……『五十日前』…………『十年前』!?」


 他の食材もかなり日にちが経っているようだが、どこも腐ってはいなかった。

 依然として新鮮さを保っている。

 

「どうなってるのこの冷凍庫――ん、コンセントプラグが無い……」


 冷凍庫の周囲を確認するも、どこにもプラグが出ていなかった。

 壁にも差込口が見当たらない。

 

 どういう原理で動いているのか考えたが、すぐに答えが思いついた。


「そうか、これも精霊の力が関わってるんだ。どうりで……」


 そういえばティラが言っていた。

 『普通はできないような技術が、精霊の力を用いれば可能になる』と。

 ここまで新鮮に保てる高性能冷凍庫を作る事が出来るのは、それしかない。

 

「俺のいた世界の冷凍庫、だいぶ遅れてるなこりゃ。あはは……ん――?」


 誰かが俺の服の裾を、ちょんちょんと引っ張った。


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