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エロ本攻防戦

「よし……ちょうどいい位置にセッティングして、自然な形で気付くようにしなければいけませんね」


 フリュウさんの部屋にて、私はベッドの下にエロ本を置いています。

 これどこで買ってきたかって?ムラマサさんに頼んだので知りません。

 どうしてフリュウさんの部屋にエロ本を置くのか?理由はフリュウさんの好みを知るためです。男性の好みは十人十色、百人百色だと聞いたので、もう調べるしかないです。

 なぜ私が調べるのか?それはもちろん血の繋がらない家族から本物の家族へと昇華するためです!


「……それにしてもエッチぃ女の人ですね。……少しくらい中身を……ご丁寧にムラマサさんおすすめピックアップに付箋を貼ってくれたようですし」


 ムラマサさんも何やってるのだろうか。そう思いつつ付箋のページを開く。

 ペラ。

 はい。たぶんこの付箋ムラマサさんの好みですね。和風な女性が好きなようで。

 私は謎に分厚いエロ本をペラペラとめくっていく。ムラマサさんが全ての男性の性癖を満足させる魅惑の一冊と言っていた理由がわかった。

 なんですかこの猫耳とか犬耳は……!?あれですか、女性にペットになれと……。

 フリュウさんのペットなら……ありですね。

 一応付箋を貼りかえておきましょう。


「よし。作戦開始です」


 作戦の内容はこうです。

 まず仕事帰りのフリュウさんが部屋で着替えてます。そこに私が部屋に入ってベッドに座り自然な形でエロ本発見。はしたない女だと思われても嫌なので数ページ見せて好みを聞き出し終了。羞恥心で頬を染めながら聞けばまぁバレないでしょう。

 それにしてもなかなか位置の調整が難しいですね。フリュウさんに気付かれたら跡形もなく消滅させられる、しかし不自然に発見してしまうと勘のいいフリュウさんにはバレます。

 私の足が届くギリギリに……っと。


「……」


 私が今座っているのはフリュウさんのベッド。

 少しシワのついたシーツと掛け布団に目がいってしまう。もうやることは一つですね。


「すぅ……はぁ……」


 ベッドに寝そべって口と鼻から一気に空気を呑み込み、存分に堪能してから吐き出します。

 ……もう私変態みたいじゃないですか。

 それは断じて違います、家族の布団に入っても誰も嫌な思いはしませんからね。限りなく白に近いグレーです。

 さてもう一回……はっ……!?


「気配……誰……」


 頭に生えた角が形を現し、私の五感は限界まで研ぎ澄まされる。これが魔王の力です。

 侵入者はゆっくりと息を潜めてこちらに向かってくる。

 フリュウさんなら息を潜める理由がない、ムラマサさんミコトさんも同様。誰でしょうか。

 とりあえず隠れなければ。

 もし泥棒なら魔王の力をフル動員して最上級の恐怖を味わってもらいましょうか。

 エロ本をベッドの下に置いたまま私はフリュウさんの押し入れの中に大急ぎで隠れた。

 するとすぐに侵入者は判明した。


 バーンッ!!

