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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

転生ガチャの恐怖!~課金で人生が滅茶苦茶になった男~

作者: あろまーじ

※実際のソシャゲとは全く関係ありません。

「山田健也様、貴方はお亡くなりになりました」


 どうやら俺は死んだらしい。と、冷静に思考できるのは、目の前の光景があまりに現実離れしているせいだろうか。テレビでしか見たことのない荘厳な宮殿の中、俺の前には信じられないくらい美しい女性が微笑んでいた。……それも背中に翼を生やし、頭に淡く輝くリングを浮かせた女性が。


「あー、えっと……。あ、貴方は?」


 意を決して話しかけてみた。緊張で声が震えていた。これほどの美女に声をかけるというのは、たとえ女慣れしている男でも緊張してしまうだろう。いや、俺が女慣れしていないというわけではないのだが。

 そんな俺を余所に彼女は微笑みを絶やさぬまま、小さく整った唇を開いた。


「天使です」

「天使……ですか」


 どうやら彼女は天使らしい。彼女の言葉には不思議な説得力があり、疑念というものが一切湧いて来なかった。これで「悪魔です」と言われても困惑するだけだが。

 意志疎通が多少なりとも取れたことで安心した俺は、先ほど投げかけられた衝撃的な言葉の意味について聞いてみることにした。


「天使さん、貴方はさっき俺が亡くなったって言いましたよね? それっていったいどういうことでしょうか……?」

「言葉通りの意味です。覚えていませんか? 貴方が死ぬ直前、ありえない奇跡が起こったはずですが」

「ありえない奇跡……って、ああ!」


 そうだ、思い出した。忘れることなんてできるわけが無い。あの時、俺は嵌りに嵌ったソシャゲのガチャを回していたのだった。期間限定で実装されたキャラ目当てに、課金兵の俺は馬鹿みたいに課金をした。しかし、物欲センサーというソシャゲ最強の敵に阻まれ盛大に爆死。普段は生活費を使い果たすくらいで抑制が効いたのだが、今回のキャラは性能・イラストアド共に最上級。俺はすっかり惚れこんでしまい、頭がおかしくなっていた。このままでは貯金を切り崩し、借金をしてしまうほどの勢いだった。決心を決める直前、運営からの不具合修正の詫び石が届き、ちょうど10連回すだけの石が溜まった。まさに神の恵み、天恵だった。俺は即座に石をつぎ込み10連を回したのだが……。


「まさか……10連全てが目当てのあの娘だったなんて……」


 1枚目で喜びのあまり絶叫し、2枚目の不意打ちで思考が停止し、3枚目をぼんやりと見つめ、4枚目で夢だと錯覚した。5枚目以降は悟りを開いていた。10枚目の排出が終わり、この10連で引いたカードの一覧がスマホの画面に表示され、ようやくこれが現実だと頭が認識した。


「ん? でもその後の記憶が無いんですけど……?」

「それは当然です。貴方は10連全てで目当てのキャラを引けた喜びで興奮しすぎた余りに、脳内血管全てが破裂して即死したのです」

「マジかよ」


 どうやら俺はとんでもなくダイナミックな死に方をしたらしい。痛みも無く逝けただけマシなのかどうなのか。いや、愛しのあの娘を引けたというのに死んだというのは、間違いなく不幸だ。


「はぁ、まさかガチャで死ぬなんてなぁ……」

「ご理解いただけたようですね。では、『転生』についての説明をさせていただきます」

「『転生』……?」

「はい、貴方には今まで生きてきた世界とは別の世界に転生していただきます」


 天使は相も変わらず微笑んだまま、衝撃的なワードをぶち込んできた。いわゆる異世界転生というやつなのだろうか。トラックに引かれたり、誰かをかばって死んだりするのが定番だと思うが、俺の場合はガチャで死亡。何なんだ俺は。


「その、なんで俺をなんかを転生させようと? もしかして選ばれた才能が……」

「死亡した人間全てを対象としていますので悪しからず」

「あっはい」


 そんな都合のいい話は無かったようだ。異世界転生してハーレムを作るという妄想はしたことがある。そのハーレムメンバーが課金を重ねて引き当てたキャラというのが、俺の末期具合を物語っていたのかもしれない。


「説明を続けます。貴方が転生する世界は、貴方の知識で言うところのファンタジー世界。魔法や魔物といった科学では説明がつかないものが跋扈する世界。社会も地球に比べれば未だ発展途上であり、貴族階級が強い権力を持ち、人権なんてもってのほかです」

「うわぁ……明らかに危険そうじゃないですか。もう一度日本に、せめて地球に生まれ変わることはできないんですか?」

「それはできません。転生先の世界だけは決められませんから」

「?」


 天使の言葉に引っかかった。まるで、それ以外なら変えられるかのような口ぶりだ。


「あの、転生先以外のことだったら自由に決められるんですか? 例えば、金持ちの家に産まれるとか、並外れた才能を持って産まれるとか……」

「はい、可能です。生まれや才能の指定、また他に類を見ない特殊な能力を持っての転生もできます。貴方の知識で言うところの特典というものでしょうか」

「おおっ!」


 神様から貰った特典を持って異世界に転生。王道を通り越して陳腐とも言える展開だ。しかし、自分の身に降りかかるならばこの上ない幸運だろう。特典を利用して異世界で成り上がり、何不自由なく生活する。給料日のその日に、下した給料全てを課金に費やして爆死し、親から土下座して金を借りた時に思い描いた妄想が実現するときが来たようだ。ちなみに借りた金の半分以上はまた課金に使った。爆死した。


