お小遣い欲しいんです
「はぁ……そろそろお米が食べたいです」
「仕方ないだろ、金がないんだから」
「いくら工夫しても食パンは食パン、さすがに飽きてきました」
朝食はやはりパンでした。私はそれにバターとジャムを塗って食べます。
もぐもぐ。悪くないのですが。
食パン生活は今日で五日目になります。
朝昼晩を全て食パン一枚で乗り越えてきたので今13枚の食パンを食べ終えたところですね。
「そろそろ限界?」
「限界です」
「私も」
「俺も」
「三人とももう無理っぽいか」
そりゃ毎日同じものかじってるわけですからね。そろそろ違う食感が欲しいわけです。あとお菓子食べたい。
私なんか高校のお弁当ですらサンドイッチなんですから。徹底し過ぎです。
「と言っても財布の残りはもう2500円ほどだ、あと一週間は食パンならギリギリもつぐらいしかないんだ」
「本当にギリギリですね」
「ル●バ売ってきましょうか」
「まだほとんど使ってないのに安くなるんだぞ、それに必要だと少なからず思ったから買ったんだろ。なら簡単に手放そうとするな」
フリュウさんはこういうところは頑固なんですよね。
物は大切にする。破壊神だからこそその気持ちが強いのでしょうか。
「ですが家計が」
「大丈夫だ、レイティアと相談して話はつけた稼ぎにいくぞ」
え?
レイティアさんと稼ぐ?
あのフリュウさんのストーカーとですか。
私とミコトさんは同時に同じ結論を導き出したようです。
「まさか援助交際ですか!」
「ダメだよフリュウさん!」
「馬鹿なことを言うな。俺は一線も越えないし一銭も払わないからな」
だってあの変態だけど美人なストーカーが弱みを握ったんですよ、フリュウさんの体を求めるに決まってますよね。
「これ知ってるだろ」
「はい。昨日から上映中の映画ですね、大人気アニメのファイトstay侍を映画にしたやつですね」
「桜んぼルートの映画だったな」
「そうだ」
フリュウさんが取り出したのは映画のポスター。
成敗戦争と呼ばれる特殊な戦争を舞台にして現代に甦った侍とその主が成敗をかけて闘うのが原作。そしてこの映画はサブヒロインに注目した話になっている。
深夜アニメとして見ていましたが迫力のあるバトルシーンが印象に残ってます。お金の関係で映画は見れませんが。
でもその映画がこのお金の話に関係あるんですか。
「そしてこれを見てくれ」
「いろんなお店の買い取り値段が載ってますね」
「映画が上映されていろんなゲームとコラボして、ファイトstay侍は今ファンが急上昇中、にわかも多いだろうがフィギュアの買い取り値段が高く設定されている」
「800円ですか」
「美品ならな」
買い取り値段の紙に載っているのは映画でメインとなる桜んぼのフィギュア。そしてその色違いバージョン、厳密には違いますが。
二つとも800円で買い取ってもらえるようだ。
アニ●イトでもこういうの2000円ほどで売ってますからね。その半分くらいで買い取って貰えるようです。
「ミコトとムラマサはやることわかったな」
「もちろん」
「わかってるよ」
「じゃあ軍資金だ」
そう言ってフリュウさんは二人に1000円ずつ渡しました。
えっと、今月の財布はあと500円になってしまったわけです。
「なんで!?フリュウさんなんで!?」
「マティルダは初めてだったな。俺についてきてくれればいいよ」
「……わかりました」
残りの500円で何をするつもりですか。
「ついたぞ、第一被害者のお店に」
「可哀想だなぁフリュウくんに目をつけられるなんて」
フリュウさんとレイティアさんに連れられてついてきたのはマンションから歩いて10分ほどの距離にあるゲームセンター。
普段の私ならゲームセンターにきて大興奮しているのですが、今は財布が空っぽです。
まさか500円で遊んでしまおうとかじゃないですよね。
「あの、どうしてここに?」
「金を稼ぐため」
「むしろここは使う場所じゃないですか」
ゲームセンターで金を稼ぐ人なんて店員さんくらいでしょ。
「わかってないなぁマティルダちゃん」
「なんですか」
「UFOキャッチャーは100円で高額な景品を貰えるサービスゲームなんだよ?」
「ああ、なるほど」
まさか音ゲーとかに費やして500円を使いきるとか、そんな想像をしてましたが安心です。
けどフリュウさんとレイティアさんってUFOキャッチャー上手なんでしょうか。自信満々ですし上手なんでしょうね。
「フリュウさんたちは家計が崩壊するたびここに来てたんですか?」
「ああ。ここならバイトするより効率がいい」
「短時間でできますもんね」
なるほど、家計が崩壊してもギリギリ食べれてたのはこういう裏があったんですか。
店内を動き回って高値で売れそうな景品を探していく。
なんか……フリュウさんって意外と金にうるさい?
「あった桜んぼのフィギュア」
「ちゃんと二種類ともあるわね。さすがしっかりしたお店」
「お1人様1日1つって紙がありますよ」
「このためにマティルダを連れてきたからな、これで6個いただきだな」
「あ、なるほど」
どうやら私は人数稼ぎのようですね。別に構いませんけど。
桜んぼフィギュアがあるのは滑り止めが巻いてある棒の上、ずらして落とすタイプのやつです。滑り止めに下手に挟まると絶対取れなくなってしまう簡単そうに見えて気がついたらお金を大量に使っていたなんてことがあります。
「とりあえずこの店では金は使わないでいこうか、最初だし」
「わかったわ」
へ?
