破壊神と魔王の悩み
とある日の夜。
「私……高校を卒業してもこの家で暮らせるのでしょうか」
「…………は?」
「ちょっとムラマサさん!私は真剣なんですよ!」
「すまない、あまりにも馬鹿馬鹿しい相談だったからな」
ムラマサさんに私の一番の悩みを相談したら馬鹿にされました。
それどころか私の顔を見ることもなく書類仕事をしています。
フリュウさんには相談できないし、ミコトさんは楽観的なので真面目な話の相談相手はムラマサさんが最適なのです。
「まだ進路は決定していないが大学に行かせることは出来ないと思う。大学では人間関係が高校以上に濃密になる。まだ成長は止まっていないが、いずれ成長が止まったとき、それを疑問に思う人間がいないはずがない」
「それはわかっています。ですから高校でも友達はなるべく作らないようにしていますし」
「ならどうなるかわかるだろ?クリスタで働くのが第一候補だ」
クリスタで働くのは嫌ではないので問題ないですが、問題は私がどこに住むかです。
「私は!……追い出されるのでしょうか」
「フリュウさんは仲間思いな方だ、望むならここに居させてもらえるだろうが……」
「が?」
「社会人になったテイルのことを考えて別の部屋に追い出される可能性もあるな……優しさ故に……」
それは困ります!
確かに血の繋がっていない、結婚してもいない男女が同じ家で暮らすのは不自然ですが……。
そう考えると不安になってきました。
「何かいい方法はないんですか、ずっと一緒にいられる方法は」
「あるぞ」
「え!?」
そう言うとムラマサさんは自分を指差しました。
どゆこと?
「俺と同じになればいい?」
「えーと……幻神?」
「違う。従者だ」
「あ」
「従者契約を結べばいいだろ。俺やミコトと同じ待遇になるんじゃないか?追い出されそうになっても前例がここにいるからな」
なるほど!
「テイルー、お風呂先もらったよ?」
「はい、次いただきます」
ミコトさんがお風呂から出てきました。
これです!
部屋にダッシュ、からの扉バーン!
「フリュウさん!もしよろしければ私と一緒にお風呂に入りませんか!」
「うわっ!!………………マティルダ、泳げないの?」
なんでそうなるんですか!?ここは照れながらOKするか拒否するか、とりあえず照れるのは確定の発言でしょう!
「いえ、泳げますけど」
「強がらなくていいよ。浮き輪持ってくるね」
「いやいやいやいや、自宅のお風呂で溺れるようなお金持ちじゃないですよ私たち」
「そうだったね。俺が床を壊して溺れるだけの深さにしようか」
「それはやめてください。SMバカに迷惑ですし」
ただでさえお金がないのに賠償金が半端ない額になるのでやめてください。このマンションのオーナーがレイティアさんなのですぐ直してくれるかもしれませんが、その場合フリュウさんの貞操が危なくなります。
「もしかしてもうお風呂入っちゃいましたか」
「そうだね。わざわざ入った俺を誘ってくるから溺れないように見張っててほしいのかなーって」
「さすがにその思考にはなりませんよ」
というかフリュウさん私服の甚平を着ていると思ったら、今着ているのは寝巻き用の浴衣じゃないですか。
非常に紛らわしいんですよ。
チャポンッ……………。
お風呂作戦は失敗しましたか、さすがにいきなりお風呂なんて早すぎましたね。
次は流れ的にこれしかないです。
ゲーム終わったら日付変わってました。
「それじゃあ、また明日ね」
「おやすみー」
「フリュウさん。俺はもうリセット前にミッション終わらせてから寝ます」
「ムラマサのミッション難しいやつだったの?」
「……ハッチ脱出を3回でした」
「それは辛いな」
ムラマサさんはゲーム部屋に残りますが、フリュウさんは通常通り部屋に戻るようですね。
作戦開始ですよ。
「あのっ……フリュウさん!」
「ん、どうかした?」
「その……ホラゲやったばかりなので怖くて……私が眠るまで側にいてもらえませんか?」
作戦その2。
夜中に男女がひとつの部屋にいたら、何となく気持ちを伝えやすい空気になるはずですよ。
もし断られても怖いからという言い訳があるので問題ないです。その場合は無理矢理私がフリュウさんの部屋に突入しましょう。
「わかった」
あっさり承諾!?
いやいやいやいや、もっと照れてくださいよ!
私の部屋。
「フリュウさん。そんな遠くじゃダメですよ、布団に入るくらい近くに来てください」
「布団に入るのはダメだ。父親代わりの俺が不健全なことはできないよ」
「むー。本当にガード固いんですから」
「この容姿だからね。マティルダとほとんど同い年みたいなもんだ。絵面的にマズイ!」
「何を意識してるんですか……」
「年齢確認」
いやいや大丈夫ですって、高校生の皆ネットで18歳以上ですか?の質問全て嘘ついてイエス押してますよ。
それよりもっと近くに来てよぉフリュウさーん。
「マティルダ、怖くて眠れないって言ってたよね」
「へ?はい」
「じゃあ本読んであげるよ。何がいい?」
「別に本なんて読まなくても眠れますよ。フリュウさんがもっと近くに来てくれれば」
「読ませて」
「あ、はい」
謎の圧力をくらってイエスをしてしまいました。本なんか読まれたら距離を取られてしまいますよ。せっかく二人きりになったのに。
もう無理矢理いきますか、ムードはそれなりにあるので無くならないうちにフリュウさんの照れ顔を見てやります!そして私を従者神にしてくださいと伝えるんです!
「じゃあ部屋から東京喰●とってくるよ」
「え」
「少し待っててね」
「なんでですかぁ!?」
寝る前に東京喰●っておかしいでしょ!?
面白い漫画ですけど!だからこそ眠れなくなりますよ!
東京●種なんてここで読まれたらムードもなにもかも無くなります。どうしましょう。
「お待たせ」
「多い!」
「発売中のやつは全巻あるからね」
というわけで布団で読み聞かせが始まりました。
予想通りまったく眠れなくなりました。
楽しかったですけどね。
「……あんた、童貞?」
「そこで恥ずかしがらないでください」
「すぅ……すぅ……」
全巻読み終えたところでやっとマティルダは眠りについた。
俺は幸せそうな寝顔を浮かべている娘を見ながらため息を吐く。
「やっと寝てくれたか。悪かったな、逃げたりして」
俺はマティルダと二人になるのが怖かった。とてもいいムードで男女が二人きり、経験したことない空気だ。
マティルダが自分のことを父親として見ていない、同年代の同じ事情を抱える異性だと認識していることは気づいている。
「俺は可能な限り……今の人間関係を壊したくないんだ。何でも壊せる破壊神だからこそ、今ある関係を守りたいんだよ。だからわかってくれ」
俺は乱れた掛け布団を整えて部屋から出た。
壊すのは……もう少し後で。




