破壊神と耳かき
「はぁあああ……あ……ふぅううう……」
「変な声出して、苦しい?」
「問題ないです、続けてください」
私は今、極上のリゾート地にいます。いや、どこか羨ましい風景と形容する方が正しいでしょうか。
例えるのなら、アルプスの山脈に囲まれながら動物たちと幼馴染みとお爺さんとおくる生活。爽やかな風を受けながらのんびりと、羨ましいでしょう。しかもこのアルプスには塾の講師は登場しないおまけ付き。
例えるのなら、エメラルドブルーの海を眺めながら仲間とBBQをして一日遊んでおくる休日。
例えるのなら、国際孵化をしていたら一回目で色違い理想個体がきてしまった、みたいな幸せ。
全部バラバラな上に最後のやつが酷い?
まぁ幸せだと伝わればいいんです。
「これ以上奥はちょっと怖いからやめておくね」
「はい」
「気持ちいい?」
「もちろんです」
つまり、フリュウさんの膝の上+耳かき!!
何ででしょう。他人にやってもらう耳かきほど気持ちいいものは……もしかしたらあるかもしれませんが最高に気持ちいいです。
まさにリゾート。
こまめに気づかってくれる優しさもいいです。キュンキュンきますね。
ついつい変な声出てしまいますよ。
「はひゅううう……」
「また変な声出してる」
すいません。ですが気持ちいいからでる声なので気にしないでください。こっちはもうニヤニヤが止まらないんですから。
私はもう一生をここで過ごしてもいいかもしれない!
いえ。住める!
フリュウさんの膝の上に住める!
同意さえもらえれば!
「はい、おしまい」
「はにゃああああ……ぁぁぁ」
フリュウさんが私に頭をポンと叩いて終了の合図を伝える。
私のリゾート地は崩れ去り、現実に引き戻された。
エメラルドブルーの海は突然の地震で津波が発生し大荒れ。アルプスは崩壊しお爺さんと幼馴染みと動物と塾の講師は崩壊に巻き込まれ行方不明。さらに色違いを逃がしてしまった。
終わった……。
耳かきの目的であるムズムズをとることには成功した、だが私は満足しきっていない。故に違うムズムズが発生してしまった。
「ほんとどうしたんだよ」
「もう終わりですか」
「ああ。マティルダが変な声出してたから……ちょっと罪悪感が」
フリュウさんの隣で正座して抗議をしようとするが、視線を微妙に外された。言いにくいことがあるようです。
やはり女子校生のあえぎ声は永遠の17歳であるフリュウさんには刺激が強かったですか。でも声を我慢しようとしても逆にエロくなりそうですし、どうしましょうか。
とりあえずもう一回!
「変……でしたか」
「変だったけど可愛かったよ」
「ならもう一回やってください」
「えー」
なんで嫌がるんですか。ちょっと寂しいですよ。
フリュウさんは露骨に嫌そうな顔をする。それでも私はおねだりをやめない。だってやって欲しいんだもん。
「可愛かったんですよね」
「マティルダはもともと可愛いしな」
「可愛いならやってください、本当に可愛いなら!」
「もちろん可愛いが……」
また視線を外された。人はだいたい言いにくいことがあると視線を外しますからね。
わかった。原因わかった。
言いにくいこと、つまり私に聞かれたくないことです。
やはりあえぎ声でしょう。
「フリュウさん安心してください」
「ん?」
「あえぎ声我慢しますので、お願いします」
「…………はぁ……わかった」
図星だったようですね。
フリュウさんは右手で顔を隠して言ってくれました。たぶん羞恥心からでしょう。赤くなった顔も見たかったな。
まったく、これだから永遠の思春期は。
恥ずかしがるフリュウさんも可愛いですよって言ってあげたい。
そんなこと言ったら部屋に逃げてしまうかもしれませんが。
「じゃあ膝に頭をやって、いれるよ」
「よろしくお願いします」
「そんな固くならないでね」
「敬語、謙譲語、丁寧語をやめるつもりはありません」
「そっちじゃなくて体の方ね」
きたきたぁ!
