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今週はトースト

「マティルダ起きたか、おい」

「はい」

「はい」

「え?」


 朝起きて顔を洗って寝癖を正してリビングに来たのですが、なんですか朝からこの重い雰囲気は。

 フリュウさんは和服姿です、今日は休日でしょうか。

 その休日のフリュウさんはもっと明るく楽しそうな朝食を好んでいるはずなのですが、今は楽しそうな雰囲気はなく、少し怒ってますね。


「二人からマティルダに謝ることがあるんだ、聞いてやってくれ」

「えっ!?何かありましたか?」

「家計が火の車になった」

「いつものことじゃないですか」


 この家の家計が崩壊するのは毎月のことですからね。お給料日から少しは余裕があり、来月には崩壊しているのが日常のはずです。

 そんな崩壊した家計の中でも仲良く助け合って楽しく暮らせてます。


「いつものことだが、今月は違ったろ?臨時収入があった」

「あ、そういえば古銭を高く買い取って貰えたみたいですね。ル●バを買って残りは家に入れたはずです」

「それについてだ」


 何となく話が見えてきましたね。

 あ、ミコトさんとムラマサさんが頭を下げましたよ。この二人の土下座ってめっちゃレアシーンじゃないですか。

 写真撮りたかった。


「ごめんなさい。私はル●バ2台目を買ってしまいました」

「ごめんなさい。俺はルン●3台目を買ってしまいました」


 はぁ!?


「どれだけお掃除したくないんですか二人は!」

「返す言葉もありません」

「本当に申し訳ない」


 長い沈黙の後でやっと二人が顔を上げた。

 あれ?この二人泣きあとがありますね。

 フリュウさん、どれだけ叱ったんですか。

 この二人が泣くなんてよっぽどですよ。ミコトさんはしょっちゅう家事ためて泣きそうになってますが。


「正直に、どういう思考をして買いに至ったのか説明してやれ」

「はい。私は少しでも自分の仕事を減らそうと、楽しようと思って買ってしまいました」

「はい。俺は破壊神代理の仕事で掃除の時間が少なく、自分の時間を少しでも作るために買いました」

「とのことだ納得できたか」

「ま、まぁ」


 なんか神様二人に謝られるとか、私は後で刺されますね。

 まぁこの二人は反省しているようですし、今月の家計が崩壊するのが少し早まった程度でしょうし許してあげますけど。

 それにミコトさんの理由は酷いですがムラマサさんの理由はまだ理解できますからね。


「それで朝食は」

「本題がそれだ。今月の給料日まであと二週間、そして今月使える金額はあと4771円しかない」

「え……食べれるんですか」

「一応な」

「じゃあ大丈夫です」


 二週間食べるな!とか言われたらさすがにキレてましたね。

 一応食事ができるなら少しくらい我慢できますよ。お菓子とゲーセンをやめるだけですから。


「食パンだ」

「へ?」

「とりあえず今日から一週間は食パンだけで過ごしてもらう」

「フリュウさん。キレていいですか」

「はぁ。さっき俺がキレたから少しにしてやれよ」


 さて許可ももらったことですし、丁寧にキレますか。


「なに二人揃ってお掃除ロボット買ってるんですか!一台でいくらすると思ってんですか!お掃除ロボット買ったはずが財布の中まで綺麗さっぱり掃除されてるじゃないですか!掃除する場所くらいしっかり決めていてくださいよ!」

「……気はすんだ?」

「まだ納得できませんが」

「ほんとごめんなさい」

「ごめんなさい」


 キレたんですが、なんか怒りよりも驚きのほうが強いです。

 この二人がこんなしょげるなんてフリュウさんどれだけ恐いんですかって話ですよ。

 もう私はこのくらいでいいです。


「もういいです。食パン美味しいですから」

「ミコト、ムラマサ、食パン合いそうなやつを2000円以内で買ってこい。これでもうチャラにしてやる」

「いってまいります!」

「任せてください!」


 なんだかんだ言って家族なんですよね。






「じゃあ、勝手に食パン選手権開催だ!」

「「「おおー!」」」


 もう寝起きのピリピリした雰囲気はなく、三人とも楽しそうです。

 フリュウさんはチャラにすると言ったら絶対後には残さないタイプですね。こういうハッキリした性格だからこそ従者がついてくるのでしょう。部下になるならこういう人がいいですね。


