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第八話 イングリット隊

 騎士団の前線基地に到着した。


 そこでは、騎士たちと魔物が戦闘を繰り広げていた。


 激しい剣戟の音が響き、そこかしこで天幕や資材が燃え、黒煙を上げている。


 俺は迷わず戦場に飛び込んだ。


「グルアァァァァッ!」


 さっそく一匹の魔物が襲いかかってくる。

 犬みたいな頭部で、粗雑な鎧に剣と盾を装備した人型の魔物だ。

 もしかして、コボルトってやつか?


 いやでもコボルトにしてはでかいかも。身長が二メートルぐらいある。

 うろ覚えな知識だけど、コボルトはもっと小さかったような……一メートルとか。


 まぁ、いいや。コボルトで。


 どうやら前線基地を襲撃している魔物は、このコボルトとゴブリンで構成されているっぽい。


「シネェェェェッ!」


「よっと」


 コボルトの剣を腕で軽く受け止めた。


「アガッ!?」


 コボルトが動揺する。その隙に、俺は眠りに入った。

 スキル〈眠る強者〉と〈シャロウ・スリープ〉が発動する。


「オラァ!」


 俺は動揺するコボルトの顔面を殴りつけた。

 コボルトが吹っ飛んでいく。


 それから遠くのほうで、地面にグシャリと落下した。

 ……よし、リーゼさんを探そう。


 と、思ったら別の魔物が襲ってきた!


「ああもう、うぜぇ!」


 俺は襲い来る魔物を倒しながら、戦場をうろつく。


 しかし、一向にリーゼさんは見つからなかった。


「う、うわあぁぁぁぁっ!」


 いきなり背後で絶叫が上がる。


 振り向くと、そこではひとりの騎士がゴブリンに追い詰められていた。

 地面に尻もちをついた騎士に、ゴブリンが短剣を突き立てようとする。


 俺は近くに転がっていた槍を手に取り、それをゴブリンに向かって投擲した。


 ドシュッ。


 見事に命中。頭に槍が刺さったゴブリンは、ぐらりと地面に倒れる。


「おい、平気か?」


 騎士に近づいて、俺は声をかけた。


「ひ、ひゃあぁぁぁぁ!」


 俺を見た騎士が、情けない悲鳴を上げる。


 なんでだよ。助けたのに失礼なやつだ。


「落ち着け、俺は味方だ」


「ひ、光る怪物だあぁぁぁぁっ!」


 聞いちゃいねー……って、そうか。

 スキル発動中、俺は全身から光を放ってるんだっけ。


 ……え、待てよ。もしかして俺、宿屋で寝てる間も光っていたんだろうか?

 そうだとしたら、めっちゃ不気味じゃん……。

 ともかく……いきなり全身から謎の光を出しているようやつが現れたら、たしかにビビるかもしれない。


「ほら、安心しろ。人間だって」


 俺はスキルを解除――つまりは眠りから覚めて――できるだけ穏やかな口調で騎士に手を差し伸べた。


「……ほ、本当に人間なのか?」


「ああ。ほら、立てよ」


 警戒しながらも、騎士は俺の手を取り立ち上がる。


「……すまない、礼を言う」


「いいよ。それよりちょっと訊きたいんだけど」


「なんだ?」


「リーゼさんって騎士がどこにいるか知らないか?」


「リーゼ……?」


 騎士はしばし考え込む。


 ややあってから、なにか思い当たったのか「ああ」と声を出した。


「それはもしや、アンネリーゼ様のことか?」


「アンネリーゼ……様?」


「ああ、たしか『リーゼ』という愛称で呼ばれていたように記憶している」


 よくわからんが、リーゼさんは『様』と付けられるような立場の人だったのか。


 もしかしたら騎士団でそれなりの地位にいるとか?

