破壊神と神生ゲーム
「ただいまです」
「お帰り……どうしたの、顔暗いよ?」
「やっぱりわかりますか」
「そりゃ何年一緒にいると思ってるの」
家に帰ってリビングに顔を出しただけなのですが、ミコトさんに落ち込んでいるのを見破られてしまいました。
やっぱりわかるんですね。
ちょっと嬉しいです。
「原因はこれです」
「……進路希望調査?」
「そうです。進路の話は私大嫌いですからねっ」
差し出したのは一枚のプリント。明日までに書いて提出しなければいけません。
魔王である私は普通の仕事に就くことはできないんですから、進路なんて選べないんですよ。
学校で進路の話があるたび私のテンションが下がっていきます。
「でもこれスゴく大切なことじゃないかな」
「私にとっては大切ではありませんよ!どうせ私クリスタくらいしか働けないじゃないですか!」
「ま、まぁね」
私はクリスタで働くのは嫌ではありません。
でも選択肢がないというのはやはり不満です。
ゲームが好きですからプログラマーとかデザイナーとか、アニメも好きなので声優とか、いろいろ夢を見たかった自分がいるわけです。
私はクリスタにしか入れないという決定事項があったので全て諦めていましたが。
「じゃあマティルダが本当に就きたい仕事ってなんなの?」
「えっ……何も考えてないです」
「それはそっか、考えさせなかったの私たちだもんね」
「気にしないでください」
ミコトさんを落ち込ませてしまった。
今私の中にある未来はとてもふわふわしたものだという意味です。
「これはフリュウさんも呼んで真剣に話し合わないといけないよね」
「えっ……!?だってどうせクリスタしか」
「フリュウさん昔は他の職場にいたの、もしかしたら可能性はあるよ」
ミコトさんが走ってリビングから出ていきました。
私としては面倒な進路の話は適当に済ませて、皆で楽しくゲームでもしたいです。
もしかしたらそれが私の願いかもしれません。
この四人でずっと楽しく暮らしていく未来なら想像できます。
「ただいまマティルダ、進路で悩んでるんだって?」
「す、少しですよ」
ミコトさんとフリュウさんが揃ってしまいました。
この二人は私の親代わりといった存在です、進路に対する真面目な話になりそうですね。
テーブルを挟んで話し合いが始まります。
「具体的じゃなくていいからどんな方向にいきたいのか教えてくれないか」
「どうせクリスタにしかいけないんですよね」
「クリスタは神と繋がってるからな、それが一番ってだけだ。ものによってはクリスタ以外でもいける」
「例えば何ですか?」
「劇場の裏方」
フリュウさんの昔の職場って劇場だったんですか、意外ですね。
劇場は一ヶ月ごとに演劇する劇団を変更するものがある、確かにそれならば成長しないことを悟られることはないですね。
残念ながら私のいきたい進路ではありません。
「そっち系はちょっと……」
「そうか」
「耳を貸してください、ミコトさんに聞かれるのは恥ずかしいので」
「ん……ああ」
言いますからね!
言っちゃいますからね!
私のJKボイスで耳を幸せにしてあげますよ。
「フリュウさんのところに永久就職したいです」
「ん!?」
フリュウさんは顔を真っ赤にして照れています。
可愛いです。
永遠の思春期であるフリュウさんには刺激が強かったでしょうか。
「マティルダ、何言ってるんだ!?」
「ずっと皆と暮らしたいってことです」
「そういうことか」
フリュウさんなんで安心するんですか、私のプロポーズ(仮)ですよ。
これは押せばフリュウさん落とせる気がしてきました。
「フリュウさん、もう一回耳を」
「今度はどうした」
ふふふ。ミコトさんにもレイティアさんにもあげません、フリュウさんは私のものです!