「ルールは簡単、食パンを一人一枚ずつ好きなように味つけして、味つけしたら四等分して三人に渡す」

「合計で四つの味が楽しめると」

「そういうことだ」


 ピリピリしてた朝が一気に楽しげな朝食になりそうです。

 この家の人はなんでもゲームにしてしまう天性の才能がありますね。


「ここにあるの全部使っていいんですよね」

「もちろんだ」

「ふっふっふー。私の食パンが一番だって教えてあげるよ」

「期待してるぞ」


 私も周りから意外だと思われそうですが、とっておきの食べ方があるんですからね。楽しみにしててください!


 神々味つけ中。


「全員できたな?」

「自信満々です」

「負ける気がしない」

「それは私もですよ」


 まだ誰がどんな味つけをしたのかは知りません。隠してますから。臭いでわかるものはありませんでした。全部から香ばしい臭いがしてます。

 はやく食べたい。


「じゃあ私からいきますね」

「一番手はミコトか」

「はい!これは一番手だからこそ輝く味つけですからね。私の味つけはこれです!」


 食パンに……バターですか。

 普通じゃないですか。


「普通と思いましたよね。これに塩コショウをかけます!」

「そんなことしたら辛く」

「やめろぉ」

「やめないよ!」


 ああ……なんてことを。

 綺麗な光沢のあった食パンが黒い粉に侵されていく。

 とても辛くて食べれるはずが……。

 ザクッ。


「あれ?美味しいです」

「ほんとだ」

「コショウの香りがいいな」

「ですよね!このシンプルなひと手間ですが味は大違いです。動物性のガツンとしたコクのあるバター、それだけでも満足できる味ですが何か物足りないと感じたことはありませんか?」


 た、確かに感じたことはある。

 バターの単調な味に飽きてしまったんです。ガツンとした味は時には心の底から求めるものになりますが、いざ食べてみると一口で満足してしまって後が続かない。


「それを香りのあるコショウ、そして辛味のある塩で解決させた朝食の一品。食パンにはバター+塩コショウこそ相応しいの」

「これは、旨いな」

「もう食べ終えてしまいましたよ」

「後日試してみるよ」


 これはなかなか一品目から強敵ですね。不覚にもこのシンプルな美味しさに心踊ってしまいましたよ。

 敵ながら見事、これしか言えません。


「じゃあ次は俺がいきますよ」

「ムラマサ、私の次に出るとは自信満々だね」

「塩コショウをかけるだけ、だがそれは王道を外れた邪道なわけだ。王道をいくのが一番に決まっているだろう」


 あんこ……ですね。あとマーガリンでしょう。

 名古屋のモーニングセットには定番の存在。これはモーニングの王道と言ってもいいでしょう。

 普通に美味しそうで安心できます。


「どうぞ召し上がれ」

「見た目から美味しそうだな」

「確かにこれは、絶対美味しいよ」


 審査員からの事前評価もいいですね。さすが王道。

 他の地方に住んでいる人には馴染みのないものかもしれませんが、トーストにあんこは絶対安全なので試してみてください。

 ザクッ。


「普通に美味しい」

「朝って感じがする」

「コーヒーが欲しい味です」

「この家の好みは当然知っている。和菓子大好きだと!」


 そうか。あんこは人によっては甘さの加減が気に入らない人もいる。嫌いとまではいかなくても抵抗を感じる人は決して少なくない。

 ですが好みを完全に熟知しているムラマサさんが、その好みにあった王道で攻めてきた場合、そのままごり押しされかねない美味しさになってしまう。

 実際、このトースト+あんこは最高に安心できる味!

 そしてこれはまさか!


