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第三話 無理っぽいので街を目指すことにした

「あ、あの……シロウ、大丈夫ですか?」


 リーゼさんが碧い瞳で俺を覗き込んでくる。


 どうも心配してくれているようだ、ありがたい。


「平気です。なんでもありませんよ、なははー」


 まったく平気じゃないが、ウジウジしていたってしょうがない。


 なんとなく心の中で女神に呼びかけてみたが、無駄だった。

 クーリングオフはできないらしい。わかってたけど。


「あのシロウ……少し、訊いてもいいか迷ったのですが」


 ん? なにやらリーゼさんが身体をもじもじと揺らし、俺をちらちらとうかがっている。


 はっ、まさかこれはあれか!?


「今、付き合っている女性はいるんですか?」的な質問!?


 そんな出会ったばっかりで……やっぱり、危機を救ったのが効いたのかな?

 なんという吊り橋効果だ。


 すごいな異世界……超進んでるな。


「リーゼさん」


「はい?」


「俺なら絶賛フリーですよ」


「……え?」


 首を傾げるリーゼさん。


 うん、ですよね。そんなすぐにフラグが立つわけないですよね。知ってた。


「すいません、今のは気にしないでください」


「はぁ、えぇと……あの、それでシロウ」


「はい」


「貴方は……何者なんですか?」


 おおう。いきなり核心を突いてきたぞ。


「シロウ、貴方は命の恩人です。そんな貴方を疑うようなことはしたくないのですが……でも、あの不可思議な力は……あれはいったい?」


 力ってのは、チートスキル〈眠る強者〉のことだろう。


「あれ? リーゼさん、よく俺がチート……じゃなくて、なにか力を使ったってわかりましたね」


「一目瞭然ですよ。だってあのとき、貴方の全身が光っていたんですから」


「あー、なるほど」


 ぜんぜん気づかなかった。


 光……なんか身体から、オーラ的なやつでも放っていたんだろうか。


「….…貴方が倒したレッドキャップは、本来なら手強い魔物です」


 ふーん、そうなのか。

 たしかにゴブリンの上位種って感じだったけど。


「それをシロウは、一瞬で倒してしまった。それも素手で。しかもその……眠りながら?」


 最後の部分は、ちょっと自信なさげに言うリーゼさん。そりゃそうだ。


 寝ながら手強い魔物を倒す――


 そんなバカみたいな光景、まず自分の目を疑う。


「シロウ、貴方は本当に……ただの人間なのですか?」


「ええと……」


 俺は、どうしたものかと逡巡する。


 もういっそ、正直に話してしまおうかな。

 信じてもらえるかどうかはわからないけど。


 そう思っていると。


「……ごめんなさい」


 リーゼさんが俺に向かって頭を下げる。


「えっ」


「不躾でした。いきなりその『ただの人間か』だなんて……どうか許してください」


「い、いやいや、そんな! 気にしてないんで、頭上げてくださいって!」


「ありがとう……シロウはいい人だ。そんな貴方を疑うなんて、私がどうかしていました。貴方のような人が、『魔族』なんかであるはずがないのに」


 おいおい……会ったばかりなのに、すごい信頼度だな。


 リーゼさんてちょっと……いや、かなりお人好しなのかも。

 大丈夫かな。なんか変な物とか買わされてそう。


 それはともかく……。


「あの、魔族って?」


「エリシアに侵攻してきた魔王軍のことですよ。その、魔族の中には、シロウのような不可思議な力を使う者もいるという情報があったので……」


 なるほど。どうやら俺には、魔族疑惑が生じていたらしい。


 しかし、俺みたいな力を使う魔族か。

 なんかちょっと気になるな。


「あっ、そうだ、そろそろ前線基地へもどらないと……」


 リーゼさんが思い出したように声を上げる。


「そっか、リーゼさんは騎士ですもんね」


 きっと前線基地ってのを拠点に、魔王軍と戦っているんだろう。


 ところでふと疑問に思ったのだが……


「リーゼさんは、ひとりでなにやってたんですか? こんな草原で」


「えっ!? えーと、そのー、ですね……」


 なにやら歯切れの悪いリーゼさん。


「実はその……魔物の討伐中に、仲間とはぐれてしまって……幸い、基地までの道はわかってるんです。それでその、もどっている最中に、あのゴブリンたちと遭遇してしまって」


 そして俺とも遭遇してしまったわけか。


 どうでもいいけど、やっぱりあの魔物、ゴブリンて名称なんだな。


「シロウは、これからどこへ?」


「うーん」


 俺は少し考える。


 本当ならどこか平和で小さな村とかにでも行って、静かに暮らしたいところなのだが。


 どうも話を聞くかぎりじゃ、そういうわけにもいかなさそうなんだよなぁ。


 とりあえず、どこか大きな街に行って、情報を集めたりしたい。


「近くに街ってあります?」


「ええ、この草原を抜けた先に、リベルタスという街がありますよ」


「んじゃ、とりあえずそこに向かおうと思います」


 リーゼさんと別れた俺は、リベルタスという街を目指すことになった。



      ◆



 あっさりとリベルタスに着いてしまった。


 道中、魔物と遭遇することもなく、無事に到着である。


 正直、ちょっと拍子抜けしたのは内緒だ。


 リーゼさんが教えてくれた通り、草原を抜けて街道に出れば道に迷うことはなかった。


 なぜなら遠くからでも、はっきりと目的地が視認できたから。


 リベルタスの街は、半透明のドームのようなもので覆われているのだ。


 めっちゃ目立つ。迷うほうが難しい。


 半透明のドームは、どうも街を外敵から守るための結界ってやつらしい。


 どういう理屈か、邪悪な存在を通さないそうだ。

 魔物とか魔族とか、そういう存在から街を守ってくれているとかなんとか。

 それもリーゼさんに教わった。


「はぁ……リーゼさんかわいかったなぁ……」


 別れ際、「助けてもらったお礼がしたいから」と再会を約束してくれたが……


「早くも会いたいなぁ……あーあ……とりあえず、街に入るか」


 もう日が暮れはじめている。とりあえず街で宿屋的なものを探そう。

 たぶん、あるだろ。というか、なかったら困る。


 半透明の膜みたいな結界を通り抜け、俺は異世界初となる街へと足を踏み入れた。

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