回線を切り落としたい*
「ルーム作ったよ、入ってきて」
「了解」
「はーい」
「わかりました」
休日の夜は決まって夜更かしゲームです。
今回はパソコンゲーム。名前を出すのはなんか怖いので控えますが、海外のゲームです。
最近日本語版が発売され更に楽しく分かりやすくなった鬼ごっこゲームです。
「じゃあ最初に見つかった人がチェイスして、1分は続けてくれ」
「その間に発電機ですね」
「ああ、それとチェイスのカバーにムラマサ行ってくれるか」
「了解っ」
「フリュウさん私は?」
「発電機いじっててくれ」
いきなり業界用語が飛んでますが少し解説を。
このゲームはゲートから外に逃げることが目的です。なので私たちは逃げる側です。つまり生存者。
ゲートの内側には殺人鬼がいて、彼らに殺されないようにゲートを開かなければいけません。
チェイス。鬼ごっこをすることですね、鬼を引き付ける役目です。この役が上手いか下手かでゲームの難易度が一気に変わります。
発電機。ステージ上にある壊れた発電機を5つ復旧させることでゲートが開いて逃げることができます。
「あと、わかっているな?」
「もちろん」
「はい」
「何回やってると思ってるんですか」
ですが、私たちの楽しみかたは少し違う。
「鬼をイラつかせて、回線落ちさせるぞ」
「回線落ちぃ♪」
「切断厨乙♪」
「他人の不幸は蜜の味です♪」
そう。鬼狩りです。
この家の住人はゲスい。
人の楽しみかたはそれぞれなので仕方ないですよね。でもスプラ●ゥーンで煽りイカとかはしません。
子供もいるかもしれませんので。
大人だったら煽ってもいいでしょう、というコンセプトで始まったこの鬼狩り。
私たちは生存者としてこの地に迷い混みました。
ゲームスタートです。
「一人目の殺人鬼を見つけましたよ。罠男です」
「足元には注意しろよ。草むらはしゃがんで移動な」
罠男は名前の通りステージに罠を設置できる殺人鬼。罠を踏むと動けない上に殺人鬼に居場所がバレます。ですが見てから回避できる上に視界の悪いところでもしゃがんで移動することでギリギリ回避できます。
さてさて、殺人鬼がくるまで発電機いじりますか。
ドクンドクン。
「あー、私見つかったみたいです」
「わかった。這いずりになりそうだったら言ってくれ、俺がカバーに入る」
「わかりました」
ドクンドクンと心音がなると殺人鬼が近くにいる証拠です。見つかったみたいなのでチェイスしますか、三人の発電機いじる時間を稼がないといけませんからね。
殺人鬼は生存者よりも足が早いです。
ですが殺人鬼は窓枠を越えるのが遅いとか、ステージに設置されている板を越えられなかったり、それらを使って上手く逃げ切ります。
まぁ今回は切断させるのが目的なので煽りまくりますが。
「ここ周辺の板全て使っていいですよね」
「もちろんだよ」
さてさて、了解が出たので板前で待機しますか。
板をタイミングよく倒して殺人鬼に直撃させるとダウンをとれます。それを殺人鬼もわかっているので回り道をしたりするわけです。
「(いいの?このまま突っ込んだらダウンだよ?しかもここ周辺の板はまだ4つもあるよ?)」
板を前にして私は超強気で煽ります。簡単に言うとしゃがみ連打。
この瞬間が楽しい!
いいの?いいの?
こうやって自問自答にも似た思考を相手に置き換え、今相手はどれほど嫌な気持ちになっているのかを想像する。
この上なく愉快です。
あ、突撃してきたんでダウンもらいますねー。
「鬼さんこちら♪」
「テイルすっごい楽しそうね」
「すごく楽しいです」
もう3回遊べるドン!ですからね。
またまた板前待機♪
「発電機ついたよ」
「俺もだ」
「もう少し稼げそうなのであと3つお願いします」
そう言ったとたん鬼が私のもとから発電機が点滅したところに行き先を変えました。
ちょっとぉ、もっと私と遊んでよ。
まだ3つも板があるので、それを嫌がったのでしょう。
序盤から大きく時間を稼がれるのは明らかな悪手ですからね、いい判断してるからこそ嫌いです。このアグレッシブな感じが。
「フリュウさんのほうに行きました」
「まっじか。一回殴られるわ」
「カバー入りますね」
フリュウさんの操作する生存者がダメージを受けました、もう一回ダメージを受けると瀕死となり這いずり状態になってしまいます。
言ってしまえば芋虫です。
ピンポーン♪ピンポーン♪
おや?ボイスチャットを希望の方がいるようですね。
突然ケータイが鳴って承諾か拒否するかのボタンが出現します。
「ムラマサかミコトどっちか暇ならケータイ見てくれ」
「了解……あー」
「誰からだ?」
「創世神からです」
レイティアさんかぁ!
しかも承諾するんですか。
『フリュウくーん!やっと見つけたわ!』
「げっ、レイティア……」
『げって何よ』
「いや。色々察したもんで」
私も察しましたよ。
フリュウさんは正しい反応をしたと思います。
『ちなみにこの殺人鬼私だからね♪』
ですよねー。
しかもガチもんのストーカーが殺人鬼になるとか笑えないですよ!
フリュウさん逃げてー。ってもう逃げてますね。
「なんでレイティアが殺人鬼やってんだよ。なんでインターネット対戦で身内だらけのゲームしないといけないんだよ」
『スナイプしたからね』
「お前どっかに盗聴器しかけてやがるな」
『ギクッ』
「ギクッ」
ストーカーは殺人鬼になる運命のようですね。
はぁ、これは切断しそうにないです。鬼狩り失敗です。
あと地味にミコトさんまで心当たりがあるんですか。
「フリュウさん!私が肉壁になりますから逃げてっ」
「ありがとマティルダ」
『マティルダちゃん!私の至福の時間を邪魔しないで』
ズパッと殴られました。
すいません、肉壁終わりです。
「至福の時間って、ゲームがですか?」
『そんなもんじゃないわ。フリュウくんを好きなだけ追いかけまわせることよ!』
「これ二次元だぞ」
『フリュウくんが操作しているキャラは全てフリュウくんなのよ』
うわぁ……。
現実だとフリュウさんのガードが固すぎて追いかけまわせないからって、ゲームでスナイプしてまで追いかけまわしますか普通。
たぶんフリュウさんは普通に接してくるのなら拒否したりしないと思うのですが。ストーカーなんてするから相手にされないのですよ。
『スナイプ失敗してばっかりで、何度切断したことか』
「「「「切断厨乙」」」」
『うるさいわね!でもその苦労もやっと報われたのよ』
報われなくていいです。この変態。
本当に顔だけは完璧美人なので性格がアレで助かりましたよ。
『フリュウくんを芋虫状態にして、出血多量で逝くまで傍で観察するんだから!他の人はさっさと出てってくれる?』
ブチン×4
「さて、次の試合いこうか」
「そうですね」
「あんな変態おいときましょう」
『こらー。フリュウくん切断なんてズルいよ』
「戦略的撤退だ」
今こそ言いましょう。自分に向かって。
切断厨乙。
ちなみにあの後レイティアさんが乗り込んできました。五人で夜食を食べたら満足して帰ってくれましたが。
ほんと普通に付き合うぶんにはいい人なんですけどね。