「フリュウくーーーーん!」

「(レイティアさんかぁ!)」

「あれ?誰もいない」

「(今は仕事してる時間ですよ)」


 扉を壊しながら入ってきたのはこのマンション最上階に住む金髪ロングが自慢の創世神レイティア。

 破壊神のフリュウさんですら壊さないのに登場していきなり破壊活動をしているところからわかるだろうが、もちろん変人だ。具体的に言うとフリュウさんのストーカーである。

 ムラマサさんミコトさん同様に普通に接するぶんには常識人なので問題ないが。


「ちょっと……破壊神の部屋だから頑丈かと思ったら……もろすぎでしょ」

「(壊しといて何言ってるんですか!)」

「まぁいっか、すぐ戻せるし」

「(便利ですねその創世神の力は、どこぞの破壊神とは大違いですね)」


 壊した扉が瞬く間にもとに戻っていく。これが創世神の力ですか。

 私が押し入れの中にいるとは知らずにフリュウさんの部屋を物色し始めるレイティアさん。

 それにしてもこのマンション変な人が多い気がする。

 と言うかどうやって入ってきたのか。


「うーん……ないなぁ。エロ本」

「(何てことですか……まさかこの変態にエロ本を探されるとは……タイミング良すぎませんか!?)」

「せっかく合鍵作ったのに」

「(この人変態どころじゃない、犯罪者ですよ)」


 確信犯じゃないですか。

 忘れてましたレイティアさんの力を。この世のものなら何でも、存在しないものなら想像した通りに作れてしまうというチートスペック。この人の前ではどんなセキュリティも意味を成さないという最強の侵入者でした。

 この人にストーカーされるフリュウさんは大変ですね。

 とりあえず出ていったら警察に通報しておくか、フリュウさんに報告しておきましょう。


「……フリュウくんのベッド」

「(まさか)」

「すぅ……はぁ……」


 やると思ってましたよ。この行為は私もしてしまったし見なかったことにしてあげます。

 けどすいません、それ私の中古です。少し混ざってます。


「もしかしたらここにエロ本があったりして。フリュウくんは永遠の17歳だからね、つまり永遠の思春期なんだからエロ本がないはずないのよ」

「(あ)」

「あ」


 見つかってしまった……付箋がびっしりと貼り付けられたエロ本が……しかもこの変態に……。

 まずい、これは勘違いされる。


「ふふふ。見つけた……ついに見つけたよ」

「(へ?)」


 なんですか、変な笑みを浮かべて。そもそも変な人ですけど。

 エロ本をまじまじと見る金髪の美女。普通なら彼氏の好みを探る彼女、これならまだギリギリセーフなのですが、レイティアさんがやるとアウトです。


「フリュウくんの弱みを見つけてしまった、フリュウくんは猫耳のことが好きなんて」

「(レイティアさんには申し訳ないがそれ私が興味本意でつけたやつです)」

「これで

『フリュウくん、破壊神派閥の人達に主が猫耳好きってバラしちゃうぞ』

『なっ!?どこでそれを!』

『これよ』

『なんで……バレた……』

『ふっふっふー。これが拡散されたら派閥は縮小、信頼もダウン、影で悪口言われるでしょうね』

『くっ……』

『さて、バラされたくないならやることは……わかるわよね?』

『何をさせる気だ』

『これよ、猫耳。私のペットになりなさい破壊神』

『……仕方ない、一日だけだぞ』

『その一日でフリュウくんを調教しつくしてあげるわよ』

 こんな展開が!」


 ……。

 なんですかこの妄想女。さすが変態、規模が違う。

 もう我慢できません。

 フリュウさんの押し入れから飛び出て創世神を成敗してくれるわ!私だって未熟とはいえ魔王なんですからね。不意打ちなら最高位の神が相手だろうと勝機はあるんですよ!


