第五話 冒険するのに資格がいるっておかしくない?
日が落ちてしまった。
リベルタスの街にはもう、すっかり夜の帳が降りている。
早くなんとかして金を稼ぐ方法を見つけないとな。
ゲームだったら、魔物を倒せば簡単に金が手に入るけど……
俺が倒した魔物は、金なんて持っていなかったっぽいしな。
どうせなら、武器とか回収しとけばよかったかも。
それを売却すれば、いくらかは稼げたかもしれない。
――今からでも狩りに行くか?
……うーん、でもなぁ。
そんなんじゃ、一時的なその場しのぎにしかならないしな……
この異世界で生きていくなら、もっとちゃんとした収入源が必要不可欠だ。
「うーん……」
思案を続けながら歩く俺は、いつの間にか街の中央広場にやってきていた。
広場には、様々な露店が出ている。
といっても、ほとんど店じまいの準備をしているみたいだが。
俺は果実を売っている露店の前に立ち、商品を眺める。
りんごっぽい果物が、一玉30フルトするらしい。
……高いのか安いのかもわからん。
エリシアの貨幣価値って、どんな感じなんだろう?
店と客のやり取りを見ていてわかったのは、紙幣と硬貨が存在するってことぐらいだ。
「さっきの宿代が500フルトで、この果物が30フルト……無理やり日本の物価に当てはめて……」
1フルトあたり、だいたい10円ぐらいか?
まぁ、もちろん適当だし正確でもないが。
「おい兄ちゃん、知ってるか?」
果実屋のおっちゃんが、いきなり俺に声をかけてきた。
「なにを?」
「街道に出没してた危険な魔物をよ、ギルドの冒険者が退治したんだとよ。きっとかなりの報酬をもらったんだよなぁ……羨ましいぜ、まったく」
「へー……って」
ギルド? 冒険者? 報酬?
「それだ!」
「うおっ、なんだよ!」
俺は思わず快哉をあげる。
おっちゃんがビクッてなったが、それはどうでもいい。
この世界には、冒険者が存在するようだ。
そういや、宿屋のおばちゃんも言ってたよな。冒険者にツケてるとかなんとか。
魔物の討伐で報酬がもらえるっていうなら、冒険者になればいいんじゃないか。
よし、そうと決まればギルドとやらを探そう!
いや待てよ、たしか街の入口付近にそれっぽいのがあったような……?
善は急げ。俺は冒険者になるべくギルドへと向かって走り出した。
◆
「俺を冒険者にしてください!」
「んにゃぁぁぁぁっ!?」
やけに瀟洒なギルドの建物に飛び込み、受付へ一直線。
俺は机にバンッと両手をつき、そう言い放った。
受付のお姉さん――なんと猫耳の生えた獣人だ。萌える――が、飛び上がらんばかりに仰天する。
「い、いきなりなんなのにゃ!」
「なっ、なにぃっ! 猫耳なうえに語尾に『にゃ』だって!? あざとい! あざとすぎるよお姉さん!」
「誰かぁぁぁぁっ! 変なやつが来たにゃぁぁぁぁっ!」
はっ、しまった。つい興奮してしまった。
いったん落ち着こう。
……えーと、なんだっけ。
あ、冒険者になるんだった。
「冒険者になりたいんだけども……って、あれいない!」
猫耳受付嬢は机の下に隠れてしまっていた。
「おーい、お姉さん、なにもしないから出ておいで」
「その台詞は危ないやつにゃ!」
「いや大丈夫だって。まじで。冒険者になりたいだけなんだ」
猫耳受付嬢はおっかなびっくりといった様子で、のろのろ這い上がってくる。
悪いことしたな。なんか涙目だし。
「じゅ、受験の申し込みかにゃ?」
「じゅけん?」
「なんだ……知らないのにゃ? 冒険者になるには、資格がいるんにゃ」
「う、うそ……」
「ウソじゃないにゃ。昔は登録書さえ書けば、誰でも冒険者になれたのにゃ。けれど今のエリシアは危険でいっぱい。主に魔族のせいでにゃ。だから冒険者になるには、厳しい試験を突破する必要があるのにゃ」
えぇ……冒険するのに資格がいるっておかしいだろ。
だんだん、魔族とかいうやつらに腹が立ってきたぞ……