「そ、それじゃあいろいろと要望があるんですけど……」


 俺は興奮気味に天使に話しかけた。頭の中では薔薇色の未来のイメージでいっぱいだった。落ち着け、熱くなりすぎるのは俺の悪い癖だ。この癖のせいでどれだけ無駄な金を使ったことか……。

 妄想を振り払うように頭を振り、冷静さを取り戻す。冷静にならねば、通る要望も通らなくなるかもしれない。薔薇色の未来のため、ここで何としても良い特典を勝ち取らなければ!


「その前に、まずはこれをお受け取り下さい」

「へ? こ、これって……」


 天使から手渡されたのは、見慣れた薄い長方形の物体。手に馴染む程よい大きさと、見た目に似合わぬ重量感。間違いない、これはスマートフォンだ。機種までは分からないが、少なくとも俺が愛用していたスマホとは別の物だ。何故このタイミングでスマホを渡されるのか。液晶画面を見てみると、ソシャゲのようなゲームの画面が表示されている。


 ……なんだか嫌な予感がする。


「貴方の特典はその、『転生ガチャ』によって決めます」

「んあああああああああああああああああああ!」


 死んでもなお、俺はガチャの呪縛から逃れられないというのか!


 初めてガチャを回したのは高校3年の冬。受験勉強の息抜きにソシャゲを始めたのがきっかけだ。初めは無課金を貫き、廃課金勢を笑って見下していが、次第に受験勉強をそっちのけでのめり込み、危うく滑り止めの大学すら落ちるところだった。この頃から俺は大概屑だった。

 まさか転生の特典を決めるためのシステムに、悪名高いガチャが採用されているとは。いや、ここは死後の世界だ……地上の欲深き者どもが作ったガチャよりは良心的なのかもしれない。


「『転生ガチャ』を回すためには1回につき神聖石が5つ必要になります。画面右上に現在所持している石の数が表示されています」

「ああ、確かに……100って表示されてる」


 つまり20連できるというわけか。無課金で初めから20連もできるというのは中々サービスがいいのではないだろうか。


「……通常の場合、最初にお配りする石の数は50個なのです」

「え?」

「本来であれば山田健也様は今日、亡くなる運命では無かったのです。お亡くなりになる前のガチャは当然のように爆死。踏みとどまることの出来なかった貴方のソシャゲ熱は、さらにヒートアップ。課金のために借金に手を出すようになり、友達や両親からも見捨てられ、最後には自分の部屋で首つりをするということに……」

「結局死んでんじゃねえか!」

「結果は同じとはいえ寿命を縮めてしまったのは事実です。よってお詫びとして神聖石を追加で50個お配りしたというわけです」


 詫び石かよ。命にかかわるミスがガチャ10回分というのは高いのか安いのか。改めて画面を見てみる。表示されているガチャは通常ガチャと期間限定ガチャの2種類。思わず期間限定という言葉に心を惹かれてしまったのは仕方のないことだろう。


「現在の期間限定ガチャはLRの【恩恵:究極成長加速】がピックアップされていますね。他のLR(レジェンドレア)に比べて優先的に排出されます」

「レジェンドレア……本当にソシャゲのガチャみたいだ。あの、レアリティの種類と排出律はどのようになってるんですか?」

「レアリティは全部で7種。低いほうから順に、C(コモン)が45.4%、UC(アンコモン)が26.4%、R(レア)が20%、SR(スーパーレア)が6%、HR(ハイパーレア)が2%、UR(ウルトラレア)が0.5%、そしてLR(レジェンドレア)が0.1%となっております」

「糞運営死ね!」

「落ち着いてください。10連ガチャならR以上が1つ確定です」

「1つだけかよ! 普通は10連全部R以上確定だろ!」


 最高レアが0.1%ってどんだけだよ。それより酷い確率のソシャゲもたくさんあるが……。しかも10連ガチャで低レアを排除してくれないのがキツイ。こういうガチャの場合、低レアを排除した上でさらに高レア確定枠を作るのものだと思うのだが。死後の世界は中々の糞運営っぷりを見せてつけてくれた。


「それは仕方のないことです。所詮はデータの塊であるソシャゲのガチャとは違い、転生ガチャは現実に大きく影響するのですから。URともなれば国レベル、LRでは世界レベルで影響する特典なのです。ピックアップ中のLR【恩恵:成長加速(究極)】を取って見ても、その効果は『身体能力や技術の成長の速度を千倍にする』という破格の特典ですよ?」

「せ、千倍……」


 成長チートと言う奴か。千倍ともなれば、普通の人間が10年掛かってやっと習得する技術を、たったの4日程度で身に着けることができる。確かにこれは間違いなく世界レベルだろう。もしこんな特典を手に入れられたなら、転生後の人生は間違いなく安泰。成るほど、LRが0.1%というのは妥当であり、むしろかなり良心的とも言えるのではないだろうか。十分ありうる確率だ。