「長いんですよ!この変態金髪妄想女!」

「え!?マティルダちゃん!?」

「はい、とりあえずレイティアさんは拘束させてもらいますから!」

「うう……」


 レイティアさんの喉元に手刀を添える。

 角を顕にして魔王の力をフル動員、今の私の手刀には包丁を遥かに越える切れ味があります。


「いつから聞かれてたの」

「全てです」

「じゃあ……私のフリュウくんペット化作戦も」

「はい。はやく手を上に上げて」

「ちょっと待って……話をしよう」

「カッコよく言っても無理なものは無理ですから」


 ネットでよくネタにされているやつじゃないですか。このままだと『そんな手刀そうびで大丈夫か』とか言われそうです。


「ま、まぁ……フリュウくんを調教したいのはマティルダちゃんも同じでしょ?」

「そんな歪んだ恋心は持ち合わせていないんですが」

「でも……フリュウくんを好きにしたいのは」

「それは興味ありますね」


 私の作戦はフリュウさんの好みを探ること、そしてその先にあるのが家族以上の関係になること。とびっとびになりますが目標達成になるでしょう。

 調教なんてものに興味はありませんし拒否されるでしょう、でも一日フリュウさんと一緒にいられる程度のことなら同意を得られるかもしれません。

 レイティアさんはこの状況を切り抜けるために私を協力者として迎い入れるしかない。


「取り引きよ。マティルダちゃんが黙っていてくれるなら調教後フリュウくんを好きにさせてあげる」

「……順番が逆」

「……わかったわ」


 はい!勝った!

 気掛かりなのがそのエロ本私が置いたものという点ですが、物証になるわけですしレイティアさんからしたらフリュウさんが何を言おうと言い訳にしか聞こえないでしょう。

 創世神の影響力を考えてフリュウさんも甘んじて受け入れる、そうなればよいのですが。


「じゃあフリュウくんが帰ってくるまで待って……」

「初めてレイティアさんと気が合いまし……た」

「へぇ、俺を調教するんだ……レイティア?」


 あれ?フリュウさん帰ってくるのはやくないですか。

 振り向くとそこにいたのはスーツを着たフリュウさん。わりと怒りぎみ。


「い……いつからそこに?」

「取り引きがどうのこうのって言ってたあたりから」

「あの、フリュウさん。侵入者がいたので取り押さえようと」

「それは本当かもしれないけど結局逆に取り込まれちゃったんでしょ?」


 怖い!

 笑顔ですけど声が笑ってませんよ……。

 ああ……詰んだ、これ嫌われるやつです……。


「こっ、このエロ本が目に入らぬかぁ!」

「おっ。どこにあったんだそんなもの」

「(レイティアさん無理矢理いくんですね)」


 どこぞの黄門様のお付きの人みたいなポーズをしてエロ本を見せつける。やはりエロ本なせいで決めポーズも全くカッコよくない。

 見ているこっちが恥ずかしくなるやつです。やめてくださいみっともない。

 でもおこぼれだけはもらっておきますか。


「フリュウくん、このことを私の派閥である1億5千万人にバラされたくなかったら言うことを聞きなさい。あと破壊神派閥にもね」


 レイティアさんの派閥そんないるんですか、嘘か本当かわからない。ですが主がこんなストーカーになりさがっていると知ったら部下の人はなんて思うでしょうか。


「それは困るな」

「でしょ?じゃあ今作ったこの首輪を」

「で、そのエロ本はどこにあるんだ?」

「え?何言ってるの、これが見えない?」

「ああ。見えない」


 え?あれ?エロ本が見えません。

 確かにレイティアさんが持っていた付箋びっしりのエロ本が……どこにいったんですか。


「あれ?」

「なぁレイティア。証明に必要なものはなんだと思う?」

「へっ」

「化学的に、論理的に、合理的に考えて動かぬ証拠だよ。そのため物証が望ましい」

「あ……」


 まさか……。

 フリュウさんは破壊神だ。


「ふっ」

「ズルズル!それズルい!」

「脅したやつが言う台詞かそれ」

「ズルいー!!」


 レイティアさんはフリュウさんに捕まり、ぐるぐる巻きにされて窓から落とされた。一応ここマンションの上の方なんですが、たぶん死なないでしょう。


「裁判でも噂でも、証人と物証を全て破壊すれば俺の勝ちだよなぁ。破壊神をなめるなよ、創世神」


 ヤバイ。フリュウさんこっち向いた。

 やめてください!ぐるぐる巻きにされて窓から落とされたら私はたぶん死にますので。

 ビクビク震えながら判決を待っている、フリュウさんが閻魔大王に見えてきた。舌をとるのもダメですよ。


「次の日曜」

「……はい」

「その日なら一緒にいられるから」

「え、あ、はい!」


 無事おこぼれを貰うことに成功した。

 レイティアさん、ありがとうございます!

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