「私は魔王です、いつか成長が止まります。ずっと同じ家で暮らすわけですし、そろそろ交際を真剣に考える時期なのではないですか?」
「……つまりマティルダの進路は」
「フリュウさんのお嫁さんですっ」
これは決まりましたね。一世一代の告白ですからね。
いきなりプロポーズでも私は問題ないのですが、さすがに悪い気がします。常に同居していたとは言えフリュウさんは私を女性としてそこまで意識していないでしょうし。
フリュウさんからの返事は……
「はぁ……それ本気で言ってるのかな」
「えっ、はい」
「さすがに早すぎるというか、それに俺たち家族だし」
「家族でも血縁があるわけではありませんし」
「今のままの関係で、同じ家に住んで楽しく暮らしていければ満足じゃないのかな」
ま、まぁ満足してますけど。
フリュウさんのこと好きですし。
けどやっぱりもう一歩進んだ関係になりたいというか、なんというか。
そんな優柔不断だからレイティアさんみたいなストーカーが出現するんですよ。
天大陸にはフリュウさんのファンクラブまであるみたいじゃないですか。
「あまーいっ!!」
パリーン。
「なに!?」
「レイティア!?」
「また窓ガラス割ってるじゃないですかぁ!?」
言ってるそばからストーカーがきた!!
この人は玄関から入ってくるという思考がないのですか。
レイティアさんは壊した窓ガラスを一瞬でもとに戻して私に人指し指を突きつけました。突然なんですか。
「マティルダちゃん!そんな将来待ってないのよ!甘すぎるのよ何もかも!」
「えー……」
いきなり全否定ですか。
クリスタに就職するあたりは間違ってないと思うのですが。
「まず高校生の分際でお付き合いとかあり得ないの、付き合いなめてるでしょ!」
「そんなことないですよ。クラスでも彼氏持ち彼女持ちのリア充がいますよ」
「俺は学校とかわからないが、学生に見えるかなり若いカップルも見かけるぞ」
そうですよね。最近ではネットで付き合う人もいるらしいですし、私より幼い中学生も付き合ってるくらいです。
「そんな高校生の付き合うなんてそれに入らないの!日本の初婚年齢はもう男性は30歳、女性も29歳近くにまできてるの!その半分くらいの年齢から付き合って結婚まで至るケースは極々稀なの!モン●ンで例えるとレウ●稀少種とレイ●稀少種なの!」
「そうだったんですか……!」
結婚ってそんな難しいんですか、学生の付き合いの流れで結婚しちゃいましたみたいなことを想像してましたよ。
日本は晩婚化が進んでいるとか言ってましたからね。まさかそんな夢のないものになっているとは……。
さすが本気のストーカーは情報量が違いますね。
「さらにマティルダちゃんに追い撃ちするからね」
「えー、しなくていいです」
「この家お金ないでしょ」
「ないですね」
「おい」
だって事実ですし。
毎月給料日前になると食パン生活になるような家ですからね。
フリュウさんは悔しそうですが、すいません受け入れましょうよ。
「はい結婚無理です」
「なんでですか!?」
いくらなんでもハッキリ言い切りすぎですよ。
お金が無くても愛があるんですからね!