 ……とりあえず1回、10連を回してみよう。期間限定ガチャを選択し、10連ガチャを回す。排出の演出は飛ばさない派だ。どんなカードがでるか、狙ったカードは来てくれるのか。手に汗握り、ドキドキしながら待つ瞬間は堪らない。記念すべき最初の転生ガチャの結果は以下の通りだ。


N【能力:魅力増加(極小)】

N【能力:筋力増加(極小)】

UC【才能:洗濯(微小)】

N【種族:ミジンコ】

UC【容貌:赤色の髪】

R【種族:人間】

N【能力:魔力増加(極小)】

N【才能:剣術(極小)】

UC【耐性:火属性(微小)】

N【出身:奴隷の子】


 Nが6個、UCが3個、Rが1個排出された。確率的には妥当なところだろう。しかし、なんというか想像していたような特典と違う感じが……。そもそも、ガチャから排出される特典の中に人間を指定するものがあるってことは、もしかして転生後の種族は人間とは限らなかったりするのだろうか。もしそうならここで【種族:人間】を引き当てられたのはとてつもない幸運だろう。


「UC以下の特典は正直言ってあっても無くてもあまり変わらないものがほとんどです。Rでようやく効果が実感できるレベルですね」

「あっても無くても変わらない特典がでる確率が、7割以上なんですが……」

「仕様です」


 そう都合のいい話は無いということか。残る石は50個、後もう1度だけ50連を回すことができる。【種族:人間】を引き当てられたことで最低限満足しているが、できればHRくらいの特典は引き当てたいものだ。

 心を無にし、10連ガチャを押す。先ほどと代わり映えの無い演出が続き、排出されるのはCやUCばかり。これはダメかと諦めていた矢先、画面が金色の光で満たされる。先ほどまでとは明らかに違う演出。


「これは確定演出……!」

「はい、HR確定演出ですね。SRなら銀色、HRなら金色、URなら虹色の光が出ます。LRの場合はスマホの画面を飛び越え、3次元上に演出を投影します」

「来た来た来た来たァ!」


 興奮しながら画面を食い入るように見る。2%の壁を突破して、俺の元にやってきてくれた特典はいかほどの物か。URで国レベルだから、その下のHRでもそれなりのものだろう。演出が終わり、排出された特典は……


「【恩恵:前世の記憶】……?」

「これは幸運ですね。前世の記憶は通常、引き継がれないものですから」

「お、おおう……」


 てっきり記憶を引き継いで転生できるものだと思っていた。どれだけいい特典を手に入れても、前世の記憶を持っていなければ意味は無い。数多あるという特典の中で、前世の記憶の特典を引き当てられた俺はかなりの幸運と言える。……それ以外はほとんど意味のない特典だが。

 【恩恵:前世の記憶】を引き当てた後の演出は通常と変わらず、Nしか排出されなかった。これで俺の転生ガチャは終わりというわけだ。望んだ結果とは程遠いが、【種族:人間】と【恩恵:前世の記憶】があるだけマシだろう。0.1%など夢のまた夢なのだ。


「石も全部使い果たしたし、これで転生ってことで……」

「いいえ、まだ石を手に入れる手段はありますよ?」


 天使はにこやかに、スマホの画面を指さす。そこには『課金』の2文字があった。彼女に指摘されるまでまったく気が付かなかった。課金という単語を、脳みそが無意識に拒否していたのだろうか。とりあえず『課金』と表示された箇所をタッチしてみた。すると、画面にたくさんの項目がずらっと表示される。『種族をランダム化→神聖石100個』、『筋力の下方修正→1割につき神聖石15個』、『出身を奴隷の子に→神聖石40個』……などなど。


「成るほど……転生後にデメリットを負うことで、石が貰えるシステムか……」

「課金に支払うのは金ではなく代償ということです。ですが、引いた特典によっては代償を実質踏み倒すことができますよ。例えば種族のランダム化のデメリットですが、通常であれば人間に生まれることは確定していますので。健也様は『種族:人間』を引いていらっしゃいますので、人間として生まれることができます」

「へぇ、なら遠慮することは無いか」


 早速デメリットを負い、神聖石100個を手に入れた。これで、追加で20連できるわけだ。意気揚々とガチャを回すが、結果はSRすらでない有様。


「くっ……」

「ちなみに同じ特典は重複して所持しても意味は有りませんが、合成することで効果が最大4段階上昇します。最も、特典の数は膨大ですので、たとえCでもダブるという可能性は低いですが」

「そんなシステムもソシャゲみたいですね……」


 LRの限界合成なんてしたら、どれだけ凄いことになるのか。そんなことはさすがに不可能だとは思うが。


「転生ガチャは好きなタイミングで止めることができます。課金は自由ですが、ほどほどすることをお勧めします。LR、URが出る確率は本当に低いですから」

「…………」


 確かに、ここで止めるのが賢明なのかもしれない。HRの【恩恵:前世の記憶】を引き当てた時点で、かなりの幸運なのだから。前世の記憶があるだけでもかなりのアドバンテージだ。転生してもそれなりに上手くやれるはず。課金のし過ぎで深刻な代償を負い、転生後の人生が台無しになっては元も子もない。それこそ前の人生の二の舞だ。だからこそ、俺はここで課金を辞めるべきか?


