破壊神と深紅の魔王
はじめまして、まず開いてもらったことに感謝を。
休日は毎日、平日は不定期になりますが更新していきます。応援よろしくお願いします。
「『魔王』
それは神に産み出されたのではなく、独立して生まれた生物。それ故にこの世界のバランスを崩す存在。
そして我ら神々は、世界のバランスを守るために魔王達を駆逐する。
集え!我らと共に戦う戦士たち!」
お気に入りの紅葉柄の和服を身につけ第一印象がマジメな人となる顔をさらに鋭くした破壊神フリュウは臭い言葉を発した。
まぁ、俺のことだ。
第一印象マジメ?
そうだな、あと可愛いともよく言われる。
男なんだけどな。
容姿が17歳で止まっているせいだろうか。
「……みたいな感じでどうかな」
俺が熱く語った相手は広報係の女性。一瞬ポカンと空白があったが、一応上司の俺を待たせてはいけないと思ったのだろうか、すぐに顔を明るくして答えてくれた。
「さすがフリュウさん、本当に助かります!」
両手を合わせてありがとうのしぐさをして、広報係の女性はすぐにポスター製作に取りかかる。この女性も俺の中で第一印象はマジメだ。
今神々は魔王との戦争状態にある、少しでも戦力が必要で人間からも戦える人材を求めているわけで広報係は大切だ。
神も魔王も人間も同じような容姿をしている、それを駆逐する及び戦闘に向かわせるのは罪悪感がないというわけではないが、それでも人間は神の下に位置する存在だと認識している。
当然だ、作られたのだから。
「気にしないでくれ、広報も大事な仕事だからな」
そう言って俺は踵を返し部屋から出ていこうとした。出ていっていないのは呼び止められたからだ。
「あ、フリュウさんもう勤務期間終わりですか」
ポスター製作を止めて広報係の女性は残念そうな顔をして言った。
そうだ、今日はこの場所での最後の勤務だ。
この女性は破壊神の派閥にいる神の一人、順位で言うとかなり下になるが破壊神である俺と繋がりがあるのは変わらない。
主との別れが寂しいのか?そうだと嬉しいな。
「そうだな」
ここは神と人間が共存する天大陸、神の本拠地だ。しかし俺は人間を頂点とする大陸、言ってしまえば地球の中の日本に住んでいる。ここには生存確認がてらに顔を出しただけだ。
「お疲れさまでした」
「ああ、また何年後かに顔を出すから」
女性が頭を下げて言ってくれたというのに、俺はこの程度のことしか言えない、実際あまりここには来たくないのだ。部下には会いたいと思うが、神々の権力争いには関わりたくない。
だが俺はまだ部屋から出ていかない、顔をあげろよ。思いが伝わった、そんなはずはないが不信に思ったのだろう、女性は顔を上げた。
「行ってくる」
「はい!フリュウさんが帰ってくるまでに魔王を駆逐してみせますから!」
しばらく会えない同志を苦しい顔で別れるなんて嫌だろう。そう思った俺は精一杯作った笑顔を見せてから部屋を出て天大陸を後にした。
「ほんっと顔出しの義務なんてめんどくさいのがあるもんだな」
天大陸と日本は地続きになっている。ここ霊峰と呼ばれる山道がそれだ。ここを歩き続ければ家に着くわけだ。もちろん人間からはこの山道は見つけられないぞ、地図にもないからな。
ちなみにこれは独り言ではないぞ、いやこれは独り言だが、声に出しているのは俺の相棒に聞かせるのが目的だ。
やれやれ、破壊神も楽じゃない。
まぁ同志と会うのは楽しみだからそこまで苦ではないが。
それと破壊神と聞いて何を思い浮かべるだろうか、大体の人は何でも好きなように壊せるみたいなことを考えるだろう。
わりと正解。
だがそれは物理的な破壊行為だ、俺が破壊するのは物理的にだけではなく概念的にも破壊できる。
つまりこの世から消せる。
これが完全な破壊の形だ。形あるものが無くなったのだから破壊に他ならない。
破壊神になりたいですか?