「婚約・結婚式・新婚旅行・結婚生活準備でいくらお金がかかるとおもってるの!?それともマティルダちゃんは指輪もない、式もあげない、新婚旅行も地元、結婚生活はこのまま、そんな結婚がしたいのかしら!?」
「そ、それは……ないですね」
「でしょ?」
愛があればいいと思っていましたが、盛大にお金を使って思い出をつくることも愛のひとつの形なんでしょう。
貯金なんてありませんよ……。
「ちなみに私は海外の高級別荘をいくつも買えるくらい貯金してるわ。フリュウくん、来週あたりに二人きりで旅行にでも行かない?」
「遠慮しておこう」
「フラれたぁ、慰めてミコトぉ」
「はいはい、よしよし」
ミコトさんに泣きつくレイティアさん。
いくらお金があっても性格があれなのでフラれますよ。
でもさすがにフリュウさん保守的すぎる気もします。
「ちなみにクリスタに関しては否定するんですか?」
「グスン……クリスタはこっちにきてる神を支援する会社でもあるからね、入ってもらっていいわ」
「じゃあ進路調査の紙にクリスタって書いておきますね」
クリスタでお金を貯めてからもう一度アタックすることにします。
「せっかく来てくれたわけだ、お菓子でも一緒にどうだ」
「是非っ」
「はやいな」
「私としてははやく帰ってもらいたいです」
私のお菓子の取り分が減りますからね。この変態ストーカーのために。
「そんなこと言うなって、アイスティーを4つで」
「はーい」
「お菓子はジャガ●コがいいです、サラダ味で」
キッチンではミコトさんがせっせとおやつタイムの準備をしています。
レイティアさんが同席するのは仕方ないですね、私もためになる話を聞かせてもらいましたし百歩譲って許してあげましょう。
「そういえばレイティアさん、別荘を買えるほどお金が貯まってるらしいですがいつからそんな貯めてたんですか」
「こっちにきてからずっと」
「ずっと!?なんでそんな」
「フリュウくんを追いかけてきたからね、もしもの時のためにお金は必用なの」
お金があれば今の時代ほとんどのことはできますからね。
その努力がまだ実を結んでいませんが。
「聞きたい?私とフリュウくんの出会い」
「聞きたいです!」
「おいおい」
「ふふふ、長くなるよ?」
私はフリュウさんの過去の話をほとんど知りません、とても興味があります。私、気になります!
レイティアさんは自慢げに笑みを浮かべると、何もないところから日本史の教科書にありそうな表を出しました。
創世神すごっ!
どこぞの青いたぬきみたいです。
「まず地球がうまれる前の話になるんだけどね」
「前過ぎますっ!」
え、神ってそこから始まるんですか!?
「その時から私はとにかーく恋がしたくてね」
「女性ですしね」
「性別関係あるのか」
フリュウさんはわかってませんね。
当然男性でも恋をしたいでしょうけど、女性にとって恋は生きる上で欠かせないものなんですからね。
「それから地球つくって、平安時代までとぶんだけど」
「かなりとばしますね」
「フリュウくんに会って運命感じちゃって、追いかけて日本に移住したってわけ」
「一目惚れでしたか?」
「そうなの」
レイティアさん意外にも普通の乙女ですよね。
一目惚れと聞かれて照れる顔とか、とても変態ストーカーとは思えません。
ちなみに私、地球作ったとかどうでもいいです。絶対私では神の感覚は理解できませんし恋愛のとこだけに反応することにします。
「それで今でもアタックを続けていると」
「全然フリュウくんが愛に応じてくれないから」
「まっさかここまでしつこいとはあの頃は思わなかったぞ」
普通平安時代からフラれ続けていたら心変わりしますからね、神の恋愛観が異常なのか、レイティアさんの恋愛観が異常なのかはわかりませんが。
「一回あんなことやこんなことになって、いい感じのとこまでいったのに……フリュウくん堅すぎるから」
「えっ!?聞きたいです!」
「レイティア話すなよ」
「もうっ、仕方ないなぁ」
ぶー。私もフリュウさん攻略の参考になるかもしれませんからね、気になります。
「フリュウくん、話しちゃダメなのね?」
「ああ」
「じゃあゲームしない?四人いるしパーティゲームでも」
レイティアさんはそう言うと巨大な箱をだしてパカッと二つに割りました。
それだけじゃなく、車と棒人間、お金とルーレット、職業カードらしいもの。
パッと見て双六みたいですね。
というか人●ゲーム。
ほんとこの人には準備という言葉はないらしいです、羨ましい。
「……やるのか」
「もう準備できてるからやらない選択はできないよ?」
「いつの間に」
「今そこに作った」
ばっちり四人ぶんの車がスタート地点に置いてあります。
四人でやる●生ゲームってテンポもいい感じで盛り上がりもあってバランスがいいですからね。
というわけでゲームが始まりました。