フリュウさんの膝の上でワクワクしながら待っているとようやく耳かきが私の中に侵入。
サワサワと優しく、もどかしく、焦らすように壁に刺激を与えられ。
カリカリと力強く、かつ繊細で、晴らすように刺激を与えらる。
耳かき一本で無限ループを成立させられてしまうともう終わり、私はいつの間にかフリュウさんの膝の上に閉じ込められている。
「もう耳の中は綺麗なんだけどな」
「んっ……ふぅ……はぁああ」
「……」
何これ何これ!
この悦楽に……抗えない!
無限に痒みを与えられ、それから解放したと同時に痒みを与えられる。これが調教ですか。なんか……SMプレイみたいですね。
耳かきで調教されるとかあるんでしょうか。
「マティルダ」
「はぁああい……あ……なんでしょう」
私としたことがフリュウさんに蕩けた声で返してしまうとは、すいません。
気分を害されたのであれば今日はもう控えておきましょうか。さてフリュウさんの反応は
「ふふ、もう綺麗だよ」
「あ……ありがとうございます」
「続ける?」
「お願いします」
ニコッと笑って返してくれました。これは気分を害している様子はないです。よかった。
「さっきマティルダの顔見たんだけどさ」
「んぅ……?」
「凄いトロトロの顔してたね」
「ふぅ……はぁい……」
「前は横顔ばかりでよくわからなかったけど、そこまで蕩けてくれるとやりがいがあるよ」
「はひぃ……」
凄く恥ずかしいですね。
あえぎ声は我慢してるんですよ、これでも。
微妙に蕩けてしまうのは目を背けたいのですが、フリュウさんがどう思っているのか気になってしまいます。
「マティルダ」
「はひ……」
「ちょっと面白くなってきたよ」
「ふぇ……?」
「遊んでいいかな」
遊ぶとはどういうことでしょうか。とりあえずフリュウさんは少なくとも嫌には感じていないよう、むしろ楽しんでますよね。
何かスイッチが入ってしまったようです。
「可愛いよマティルダ」
「ふにゃっ……!」
「すっごく綺麗だ」
「むぐっ……むー……!」
遊ぶってそういうことですか!私の反応を見て楽しんでますねフリュウさんめ!
でも嬉しいから許す!
耳かきされながら言葉攻めされるとこんなにビクビクくるもんなんですね。これは調教されますよ。
「俺の女にしていいか」
「……!!フリュウさんそれ本当で!?」
「あ」
耳かき中だというのに言葉攻めに震えてしまった。
でもでも!フリュウさんは容姿だけなら同年代ですっごくカッコいいんですよ。そんな男子に言われたら震えてしまうのが当然ですよね。
「すいません。遊びでしたね」
「ごめん……趣味の悪い遊びだったよ。ついついマティルダの反応が可愛かったもんで」
「もうっ……そういうのは本命の女性にしか使っちゃダメなんですからね!私みたいに本気に受け取っちゃうと恥ずかしいじゃないですか!」
「悪かった……ごめん」
フリュウさん、謝らないでください。これは私の照れ隠しですから。八つ当たりみたいなものですから。
とりあえず今最優先でやることはフリュウさんの中から申し訳ないという気持ちを消し去ること。はやく割りきってもらわないと。
「反対側もやってくれたら許してあげますからっ、お願いします」
「それが、すごく言いにくいことのだが」
「え?あ」
「俺の心が乱れちゃったみたいで、耳かき破壊しちゃったんだよ」
翌日。
私の耳は超大型台風の直撃に会っていた。吹き荒れる風と横殴りの雨。耳の中はじめじめ、キノコが生えてるみたいです。
気持ちわるいよぉ。
「フリュウさん耳かきを……」
「昨日壊しちゃったので最後だぞ」
「な!?んですよと!」
「明日買ってくるからさ」
明日じゃ遅いんですよ!なんて言えない。
今の私を例えるのなら、台風直撃してる中屋外で一晩過ごすのと同じ!