「……いや、それは違う」


 これはチャンスなのだ。天が俺に与えてくれた、やり直すチャンスだ。せっかく【恩恵:前世の記憶】を引き当てて、転生後も記憶を引き継げるのだ。ここでギリギリまで粘って、高レアの特典を引き当てるべきだろう。それこそ、現在ピックアップされている【恩恵:成長加速(究極)】を手にできれば、転生後の人生は約束されたようなものだ。多少の代償を負ったところで、補って余りある成功を手にできる。0.1%は一見低いように思えるが、ガチャを回し続ければ絶対に出ない確率ではないはず。100、200と回し続ければ、いずれ必ず俺の元にやってきてくれるはず。


「大丈夫ですか、健也様? 先ほどから考え込んでいますが……」


 目の前の天使の笑顔に、俺の心は勇気づけられる。彼女自身のミスだったかは定かではないが、彼女の属する組織のミスで俺の寿命は縮まった。そのミスの詫び石で、【恩恵:前世の記憶】を引き当てることができた。これは運命と言っても過言ではない。まさに、彼女は幸運の天使だ。今の俺なら、必ずLRを引き当てることができる。そう確信した。


「大丈夫です! 俺は必ずLRを引き当てますから!」

「はぁ……」


 課金の代償を吟味する。ほどほどの代償で、貰える石が多いものを選んでいく。とにかく石をかき集めなければ。回転数こそ全て、つぎ込んだ石が多ければ多いほどに結果に結びつくのだから。











「筋力とかの下方修正は1割程度なら問題ないよな……片っ端から下げていこう」


「ちっ、中々いいのが出ねぇ……。いや、まだ払える代償は残ってる」


「うおっし! SR【容貌:美形(中)】キタコレ! イケメンはそれだけで勝ち組だからな……」


「ああクソッ! 200連はしたってのに、まだURすら出ないのかよ……」


「あの、そろそろ止めた方がよろしいかと……」


「……HR【才能:ボディランゲージ(大)】引いたし、声が出なくても問題ないよな? 声と引き換えの石で、さらなる成果を手に入れれば……」


「ひゃっほぉおおおおおおお! UR確定演出ゥ! 来たぜ俺の時代……って、【才能:ボディランゲージ(極大)】ってふざけんじゃねえぞ! 外レアじゃねえかぁあああ!」


「URも引けたことですし、もう十分では?」


「こんな程度で引き下がれるか……もっと、もっと代償を……」











「アカン」


 気が付けば、取り返しのつかないレベルで代償を捧げていた。最初は無くても困らないものを代償に捧げていたが、いつの間にかそれでは足りなくなり、生活に不自由が出るものすら代償としていた。体に関わるものだけ見ても、身体能力7割減、身長減、発声障害、右目喪失……などなど様々。払った代償を手に入った得点で補えるかどうかは、正直分からない。

 1000連以上回した結果、Rが125、SRが44、HRが22、URが2という結果だ。URのボディランゲージで無いもう1つは【種族:ハイエルフ】だ。エルフの王族の血筋であり、天才的な魔法の才を持ち、寿命も1000年単位だと言う。お陰で寿命の代償を大胆に支払うことが出来た。これだけでも勝ち組と言えるのだろうが、何をトチ狂ったのか、出身の特典を碌に引けていないうちから出身が奴隷の子になる代償を支払ってしまった。お陰でハイエルフの奴隷という、ハードな人生しか予感させない境遇になってしまった。幸い、魔法・魔力関係は充実しているから何とかなるはず。


「け、健也様……もうよろしいでしょう? 転生すべきです、いいえ転生してください」


 天使の笑みが完全に引きつっている。かつて同じような笑みを友人が浮かべていたのを思い出した。確か、俺の課金の総額を伝えたときの話だっただろうか。それっきり、その友人とは会っていない。


「いや、まだ終われない。ここで終わってしまえば、LRのために捧げた代償が全て無駄になってしまう。LRを引くまで俺のガチャは終わらないっ!」

「それは完全にダメな発想ですよ! 今ならまだ引き返せるはずです!」

「うるせぇ! 廃課金舐めんな!」


 大体、特典を決める形式がガチャなのが悪いのだ。射幸心を煽るような真似をする死後の世界側に責任がある。夢を見させて課金させ、代償を支払わせる……。天使と言うより悪魔の所業だ。一体どれだけの人間が破滅したのだろうか。


「なにか失礼なことを考えていませんか? 普通の人ならばここまで課金しませんよ!」

「だったらそもそも代償で課金できるようにするなよ! 重すぎる代償を載せんなよ! 何も知らない子供にやらせたら、取り返しのつかないことになるかもしれないんだぞ!」

「大人の貴方が取り返しのつかないことになっているのですが!?」


 やはり運営はクソ、ガチャは害悪。ここで止めたらますます運営の思い通りだ。LRを引き当てて、薔薇色の来世を送ってやる。支離滅裂で頭がおかしくなっている気もするが、そんなことはどうでもいい。新たに支払った代償で手に入れた石をつぎ込み、10連ガチャを回す。心を無にし、物欲センサーを掻い潜る。


