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第四話 結局、異世界でも金がすべて

 よさげな宿を探しがてら、俺は軽くリベルタスの街を見て回ることにした。


 というわけで、とりあえず大通りらしきところを歩いてみる。


 さすがファンタジー世界だけあって、街には様々な人種が行き交っている。


 特に俺が目を引かれたのは、獣耳や尻尾の生えた獣人たちだ。いかにも異世界っぽい。


「というか触りたい。モフモフしたい」


 なんて邪念を全開にして歩いていたら、周囲の人から奇異な目で見られた。

 いや、この学ランのせいもあると思うけど。


 このリベルタスは、オリエンス王国内で三番目ぐらいに大きな街らしい。

 王国の南方に位置していて、商業が盛んらしい。あと、闘技場もある。


 と、手元にある街案内のチラシに書いてあった。


 今さらだが……なんで俺、この街案内を読めてんだ?


 当然だけど、チラシは異世界の文字で書かれてある。


 アルファベットに似ているような気もするが、見たこともない文字だ。


 でも、理解できる。普通に読める。


 そういや……よく考えたら、リーゼさんと会話できたのもおかしいよな。


 まぁ、そこは転生時に色々と上手い具合にどうにかなっているんだろう。きっと。


「そういうところだけは、あのボクっ娘女神に感謝だな」


 他に文句の付けどころが多すぎるのだが。


「はぁ……」


 ため息を落としながら、俺はリベルタスの街を歩く。


 商業が盛んというだけあって、大通りには様々な店が軒を連ねていた。


 武具屋、道具屋、食材屋……


 お、錬金術の店なんてのもある。ちょっと気になるなぁ。


 でも今は閉まっているみたいだ。残念。


 と。そこで不意に、俺の腹が盛大に鳴った。


「そういや、お腹空いたな……」


 こっちに転生してから、まだなにも食べてない。水すら飲んでない。


「見物はここまでにして、さっさと宿屋探すか」


 と、口にしたそばから発見してしまった。店先で足を止める。


 なかなか立派な店構えの宿屋だ。おあつらえ向きに食事もできるっぽい。


 店の名前は――


『緑風の乙女』というらしい。


 おお、そこはとなくなにかを期待できそうな名前だ。


 俺は意気揚々と宿の中へ入った。


「いらっしゃい!」


「……」


 そして速攻で期待はしぼんだ。


 俺を出迎えてくれたのは『緑風の乙女』というよりは、『暖風の熟女』……ありていに言ってしまえば、恰幅のいいおばちゃんだった。


「兄ちゃん、お泊まりかい?」


 やたら通る快活な声で、おばちゃんが訊いてくる。


「あ、はい……えと、できれば食事もしたいんだけど」


「あいよ! うちは食事付きで一晩500フルトだよ! もちろん料金前払いだからね!」


「――え?」


 おばさんの台詞に、俺は固まった。


 なんてこった。


 どうしてこんな大事なことを今まで失念していたんだ。


 俺は今、この異世界エリシアのお金を所持していない。


 完全なる無一文なのだ。


「どうしたんだい兄ちゃん。泊まるのかい、やめんのかい」


「あ、えーとあの……ツケとかは?」


 その刹那、おばちゃんの表情が一変した。


「ツケだってぇ?」


「ひぇっ……」


 おばちゃんの鬼のような形相と地の底から響くがごとき声音に、俺の口から小さな悲鳴が漏れる。


 怖すぎだろ。別のもんも漏らすぞ。


「冗談じゃないよ! うちはロクでもない冒険者どもにも散々ツケがたまってんだ! 前払いできないってんなら一昨日きな!」



 宿を追い出されてしまった。


 困ったな。くそ。


 異世界でも、やっぱり金がすべてか。


 どうにかして稼がないと。


 世知辛いなぁ……。

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