お金を使わない?
確かに500円で6個の景品を取るなんておかしいと思ってましたが、完全におかしいことをするらしいです。
お店のことを被害者って言ってた理由がこれですか。
「破壊」
「時戻し」
バキッ!
ボトッ。
はぁ!?
イヤイヤイヤイヤ!この人まじでおかしいことしてるじゃないですか!
何ゲームセンターで神の力使ってるんですか!
滑り止めの棒を破壊して景品を落とした後で棒だけもとに戻しましたよ。
お金をいれずに!
「ひとつめ完了。隣のもいくぞ」
「はーい」
バキッ。
ボトッ。
いやぁ、これは酷いですね。
結局このお店で桜んぼフィギュアを6個盗んで、さらに無関係のフィギュアも幾つか盗んで一旦家に帰りました。フィギュア置いたら次の店にいきます。
さすが破壊神ですね、お店の売り上げを破壊していくとは。
「ついたぞ、第二被害者の店に」
「ほんと申し訳ないです」
「なんでだ、俺らはありがたーいお客様だぞ」
「ゲームセンターは下手くそで金を使ってくれるお客様を求めているんですよ。フリュウさんみたいなチーターはお断りですって」
「ルールに則ってやってるからチーターではないぞ」
確かにUFOキャッチャーのルールは景品を落とせばいい。ただ景品に干渉する手段がアームしかなかっただけ。
例えば店員が配置を失敗して山積みになっているぬいぐるみが転がり落ちてしまった。その場合落ちたぬいぐるみを発見した人が所有者になるでしょう。
フリュウさんはそれを能動的に起こせるわけです。
「お金を払わずに景品を落とせる程度の能力。どう見てもチーターですよ」
「あ、桜んぼフィギュア見っけ」
「話は聞いてください」
フリュウさんに無視されるのけっこう辛いんですから。
私にかまってよぉ。
「だって俺チーターとか絶対許さない人だからな、ゲームでマッチングすると腹立つ」
「そのチーターとこのお店はマッチングしてるんですよ」
「別に迷惑かけてないわけだし問題ないな。景品はとられる前提のものだし、壊した棒もちゃんと修復してるわけだしな」
「むー」
そう言われるとなぜか納得してしまう。ここにはとっちゃいけない物はないですからね。むしろとられる想定です。
お店側としては想定外の損害はないわけです。さすがに0円でとられるとは思ってないかもですが。
「そういえばどうしてごみ袋を用意したんですか」
「景品を目一杯つめこんで逃げるためだ」
「逃げるっていいましたよね今、悪いことだってわかってますよね」
「人間の営みを邪魔しない程度に干渉することはセーフだから」
「桜んぼフィギュア欲しい人からしたらかなり邪魔ですよ」
私はごみ袋をふくらませてスタンバイです。
申し訳ないですが、私たちの生活のために犠牲になってください。
「一応今回はお金を払うからな」
「えっ?」
「やっとフリュウくんの良心が発動したのね」
「ま、さすがに可哀想だなぁと」
その良心をさっきのお店にも使ってあげてください!
ですが100円でも使うのであれば問題ないですね。ちゃんとクレーンを動かしてアームを使って景品をとるわけですから。
「レイティア、羽衣の準備して」
「はーい。ごみ袋に装着と」
ごみ袋が見えなくなりました。どうやら羽衣をつけた物は不可視になるようです。
嫌な予感しかしませんね。
「まず……この台付近を見てる監視カメラを故障させてと」
「え」
「んで次、奥に積まれてるフィギュアが乗ってる台のネジをゆるめて」
「は」
「ゲームセンターのモニターを故障させて店員を向かわせてと」
「あ」
「よし、人払いは完了」
酷い!これはさすがに可哀想です!
100円でこれだけやるのはちょっとやめてあげてほしかったです。
モニターと監視カメラを故障させたんですからね、さらに景品も奪うと。
「あとアームを少しでも奥の台に当てれば」
コツン。
ズダドドドドドッ!
「よしっ、急いでごみ袋に積めてずらかるぞ!」
「はーい、フリュウくん」
「は、はい」
うわぁ、ほんとに100円で奥に積まれてたフィギュア9個全部とっちゃったです。
このお店の被害はモニター、監視カメラ、フィギュア9個。
破壊神の力って破壊関係しかできなくて不便だなぁって言ったことがありますが、ものは使いようでした。
「やっと食パン生活が終わりを告げたんですね」
「ああ、今日はたんと食べてくれよ」
「久しぶりのお肉だぁ」
「ピザ美味しい」
私たちはガ●トに来ています。
私たちが家に帰るとムラマサさんとミコトさんも大きな袋を担いでいました。
ムラマサさんは周囲に幻を見せて堂々と台の中の景品を素手で掴み取り。ミコトさんは景品取りだし口から透明な竜を侵入させ落としてもらうという、やはり反則技を使って景品を盗んできたようです。
その後フィギュアは1セット残して他を全てメル●リで売りました。数が数なのでそれなりに稼げましたね。
こうして私たちの食パン生活は一時的に終わりました。
この家は貯金という言葉を知らないので、すぐゲームに使って食パン生活再開ですよ。
「なんで皆デザートにフレンチトースト頼んでるんだ」
「食パンが忘れられなくて」
「すごいフカフカですよ!」
「お店のは美味しいので」
何だかんだ言って皆食パン大好きなんです。