「…………」

「はぁ……。それで最後にした方がいいですよ」


 呆れたような声が心に刺さる。課金で身を崩しかけて、最初の頃は両親も俺のことを心配してくれた。親父には怒鳴られ、殴られたりもしたが、俺のためを思って言ってくれることが分かった。けれど、それでも課金を止めることができなかった俺から、次第に両親は離れていった。もう1年以上、会話すらしていない。実の家族にすら、俺は見限られてしまったのだ。

 ああ、そうだ……! ソシャゲなんてうんざりだ! 課金なんてうんざりだ! ガチャなんてうんざりだ! ガチャのせいで俺の人生が、どれだけ滅茶苦茶になったことか。もともと屑気味な俺でも、ガチャが無ければもう少しまともに生きていけたはずだ。……そんな責任転嫁をしている時点で、俺はどうしようもない屑だろう。

 転生ガチャはチャンスだ。生まれ変わってやり直せる機会を、俺に与えてくれている。ガチャのせいで失敗したというのに、やり直すための方法がガチャというのは皮肉に過ぎる。この転生ガチャで、俺のガチャは最後にする。LRを引いて転生して、今度こそ人生を成功させるのだ。前世の二の舞には絶対にならない。


 その時、突然画面から光が溢れだした。


「なっ、眩しっ……これは……」

「ま、まさか……! ついに出ましたよ、健也様!」

「えっ……」


 天使が興奮した声をあげる。画面からは、アニメで見る魔法陣のような図形が、空中に何層も投影される。理解が追い付かない。こんな演出は初めて見た。銀の光はSR、金の光はHR、虹の光はUR。なら、この演出は……。


LR(レジェンドレア)です! これはLRの確定演出です!」

「うへっぁ!?」


 驚きのあまり、思わず変な声が出てしまった。ついに来るか、LR! お目当てはピックアップされている【恩恵:成長加速(究極)】だ。成長率が1000倍になるなんて、チートにも程がある。それ以外の特典でも、世界レベルともなれば有用なのは間違いない。URの【才能:ボディランゲージ(極大)】のような外レアの可能性が無いわけでもないが。

 心臓が高鳴り、全身から冷汗が噴き出る。最高レアを引き当てたときの高揚感と緊張感でいっぱいになる。演出が終わるのを今か今かと待ち、瞬き一つしないで画面を凝視する。永遠のような一瞬、ついに演出は終了し、LRの特典が排出される。これが俺の運命、転生後の人生を支えてくれる特典。俺の人生はここから再出発するのだ。


「こ、これは……!」


 排出されたLRは――――





















「……い、……きろ! ……おい、クレカ!」

(……!)


 慣れ親しんだ声が微睡から覚醒させる。どうやら夢を見ていたようだ。ベッドの温もりが名残惜しいが、起きないわけにもいかない。何せ、ご主人様(・・・・)の命令なのだから。

 俺は体を起こし、上にかかったシーツを剥す。やけに肌寒いと感じたが、どうやら上着を着ずに寝たらしい。昨日の夜は暑かったから、いつの間にか脱ぎ捨ててしまったのだろう。体が弱いというのに、我ながら迂闊なことだ。風邪を引いただけでも悪化して酷いことになるのに。

 ふとご主人様……フランを見てみると、少年らしい幼さが残る顔が真っ赤に染まっていた。その視線は俺の体に注がれている。


『何じろじろ見てるんすか?』

「あっ!?」


 俺は身振り手振りを使って、フランに意志を伝える。課金の代償によって声を捧げた俺だが、【才能:ボディランゲージ(極大)】のお陰もあって意思疎通に不自由は無い。むしろ声以上に正確に意志や感情を伝えることができていると思う。腐ってもURということだろう。


「ご、ごめんクレカ! 今出ていくから!」

『……?』


 フランは慌てて部屋から飛び出して行った。なにもそこまで慌てなくてもいいだろうに。危うく転んでしまうところだったぞ。

 ご主人様も出ていったことだし、のんびりと身支度を進める。まだ寝ぼけていて、動く気分ではない。朝が苦手なのも代償を支払ったせいだ。当時は軽い代償だと思って簡単に支払っていたが、いざ実感すると中々に辛いものがある。転生ガチャを回したのも10年以上前の話だ。……あの時の自分を殴り飛ばしてやりたいと、何度思ったことか。




 転生した当初は本当に酷いものだった。結局出身に関する特典を引けなかったお陰で、俺は奴隷の子として生まれてきた。ただでさえ奴隷の子ということで扱いが悪いだろうに、数々の代償のお陰で扱いの悪さは加速した。片目が無かったり、声が出ないのはまだマシで、体に悪魔の刻印が刻まれていたのが最悪だった。悪魔の刻印とは悪魔に愛されたものの証であり、この世界において最も忌み嫌われるものである。「悪魔の刻印とかかっけぇ」と言う、中二病かぶれの頭の湧いた発想から簡単に課金してしまったが、完全に間違いだった。お陰で奴隷である母親の主からも嫌われ暴行を受ける日々。これで殺されなかったのは、母親が主に必死に頼み込み、俺のことを庇ったからだ。