最悪死にますね。
人はストレスでおかしくなりますからね、私が死んでもいいのか!
「マティルダちょっとおいで」
「なんですか」
フリュウさんが手招きして私の耳を貸すように促す。耳打ちでもするのでしょうか。
「ふぅぅぅぅぅ……」
「んんー!?」
台風が消し飛ばされ晴天です。
フリュウさんの吐息がじめじめを吹き飛ばしてくれました。一時的なものだと思いますが。
「今日はこれが代わり」
「あと10回ほどお願いします」
さらに翌日。
「買ってきたよ耳かき」
「まってました」
フリュウさんの吐息がもうしてもらえないのは残念ですが、まぁいいでしょう。
はやくっ、はやくっ。私の耳の中はじめじめなんですからね。絶対キノコ生えてますよ。
「どれがいい?」
「え?」
「いろいろ買ってきたから」
「耳かきに種類求めても意味ないのでは」
というか何種類あるんですか!
耳かきなんか無駄に買ってきてまた家計を圧迫するんですから!
「だいたいいくら使ったんです」
「3000くらいかな」
「フリュウさん3000あれば安めの新品ゲームカセットが買えるんですよ?」
「あ」
もう、どこか抜けてるフリュウさんはやっぱり可愛い。強い場面も好きですが弱いところも好きなので許しちゃいます。あばたもえくぼってやつですね。
「ま、まぁこれとかどうだ。サイクロン耳かき」
「グルグルしてますね」
「このグルグルでごっそりととれる優れものだ」
「無理矢理買って良かった感を出さなくてもいいんですよ。ミコトさんもムラマサさんも無駄遣いしたこと気にしないでしょうし」
「別にそんなんじゃねぇしっ……」
冷静になって家族のことを考えると申し訳なさが出てきたようです。泣きそうなフリュウさんも可愛い。
しかしサイクロンとは考えましたね。耳の中がじめじめな時は台風をぶつけて雲を取っ払ってもらおうというわけですか。
「これなんかいいんじゃないか。ライト付き耳かき」
「お医者さんみたいですね」
なんか身内に耳の中をまじまじと見られるのは恥ずかしいから嫌だ。
「耳用ピンセット」
「また専門的なの買ってきましたね」
「耳毛カッター」
「専門的過ぎです」
たぶんこんな専門用具を買ったせいでそれなりに値段がついたのでしょう。
耳毛カッターとか初めて聞きましたよ。
それと耳毛があるからこそ気持ちいいとかありますからね。私には使わないでください。
「本当に入ってる?極細耳かき」
「少しは感じたいです」
「綿棒」
「突然ランク下げられると困ります」
「耳用ナイフ、ヘラ」
「なんか怖いです」
「大丈夫だぞ、肌を切ったりしない」
ほんとだ、テッシュすら切れていない。さすがに安全性は考慮されてますか。
「どう使うんですか」
「塊を、スパンと」
「そんな汚くないですからね!」
でも突然魅力的に思えてきました。かさぶたを取りたくなる気持ちでしょうか。絶対気持ちいいやつですね。
「こんな感じかな」
「え。終わりですか」
「ああ」
普通のがないじゃないですか!
先が曲がってるだけのシンプルなやつが!
「普通のはないですか」
「サイクロンがわりと普通なのじゃないか」
「普通じゃないですよ」
サイクロンはそのデザインを実現させるために細くなっていく。それでは気持ちよさを感じるのは難しい。本当に掃除したい用だ。
シンプルだからこそ感じられるカリカリとした刺激。そのため耳かきが魅力的なのだ。
「明日、普通の買ってきてください」