「気づいたか、つぶあんに」

「もちろん」

「ええ」


 サクサクした食感のトーストにつぶつぶを感じられるつぶあん、こしあんにしなかったのは食感の楽しみを追加するためですか。

 サクサクフワフワの食感を求めるものがいるのなら、このサクサクつぶつぶを求めるものが存在してもおかしくないでしょう。

 さらにバターではなくマーガリンにしたのはこのため、バターのガツンとしたコクはつぶつぶの邪魔になる。軽いマーガリンは逆につぶつぶとサクサクを感じさせながら味を引き締めている。


「王道の前では全てが邪道、そんな弱い味では王道には勝てないぞ」

「く、悔しいけど力負けしてる」

「力強い邪道なら、つまりこれだな」

「三番手はフリュウさんですか」


 力強い邪道は難しい。あまり強すぎると万人受けする味から大きく外れることになる。

 ミコトさんのように邪道は弱い味になる傾向があるのはそのため。でもそれでは王道には絶対かなわない。


「フリュウさん料理上手ですからね、強敵ですよ」

「そういえばミコトさんがサボった時作ってくれる料理すごく美味しいですよね」

「サボったとか言わないの」

「これだ」


 なんですかこれ。見たことない色してますね。

 白い溶けたものに黄色い粉がかかってます。


「これはなんですか?」

「モッツァレラチーズにカレー粉をまぶしたものだ」


 カレー粉って、本気ですか。

 いや、本気だからここに持ってきたのでしょうけども!

 溶けて少し焦げ目がついたモッツァレラチーズの上に少しかけられたカレー粉、味の想像がしにくい。

 ザクッ。にゅーう。


「あれ?美味しいです」

「カレーっぽさは感じないね」

「ほんとだ」

「カレーはほのかに感じる程度だろ?」


 ほんとですね。カレー粉ってわりと苦いんですね。

 あとチーズが伸びる。チーズは反則ですよ。絶対美味しいですから。


「香りはチーズカレーって感じがするけど、カレーの味は弱めだ。だからインパクトがたりないからな、塩も追加させてもらった」


 え、カレーってそんな弱いんですか。

 でも塩の追加でカレーっぽさを残しつつ強めの味を演出しています。

 そしてモッツァレラチーズの癖のない味はカレーを邪魔することなく、むしろカレーを引き立たせてます。そして食感の楽しみを追加させています。

 あんこと……同じ。

 カレーは本来は王道になる味ですが、トーストに置いては邪道。ですがカレーはやはり万人受けする味でした。


「力強い邪道、それはこういう本来は王道にあるべき味から生み出されるのではないか」


 王道特有の強いかつ安心できる味、それを得た邪道。

 並んだ。

 あんこと並んだ。


「最後はマティルダ、よろしく」

「わかりました」

「あれ」

「ただの焼いた食パンだ」


 そう、それにコーヒーゼリーです。

 トーストにぷっちんするコーヒーゼリーをのせて、スプーンで崩す。


「ムラマサさんがあんこを出した時にコーヒーゼリーにしようと決めました」

「なんでコーヒーゼリーを」

「王道のモーニングセット」

「なるほどな」


 見た目はあまりよくないでしょう。

 ですが、これがなかなか美味しいです。

 ザクッ。


「……いける」

「見た目ほどのインパクトはないね」

「やっぱ食感で攻めるか」


 サクサクの食パンに食感の勝負をしないなんてそもそも勝ちを捨てていますよ。

 コーヒーゼリーだけでは甘さがたりないので砂糖を追加しています。

 コーヒーゼリーの冷たさとぷるぷるした食感、それをサクサクで熱いトーストと組み合わせる。

 聞くだけで相性抜群ではないですか?


「デザートに最適だな」

「食パン縛りですからね」

「なんかいつの間にか勝負って感じよりモーニングセットみたいになってますね」

「そうだな」


 あんこトーストにコーヒーですからね。しかも他のカレー粉と塩は辛いものでした。あんこ正反対です。

 だから、なぜかセットとして合ってますね。


「また昼もこれやるからな」

「もうレパートリーないよぉ」


 ですよねー。

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