 ハイエルフである母が奴隷になった理由はよく分からない。なにか壮大で悲惨な物語があったのかもしれない。最後まで母は、俺に理由を告げることは無かった。正直、奴隷になってこんな子供を産む羽目になった母に関しては申し訳ない気持ちでいっぱいだ。主は貴族であり、とても神経質でプライドの高い男だった。俺のような子を産んだせいで、主から酷い扱いをされていた。虐待されても仕方がない。しかし、母はこんな俺を見捨てることはなく、愛情を持って育ててくれた。今世の母は優しく、それでいて強い人だった。精神を強くする特典もあったが、それだけでは奴隷という境遇に耐えることができなかっただろう。彼女が母親だったことは、俺にとって最高の幸運だった。

 奴隷から救い出すことで、せめてもの恩返しをしようと考えた俺だったが、何もできないことに気が付いた。俺が自由に移動できるのは狭い牢屋のような部屋の中だけ。もちろん、脱出に使えそうな物など何もない。豊富にある魔力・魔法関係の特典も、使い方が分からなければ意味をなさなかった。母に聞いてみたが、俺に魔法を教えることは禁止されているらしく、聞きだすことは出来なかった。引き当てたLRも、奴隷である境遇では全く生かすことの出来ない意味がない特典だった。それでも何とかしようと、試行錯誤する日々が続いた。


 時が流れ、10年以上経ったある日、母親が死んだ。主の行き過ぎた折檻が原因だった。もともと俺を産んだことで扱いが悪くなっていた母だったが、それでも死ぬほどまでに痛めつけられたことは無かった。しかし、この頃主の家の財政が悪化しており、主の機嫌は最悪だった。ストレス解消のため、母親は必要以上に嬲られた。そのせいで、加減を誤ってしまったのだろう。

 母の死を、俺は他ならぬ主から聞かされた。俺は呆然として、奴の話を聞いていた。何か喚いていたようだが、まったく頭に入ってこなかった。母が死んだという事実を、受け止めることが出来なかった。しばらく経つと、いつの間にか主は消えていた。体に痛みを覚え、いつもの様に殴られたのだと思った。主の虐待が終わった後、優しく抱きしめてくれた母の姿が目に浮かぶ。もう、あの温もりを味わうことはできない。そう思うと、自然と涙があふれ出した。俺は声無き声をあげ、転生して初めて心の底から泣いた。


 その後、俺は奴隷商に売られた。俺を庇っていた母が死んだ以上殺されると思ったが、金に困っていた主は少しでも金を手に入れたかったのだろう。悪魔の刻印があるとはいえハイエルフ、それなりの金額で売れたらしい。しかし、悪魔の刻印効果は思いのほか凄かったらしく、全く買い手がつかなかった。母の死から立ち直ることができず、愛想が悪かったのも原因だろう。俺は奴隷商から奴隷商にたらい回しにされることになる。

 その頃の俺は絶望し、流されるだけの毎日を送っていた。扱いは主の奴隷だったころよりも酷く、食事も碌に取れないことがほとんどだった。人生に希望を持つことが出来ず、死ぬことすら考えていた。しかし、ここまで育ててくれた母の存在が、辛うじて俺を繋ぎ止めてくれていた。こんなところで死んでしまったら、母に申し訳なさすぎる。母の努力を無駄にしないためにも、俺は生きて、生きて、生き抜くべきだと。


 ご主人様と出会ったのは、まさにその頃だ。最初は貴族のお坊ちゃんが奴隷を買いに来たのだと思った。しっかりとした衣服を身に纏い、立ち振る舞いも平民のそれとは少し違っていたからだ。

しかし、お坊ちゃんと奴隷商の会話を聞いたところ、彼は冒険者であり仲間となる奴隷を探しているらしい。

 冒険者とは、ギルドによって認められ、ギルドが発行する依頼を請け負う職業だ。請け負う依頼は薬草採取、魔物討伐、護衛など多岐にわたるが、そのほとんどは腕っぷしが必要となるものばかりだ。そんな冒険者の中には、奴隷を仲間として利用する者もいる。同業者と協力するよりも分け前を独り占め出来たり、裏切られる心配が無いことが主な理由だろう。そう言った連中は奴隷の扱いが悪いことがほとんどだ。

 貴族のお坊ちゃんがどうして冒険者をやっているのか気になったが、すぐにどうでもよくなった。冒険者の仲間としての奴隷を欲している以上、俺を選ぶ可能性なんて皆無だと思ったからだ。ハイエルフとはいえ身体能力は低いわ、声は出ないわ、片目が無いわ、と挙げたらキリがないほどのゴミスペック。おまけにまだ子供で、代償として身長を捧げたお陰で見た目はかなりちっこい。見た目からも冒険の役に立たないことは明らかだ。

 すっかり興味を無くして寝転んでいると、いつの間にかお坊ちゃんが俺の牢屋の前まで来ていた。顔を上げて彼のことをよく見てみた。年は18くらいだろうか? 少年らしい幼さがある整った顔立ちで、男の俺でも思わずドキリと来てしまいそうなほど美しかった。さぞかし女にはモテたことだろう。彼は俺のことをじっと見つめ、何やら険しい表情を浮かべている。そんな顔もカッコイイのだからイケメンは反則だなと、馬鹿みたいなことを思っていた。


「すいません、彼女は……」

「ああお客様! そいつは曰く付きの商品でして……。体に様々な欠陥がありまして、さらに悪魔の刻印がついてるっておまけ付き。お客様の要望にはお答えできないかと。ハイエルフって触れ込みですが、本当かどうかは分かりません」