という質問があったらなんと答える。
皆は神という存在に求めすぎだ、何でもできるとか思っているのだろうか。
もちろん、無理だ。
破壊神になった時の特典?そうだな。
「人に触りたい……」
おっとついつい本音が声に出てしまった。だがこんな渇望するかのような声で言っているのだからわかるよな。
理由は簡単だ。破壊の力のONとOFFがないからだ。
触れたもの全てを破壊する、なんてことはない。だが心が少しでも乱れると力を制御しきれなくなり、生存本能が勝手に動いて体の回りに破壊の力が集まってくる。
これがどういう結果になるかというと……、
例えばキャッチボールをしていたら、飛んできたボールに含まれたエネルギーが全て破壊され、跳ね返るわけでもなくボトッとその場で落ちる。もしくはボール自体が消え去る。
人が肩を叩こうとすると、なんの感触もなくなぜか手が止まるという謎の現象を起こす。もしくはその手の持ち主が消滅している。
そして俺は男だ、もちろん性欲もある。だがR18以上のものは全て平常心でいられないから無理だ。R15すら厳しい。
そしてもう一つ特典があるぞ。喜べ。
「いい加減死にたい……」
ああ、またついつい本音がでてしまったか。
これは神全員に言えることだが体が老化しない。俺の場合は常に17歳のままだ。これは神としての力に目覚めたときの年齢が反映されるらしい。
これは他の神からしたら別に苦でも何でもないようだ。もともと神はそういう存在だからな。
しかし俺はもともと人間だった、神になりたいと願う君達も人間だろう。つまり死ぬこと前提で人格を構築してきたわけだ。その人格全てが無駄になった。
命という儚いものがあるからこそ努力しようなど一生懸命になれるわけだが、俺にはそれがない。
ハッキリ言うぞ。生き甲斐がない。
「なぁ?いい加減起きてくれないか、退屈で死にそうだ」
死ねないけどな。
こんな自虐行為をしながら相棒に問いかけて返事もなく毎日を過ごす辛さを体験したいのなら是非とも入れ替わってもらいたい。
「どこかに運命の出会いとか落ちてないかなぁ」
ため息混じりに吐き捨てる。
どこぞの夢見る恋愛脳な乙女のような台詞だが俺の場合は必死さが違う。人間の何倍も生きてこれから先何百年生きるか分からないんだぞ、同じような目で見ないでくれよ。
とりあえず俺は求めているわけだ、この退屈な生に潤いを与えてくれる存在を……。
「う?まティー」
「何事かぁっ!?」
「ひぁ!?」
霊峰の山道、俺が歩いているのは深い森だ。しかも崖沿いの草木がはげた狭い所を歩いている。そんな人がいないだろう場所で声がしたら驚いて変な声も出てしまうだろう。
…………。
すいません。自分の世界に入っていたのに他人の声がして羞恥心から変な声出しちゃいました。
声を出したのは森の中でペタンと手足をつきこちらを見つめる女の子。なぜここにいる。
「うーうー、まティー」
「君はどうしてここに?」
深紅の長い髪の毛と淡い赤目を持つ女の子だ。人間で例えるのなら1歳か2歳かといったところ。まだ質問に答えられるような年齢をしていないのか、それとも言語教育を全く受けていないのかはわからない。うめき声だけ発してテコテコと歩いてくる。それにしても変なうめき声だな、まティって何だよ。
着ているのはボロい布一枚、捨てられたのだろうか。
「ん?」
「まてぃ?」
よく見ると深紅の髪の毛の中一部皮膚が盛り上がっている。
角だ。
神も魔王も人間と変わらない容姿をしているが見分けることも不可能ではない。魔王は角が頭に生えているのが特徴だ。だが成長するにつれ角を制御することができるため見分けることは容易ではない。
目の前にいる子供の魔王なら話は別だ。
いずれこの子供も立派な魔王になり神に対立する存在になるだろう、今のうちに若い芽を摘んでおこうか。
「まーてぃー」
「どうした」
テコテコと歩いてきた子供の魔王は俺に向けて手を伸ばした。
触る?いや、食べる気だな。森に何日か放置されていたようだしお腹が空いているのだろう、俺を人間だと思って食料にする気か。
心ではそう思っても全く警戒心を持てない。こんな小さな女の子が自分で食料を狩りにでるなんて想像すらしたことない。
どちらにしても大丈夫だ。俺を油断させて食べるのならギリギリで魔王としての本性を現す、そして俺は警戒心を抱き破壊の力を纏うだろう。脳から信号が発信され無意識のうちに体が反応するまでの僅かな間に俺を絶命させないといけない。俺を殺すにはそんな無理ゲーを挑む必要がある。
これがどれほどの無理ゲーかと言うと。0.1秒の間にプロボクサーを殴り殺せということだ。
警戒心を持てないまま魔王の小さな可愛い手のひらが俺の手のひらに触れる。
柔らかい、温かい、守りたい。
守りたい?
嫌、そんなはずないだろ、こいつは魔王だぞ。
ふかふかの魔王は無邪気な笑顔をして俺を見上げた。淡い赤目は俺の全てを見透すようで、ここで心を掴まれたのかもしれない。
「まてぃ?」
「ま……てぃ?」
俺が疑っているのを見透したのだろうか「どうして怖い顔をしているの?」とでも言いたげに首を傾げた。
ズキューン。
可愛い……だと。
心を射抜かれた。
魔王のくせに!駆逐対象のくせに!可愛いなんて!
天地鳴動とでも形容しておこうか、まさに俺の中にある前提としての概念が覆された。魔王は恐ろしいもの、のはずが魔王でも可愛いなら守っていいじゃないかに更新された。
すまない我が同志たちよ、可愛いには勝てなかったよ。
あと安心してくれ。俺はこの魔王を立派に育ててみせる。悪には染めさせないさ。
「ずっと一人で待っていたのか」
「まティ」
テコテコ歩きの魔王と身長を少しでも合わせるためにしゃがんで問いかける。言葉は伝わらなくても心が繋がったのか、可愛らしい「まティ」と共に頷いてくれた。
よし、俺決めた!
この魔王を破壊神の家族に向かいいれよう!
「なぁ、俺と……」
「まティぃぃーー」
「……」
どうしよう。まティまティの魔王が俺の足にしがみついて放してくれません。
もう見なかったことにしよう。
こんな魔王見なかったぞー。このまま空飛んで帰ったらたまたま魔王がくっついてました、これでいこう。
「飛ぶからな?」
「まティ?」
やめろ首を傾げるな。めっちゃ可愛いから逆に心が乱れる。こんな可愛いのが魔王だなんて本当に信じられないな。大人になったら怖くなるのだろうか。
「よっと……あ……」
肩甲骨の辺りから真っ黒な翼を生やして空に飛び上がる、のはよかった。そういえば空飛んでどうやってまティまティの魔王がついてくるのか全く考えてなかった。
不安になって足に視線を落とすと
「……」
「?」
子供といえどさすが魔王だ、平然とした顔で俺の足にしがみついている。これなら問題ないだろう。
可愛い女の子を足にしがみつかせるのが申し訳なくなってきた俺はその女の子を持ち上げた。
「ただいま」
「お帰りなさーい」
「お疲れさまです」
家、まぁマンションの一室なんだが。
玄関に入ると聞きなれた仲間二人の声がした。聞いてくれ、霊峰での出会いを。
「ミコト、ムラマサ、魔王拾ってきた」