 それにしちゃ、装備が貧相だったような気もするけど。

 今、俺と話している騎士と、そう変わらない感じだったように思う。


「アンネリーゼ様は、王都から派遣されたイングリット隊の隊員なのだ。今ごろ、イングリット隊はプリムス砦に攻撃を仕掛けているはずだ。くっ……基地の留守を預かった我々は、この体たらく……!」


 騎士が悔しそうに歯嚙みする。


 たしかに、戦況は騎士団が不利に見えるなぁ。


 仕方がない。サクッと助けるか。



 俺はスキルを駆使し、魔物の軍勢をすべて蹴散らした。


「し、信じられん……」


 最初に助けた騎士が、呆然と呟く。

 他の騎士たちも、皆一様に呆気にとられている様子だ。


「貴殿はいったい、何者なのだ……」


「ただの通りすがりだよ」


「そんなバカな……っ」


「そんなことより、プリムス砦ってとこには、どうやって行けばいい?」


「なっ、う、うむ……ここから南下すれば、やがて辿り着くだろう」


 よし、さっさとリーゼさんに会いに行こう。


「サンキュー、んじゃ俺はこれで」


「さ、さんきゅう……なんだそれは?」


 騎士が首を傾げる。

 そのとき不意に、彼の足元に転がっていた一匹のコボルトが、もぞりと動いた。


「ククククッ! プリムス砦ニハ、ドラゴンガ配備サレテ……イルノダ! 貴様ラノ仲間ハ……モウオワリダ!」


 それだけ叫んだ後、コボルトは絶命した。


「ば、バカな……ドラゴンだと……」


 騎士たちがどよめく。


「ドラゴンって、そんなにヤバイの?」


「うむ……イングリット隊は手練の集まりだと聞くが……さすがにドラゴンともなれば……無事では済まないかもしれん……」


 騎士は沈痛な面持ちを浮かべている。

 どうやらかなりヤバそうだ。

 たしかにドラゴンといえば、だいたい強敵ってイメージだもんな。


 こうしちゃいられない。リーゼさんが心配だ!



      ◆



 全力で駆け、俺はプリムス砦へとやってきた。

 高い壁に囲まれた、なかなか堅牢そうな砦だ。


「うわっ……」


 砦の外では、騎士や魔物たちが死屍累々の様相を呈している。

 なるべく視界に捉えないよう、俺は門を抜けて砦の内部へと進んだ。


 砦の内部もまた、凄惨な有様だった。

 石畳に倒れ伏す、大勢の騎士たち。


 しっかりと両足で立っているのは——たったの三人だけだった。


 ひとりは、他の騎士たちよりも立派な鎧を身につけた女騎士だ。

 紫色の、いわゆるショートボブヘアで、麗人といった雰囲気。

 右手に剣を持ち、左手には盾を装備している。


 もうひとりは、長槍を携えた赤髪の女騎士だ。ゆるくウェーブがかった髪を、サイドテールにしている。

 燃えるように赤い瞳に、なんとなくだが勝気そうな印象を抱いた。


 そして三人目は——


「リーゼさん!」


 俺の声に反応し、三人の女騎士が一斉にこちらを振り向いた。


「えっ、シロウ!? どうしてここに!?」


「誰よ、あれ?」


「何者だ……?」


 リーゼさん、赤髪、ショートボブが、それぞれ三者三様の反応を見せる。


 あれ……?


 よく見ると、彼女たちのそばには傷つき倒れる小さなドラゴンの姿があった。

 小さな、といっても全長十メートルぐらいはあるけど。


 もしかしてもう、ドラゴン倒しちゃった感じですか?


 そう思っていると、なにやらリーゼさんがこちらに向かって手を振ってきた。

 しかも、なんかしきりに叫んでる。

 なんだろ、そんなに俺との再会が嬉しいとかかな?


 いや、ないない。わかってる。


「シロウ、後ろ後ろ!」


 は? シ○ラ後ろ後ろ?

 まさかあのシ○ラは、遠く異世界エリシアにまでその名を馳せているというのか?

 そんなアホな。


「なんだってんだよ?」


 俺は背後を振り返って——


『そいつ』と目が合った。


 鈍く光る鱗に覆われた爬虫類のような身体、石の床を踏む四本脚には鋭利な爪が生えている。

『そいつ』は怒りをたたえた金色の双眸でこちらを睨みつけ、


 グルルルル……


 立派な牙の並んだ口から低い唸り声を発した。


「ド、ドラゴン?」


 まるで俺の疑問に返事をするかのように『そいつ』——ドラゴンは翼を広げ、咆哮を放った。

09/15 読者様にご指摘いただいた点について、加筆・修正を行ないました。

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