「ハイエルフ……」


 なんだか物凄く悩んでいる。もしかして、俺を買うか迷っているのだろうか。俺の体に同情心でも沸いたのか、それともハイエルフに惹かれたのか。ともかくこれはチャンスだった。ここを逃せば一生俺を買ってくれるような人間に出会えないかもしれない。そう思った俺は、得意のボディランゲージを使ってお坊ちゃんの気を引こうとした。


『ヘイ! そこのお坊ちゃん! 迷ってるなら、まずは買ってみてはいかがかな? 損はさせませんぜ!』

「!?」

「おいコラ! お客様の前で失礼な真似するな!」

『いってぇ! こいつ、殴りやがって……! ハゲ散らかせボケ!』

「な、こいつ……!」


 奴隷商は俺の腹に蹴りを入れてきた。痛みのあまり思わず蹲る。胃が刺激され、ほとんど空の中身を吐き出す。貴重なアピールタイムを邪魔するとは……。お前だって俺が売れたほうが嬉しいだろうに。


(ぐっ……)

「すいませんお客様。こいつ、声が出ないもんでして。だからか、身振り手振りだけはやけに上手くて、腹立つくらい意志が伝わるんですよ」

「…………」


 奴隷商は好き放題に俺の悪口を言い続ける。ああ、これはダメかもしれん。心優しい人間だとしても、ここまで欠陥が多い奴隷を引き取るだろうか。同情心だけでは、俺を買うなんて真似は出来ない。少なくとも俺はこんな奴隷は御免だ。俺以外にもっと役に立ちそうな奴隷はたくさんいる。ああ、なんだか凄い泣けてきた。どうして俺はあんなに代償を支払ってしまったのか。後悔の念が一気に襲って来る。片方しかない目から涙が流れ、目の前がぼやける。


「お客様、次の商品の紹介を……」

「この子を買います」

「はい?」

(…………えっ?)


 透き通るような声が、俺の耳に響いた。


「えっと、よろしいのですか……?」

「うん、いいよ。これだけあれば足りるかな?」

「は、はいっ! 十分すぎるほどです! お買い上げありがとうございます!」


 俺を余所に、話はどんどん進んでいく。牢屋の鍵が開かれ、お坊ちゃんが中に入ってくる。彼は俺の前で屈んで、手を差し伸べる。


「俺の名前はフラン。キミの名前はなんていうのかな? 俺の手に書いてくれる?」

『……ク、ォ、レ、ン、カ』


 美しくも男らしさを感じさせる手を指でなぞり、俺の名前を書いていく。クォレンカ、それが俺の名前だ。母が俺に付けてくれた大切な名前。


「クォレンカ……か。クレカって呼んでもいいかな?」

『く、クレカ……。別にいいけど……』


 母も俺のことをそう呼んでいた。この世界にはクレジットカードなんて無いわけで、クォレンカの愛称としては自然なのかもしれないが、いろいろと複雑だ。奴のせいでどれだけ課金しすぎたことか。


「クレカ、よく今日まで頑張ってきたね」

(あっ……)


 フランが俺を抱きしめた。俺の小さい体は、彼の体にすっぽり包まれてしまう。彼の温もりが全身に伝わってくる。久しく味わっていなかった人の温もり。先ほどまでとは違う涙が流れていく。フランはどうやら見た目だけでは無く、心もイケメンだったらしい。これは反則過ぎるのではないだろうか。男相手に不覚にもキュンとしてしまった。


「これからは俺がキミの主人だ。よろしくね、クレカ」

『……おう、ご主人様(フラン)


 そうしてフランは、俺のご主人様になったのだ。




「クレカ、そろそろ身支度は済んだか……ってうわぁ!? な、なんで裸なんだ!」

(……ん? 寝てたのか……)


 どうやら昔に思いを馳せているうちに、二度寝してしまったらしい。しかも着換えの途中だったようで、一糸纏わぬ裸体になっていた。寒すぎる。


『すまんフラン、寝ちゃってた。今着替えるからー』

「そ、そんな姿で動くなぁ!」

『いや、動かなきゃ意思表示できないんすけど。見てもらわなきゃ困る』

「~~~~!」


 フランに近づいて、アピールする。まったく、このご主人様はむっつり過ぎるのではないだろうか。たとえ俺の体が女だ(・・・・・・)としても反応しすぎだ。

 代償によって性別すらランダムになっていた俺は、見事に50%を外して女として生まれてきてしまったのだ。ある意味一番の失敗だったと思う。最悪性別が変わっても問題は無いという精神で、勢いで課金してしまったのだ。自分が女に生まれたのだと分かったときは、奴隷という境遇もあって、男にアレコレされるという最悪の未来を想像した。しかし、様々な代償のお陰で俺がそういう方面で虐げられることが無かったのは幸いだった。

 ハイエルフということで、俺の成長は遅い。フランとどっこいどっこいの年齢にも関わらず、見た目は10歳くらいの幼女だ。身長を代償にしたおかげもあって、かなりちっこい幼女である。HRの容貌上昇系の特典を得ているとはいえ、この体に反応するフランはロリコンなのではないかと疑っている。まあ見られるくらいは構わないが、恩人とはいえさすがに男と致すのは無理だ。


