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エピローグ とりあえず寝る

 テルティウス平原の戦いが終わってから、一週間が経った。


 副師団長、師団長、そして大半の戦力を失った魔王軍第四師団は、本拠地に攻め込んだイングリット隊によって殲滅された。


 これでリベルタス領から、当面の脅威は去ったらしい。


 あ、ちなみにリベルタス領というのは、俺が異世界に転生してから行動していた地域一帯のことだ。

 リベルタスの街を中心として、領主が治めているとかなんとか。

 最近になって教えてもらったことだけど。


 それはさておき。


 俺と義妹、そしてイングリット隊のみんなは、まだセクンドゥムに滞在している。


 色々と後始末があるようで、イングさんをはじめ騎士の人たちは忙しそうにしていた。


 いや、俺もできることは手伝ってる。一応、だけど。

 今はたまたま、やることがなくて、宿屋の一階でボーッとしているだけにすぎない。マジで。


 ……そういやひとつ、気がかりなことがある。

 メルジーネのことだ。


 どうしてあいつは、第四師団に戻らなかったんだろう?

 復讐するなんていうから、本拠地にもどって、またすぐ攻めてくるかもとか思っていたんだけど……


「お兄ちゃん、ぼけっとしてどうかしたの?」


 考え事をしている俺の眼前で、義妹が手をひらひらさせる。


「いや……なんでもないよ、エル」


「そう? ね、ね、なにかたべてもいい?」


「ああ、昼にはちょっと早いけど」


「わーい」


 片手を上げて義妹……エルは、ウェイトレスのお姉さんに料理を注文する。


 エルというのは、義妹の名前だ。


 正確にはエデルトルート。

 俺は短くエルって呼んでるけど。


 メルジーネのやつは、どうやらエルに名前すら与えてなかったらしい。


 そこで、俺たちで名前を付けることになったのだ。


 エルは俺に付けて欲しかったみたいだけど、俺のセンスじゃ微妙な感じになりそうなので辞退した。


 エデルトルートという名前を考えたのは、リーゼである。


 エル自身もこの名前を気に入ったようで、かなり喜んでいた。


 そんなエルは、俺と行動をともにすることとなった。

 エル自身がそう望んで、決めたことだ。俺もそれでいいと思ってる。


「……お兄ちゃん、やっぱりぼけっとしてる」


 注文した料理を食べながら、エルが俺を見据えてくる。


「そうかな?」


「うん。いつもぼけっとしてるけど、いつもよりぼけっとしてる」


「お、おう?」


 そうか。俺はいつもぼけっとしてる風に見えてるのか。


 まぁ、強く否定はできないけども。


「たしかにあんたはなんかこう、ぬぼーっとしてるわよね」


 そんな失礼なことを口にしながら、赤髪の女性がドカッと左隣の椅子に腰を下ろしてきた。


「……え、どちら様ですか?」


「レオナよ!」


「ああ、なんだ」


「……ひどくない?」


 なんか私服みたいだし、髪もおろしてるしで、一瞬わからなかった。


「ふむ……たしかにシロウはやや注意力が足りないかもしれん」


 エルの横に座ったのは、紫色の髪をしたグラマーな女性――イングさんだ。


 いつかのセクンドゥム潜入に使ったパンツスタイルである。


「リーゼもそう思うわよね?」


 と、レオナは俺の右隣に座ったリーゼに水を向ける。


「うーん、どうでしょう?」


 そんなどっかのミスターみたいな返事をしつつ、リーゼはエルの口についた食べカスを拭いてやっている。


 ちなみにリーゼだけはなぜか騎士姿だ。


「……どうしたんですか、三人お揃いで」


 イングさん、レオナ、リーゼが目を見合わせる。


 それからひとつ頷くと、急に真剣な表情で居住まいを正した。


 なんだなんだ、なんかこっちまで身構えちまうぞ。


「実はなシロウ、我らイングリット隊……そしてリーゼ……いや、アンネリーゼ姫に王都から帰還命令がきてな」


 ……ああ、そういえばイングさんたちって王都から派遣されてきた精鋭部隊なんだっけ。


「魔王軍第四師団の討伐がわたしたちの……いいえ、『アンネリーゼ姫』の任務でしたから」


 リーゼが少し申し訳なさげに言う。


「どゆこと?」


「リーゼはね、王都の連中に無茶振りされたのよ。政治に口出しするなら、実力を示してみろとかなんとか言って」


「それが、魔王軍第四師団を討伐しろってことだったわけか?」


 なんだよそれ……虐めかよ。


「……無茶振りというか、厄介払いしたかったのでしょう。色々と口うるさい小娘を」


 どこか自嘲気味に、リーゼが笑う。


「まぁ、そんなリーゼをサポートするのが私たちイングリット隊だったというわけだ」


「ふん。王都のやつらも、これでリーゼに文句は言えないでしょ」


「……シロウ、貴方には本当に感謝しています。シロウ抜きでは絶対に、この任務を成し遂げることは不可能でした」


 リーゼが頭を下げてくる。


「やめてくれよ、そんな畏まって」


 なんというか、据わりが悪い。


「ところでだ、シロウ……」


「はい?」


 イングさんが身を乗り出す。


「どうだろう、今後も我々にシロウの力を貸してはくれないだろうか?」


 ……改まってなにを言い出すのかと思えば。


 第四師団……メルジーネは倒したけど、まだエリシアが救われたわけじゃない。

 魔王軍はまだ残ってる。

 この世界は、まだ滅亡の危機を回避していない。


 つまり俺の目標である異世界スローライフは、まだまだ実現できそうにないということだ。


 なら、俺がやることは変わらない。


「もちろん、魔王軍を倒すまで力を貸しますよ。俺なんかでよければ」


 俺の返答を固唾を呑んで見守っていたイングさん、レオナ、リーゼが安堵の表情を浮かべる。


「そうか。ありがとうシロウ」


「ま、まぁ、いいんじゃない?」


「シロウ、これからもよろしくお願いしますね」


 ……この三人とこれでお別れってのは嫌だっていうのも、多少あるけど。


 いや、本当はそれが大部分かもしれない。


「さて、出立は明日だ。各自、準備を怠るなよ」


 腕を組みながら、イングさんが告げる。


 明日って、ずいぶんと急だな。


「シロウ、王都への道のりは長いです。その……よかったら、わたしと一緒に準備をしませんか?」


 リーゼが控え目に俺の肩に触れながら、そう誘ってきてくれた。


「あ、あー、そうね。それ、あたしも付き合うわ」


 なぜかレオナが割って入ってくる。


「いいえ、わたしとシロウで十分ですから。レオナは……ほら、エルちゃんの面倒を見てあげてください」


「いやいや、その子あたしに懐いてないし。リーゼのほうが適任でしょ」


「駄目だよ。お兄ちゃんはエルと遊ぶんだから」


 今まで大人しくしていたエルが、抗議の声を上げる。


「……おいシロウ、どうする気だ?」


 イングさんの問いに、俺はこう答えた。


「とりあえず、俺は寝ます」


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