『セックスはNGですよ、ご主人様ー』

「そ、そそそんなことするわけないだろ! いいから早く着替えてくれ!」


 そう言い残し、再び部屋から出ていくフラン。少しのセクハラくらいは許してやっても良かったかもしれない。




 フランというご主人様は、かなりの当たりだった。俺のことを奴隷として扱うことは無く、対等な人間として扱ってくれたのだ。きちんとした衣服を買ってくれ、食事も同じものを食べさせてくれるし、ちゃんとした寝床も用意してくれる。衣食住、完璧に揃った待遇だ。フランへの好感度がぐんぐん上がっていった。

 肝心の冒険者家業の手伝いのほうは、意外に上手く行った。最初は俺に手伝わせるつもりは無かったらしいが、さすがに何もしないで世話になるのは心苦しかった。フランの力になるため、魔法の使い方をフランに教わろうとした。しかし、魔法というのは基本口での詠唱が必要で、声が出せない俺ではそもそも魔法を使えないという事実が発覚。しかし、ここで役に立ったのがまさかのボディランゲージである。体の動きを使って言葉の代わりとするボディランゲージは、詠唱を体の動きで代用することを可能とした。腐ってもURだったのだ。特典のお陰でグングン魔法使いとしての才能を開花させ、ご主人様の役に立つことができるようになった。

 フラン自身もかなりの才能持ちで、冒険者としてあっという間に強くなっていった。最近ではそこそこ名が知れるようになり、有望株として注目を集め始めた。イケメンで、性格もよくて、強くて……もう完璧すぎる。こいつの前世は転生ガチャでよっぽどいい結果を引き当てたに違いない。


 フランに買われたことは、俺にとって実に幸運なことだった。今も彼の奴隷であることに変わりはないが、そのことに不満は無い。奴隷という身分のほうが何かと都合がいいこともあるからだ。それに、フランに恩を返すまでは離れるつもりは無い。こんな俺を救ってくれた心優しい少年に、本気で報いたいと思ったのだ。




 フランについて考えているうちに、身支度を終えた。今度は途中で眠ることは無かった。女児の服を着ることにはいまだに慣れない。フランのところに来る前までは、男女差も何もないようなボロボロの服しか着せてもらえなかった。今のご主人様は律儀にも、俺に似合う可愛い服を買ってくるのだ。100%善意の好意だから、さすがに嫌とも言えない。服はまだいいが、女物の下着を身に着けるのはさすがに心に来るものがある。


 準備も終わり、部屋から出ようとしたときだった。大切な日課をまだしていないことに気が付いた。俺は手に、見慣れた薄い長方形の物体を出現させる。手に馴染む程よい大きさと、見た目に似合わぬ重量感。この世界に似つかわしくない、テクノロジーを感じさせる見た目。

そう……スマートフォン(・・・・・・・)だ。

 これこそ、俺が転生ガチャで引き当ててしまったLR(レジェンドレア)の特典。【恩恵:ボーナスガチャ(究極)】だ。その名の通りガチャを回すことで、アイテムから才能まで様々なものを手に入れることができる。LRだけあって、低レアリティのガチャと比べてガチャの種類や排出されるボーナスが豊富だ。課金要素もあるが、転生ガチャと違い課金の必要なのは実際の金だ。金さえあればいくらでも回すことができる。しかし、奴隷である俺に金を手に入れる機会など皆無。一週間欠かさずスマホを起動することで、ログインボーナスの石を貰うこともできるが、それだけでは単発すら十分に回すことが出来ない。故に、ご主人様に買われるまでは日の目を見ることは無かった。


 死ぬ前も、死んでからも、転生してからも、俺はガチャから逃げられなかったらしい。ガチャで失敗し続け、さすがの俺も反省している。封印しようかと思ったが、排出されるボーナスが役に立つものであるのも事実。転生ガチャよりかなり良心的であり、高レアは出にくいが、ほどほどに役立つ低レアはかなり手に入る。ご主人様の高性能な新しい武器も、このガチャで手に入れることが出来た。課金に使うお金は、依頼で稼いだ際の分け前であり、フランが自由に使っていいと言ってくれるものである。奴隷にもちゃんと分け前をくれるご主人様大好き。

 元々ガチャが悪いわけでは無く、使う人間の心が弱いから悪いのだ。自制心を持ち、適度な課金ならば何も問題は無いのだ。単に俺が屑過ぎるのが問題だったのだ。だからこそ、今世ではガチャを正しく使いこなす。課金のし過ぎで身を崩すのはもうごめんだ。微課金で、ほどほどの結果で満足しよう。こんな俺を育ててくれた母に、誇れる自分でありたいから――――





















(……なにっ!? 期間限定で性転換薬がピックアップ!?)


 ……お母さん、今回だけはちょっと頑張ります。今回だけ。


ちなみに主人公は気が付いていませんが、ハイエルフと容貌の特典の相乗効果でかなりの美少女です。フランが幼女相手にドギマギしても仕方ないレベルです。

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― 新着の感想 ―
[一言] クズすぎる主人公が最悪の結末を迎える「読者視点のカタルシス」かと思いきや、教訓的な終わり方ですね。 この2人が冒険者として活躍する長編を読んでみたくなりました。
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