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第三十六話 ライ・トゥ・ミー

 頭の中に、文章が浮かび上がる。


〈ライ・トゥ・ミー〉

 こちらの質問に対して嘘をついたモノは、全身が黄色く光って見える。

 ただし、同じ相手には一日に一度しか使えない。


 どうやら新たなチートスキルが発現してくれたらしい。

 しかも今の状況に、このうえなくぴったりな能力だ。


 毎回毎回、どうにも都合が良すぎる気がするけど……。

 もしかしたら女神のやつが、俺を監視してるとか?


 ……普通にありそうで嫌だな。

 まぁ、とりあえず今はそんなことよりも新スキルだ。


 要は相手の嘘を見破る力みたいだけど……本当に効果があるんだろうか。

 ……ちょっと試してみよう。


「なぁ、レオナ」


「ん、なによ?」


 適当に声をかけてみたものの、どんな質問をすればいいか考えてなかった。


 うーん……。


「今から俺が質問することに、全部『はい』で答えてくれ」


「は? いきなりなによ……というか、そんなことしている場合?」


「頼む、重要なことなんだ」


「……わかったわよ」


 難しい表情で、レオナが了承する。


 よし、それじゃあ質問してみよう。


「……レオナ」


「な、なによ……」


 ぐっ、と身構えるレオナ。


「貴女は巨乳ですか?」


「――って、なによその質問!?」


「いいから答えてくれ、きわめて重要なことなんだ」


「真剣な表情でなにいってんのよ!? 喧嘩売ってんの!?」


 さすがにデリカシーのない質問内容だったかもしれない。猛省しよう。


「わかったわかった。じゃあ、質問を変えるよ」


「なんでそんな、あたしが『しょうがないやつ』みたいな感じなわけ?」


 えーと、新しい質問は……


「……レオナは、俺のことが好きですか?」


「――なっ」


 レオナは絶句し、顔を赤く染め上げた。

 目を逸らし、唇を微かに動かす。


「は、はい……」


 ――あれ、なんにも起こらないな。


 ということは……どういうことだ?


「な、なによ、なんだったの?」


「いや、すまん。なんか俺の思ってたのと違う反応で」


 俺の質問に答えたレオナの全身が、黄色く光るとばかり思っていたんだが……

 むしろ顔が真っ赤になってる。


 ……あ。もしかしてレオナは、俺のこと嫌いじゃないのかな?

 さんざんイジッたりしてるし、ちょっと嫌われてるかもなぁと思ってたんだけど……。


 それはそれで嬉しい発見ではあるけど、これじゃあ〈ライ・トゥ・ミー〉の効力が確たるものなのか、いまいち判然としない。

 それにたぶんもう、レオナでは試せないよな。次は他の人でやってみないと。


「イングさん」


「なんだ?」


「イングさんも、俺の質問にすべて『はい』で答えてみてください」


「う、うむ……わかった」


 イングさんには……お、そうだ。


「質問です。イングさんは、ウルリッヒ隊長と恋仲だったりしましたか?」


「な、なんだと?」


 いや、絶対なさそうだったんで。


 返答が嘘になるような質問じゃないと、効力があるかわからないし。


「……はい」


 心底から嫌そうな表情で、イングさんがそう口にする。

 その途端、イングさんの身体が黄色い光を放ちはじめた。

 どうやら俺の視界にしか、光は見えてないみたいだ。


 たぶん効力は本物……だよな。


 これならメルジーネの嘘を見破ることができる。

 問題は、どんな質問をぶつけるかだ。


「……さっきからなにをやっているの?」


 メルジーネが不審そうな目で俺たちを見てくる。


「なんでもない。ただメルジーネ、ふたつほど訊きたいんだけど」


「あら、なにかしら?」


「義妹にかけた呪いとかいうのと、前世の記憶を知っているってのは本当の話か?」


「――なにを言ってるの? 本当に決まっているじゃない」


 メルジーネは、自信たっぷりにそう返してくる。


 だが――メルジーネの全身は黄色く光っていた。


「……やっぱりな」


 どうにも嘘くさいと思ったんだ。


「…………シロウちゃん、貴方、アタシになにかしたわね?」


 なにやら不穏な気配でも感じ取ったのか、メルジーネが身構える。


 ついさっきまでの余裕っぷりはなりを潜め、油断なくこちらを警戒していた。


「知りたいか?」


 俺は一歩、前に足を踏み出した。


「……なんですって?」


「俺があんたになにをしたか、知りたいかって言ったんだ」


 じりじりと、メルジーネが後退る。


「……遠慮しておくわ!」


 その場から退こうとするメルジーネに、俺はスピードモードを発動させて一気に接近した。


「えっ!?」


 目を見開くメルジーネの顔面に、遠慮なくパンチを叩き込む。

 いわゆる男女平等パンチってやつだ。


 本当は女性の顔なんて殴りたくないけど……

 相手は魔族……というか、外道だし。容赦する気にはなれない。


 地面に倒れこんだメルジーネは即座に上体を起こし、射抜くような視線を俺に向ける。


 やっぱり頑丈だな。さすが師団長ってとこか。ノーマルモードで攻撃すりゃよかったかも。


「シロウちゃん、正気!? アタシを殺したら、その子も死ぬって……何度もそう言ったでしょう!?」


「ふーん」


 顔を引き攣らせながら、メルジーネは理解できないといった風に頭を振った。

 いい加減、ネタバラシしてやるかな。


「あのさ、それもう嘘だって見破ってるからな」


「なっ……なんで……?」


 メルジーネが唖然とする。


「どういうことだ、シロウ?」


「そうよ、説明しなさい!」


「シロウ……本当に、この子は平気なんですか?」


「お兄ちゃん……」


 メルジーネだけじゃなく、イングさんとレオナ、リーゼと義妹も俺の宣言に驚いているみたいだった。


「そういう能力を使ったんだ。簡単に言うと、相手の嘘を見破る力をさ」


「……そう、バレちゃったのか」


 おもむろに、メルジーネが立ち上がる。


「ふふ……あはははは、バレちゃったら、しょうがないわね」


 片目を手で押さえながら、メルジーネはくつくつと笑う。


「あーあ……やってらんないわ」


「……メルジーネ」


 リーゼに支えられた義妹が、おずおずと口を開く。


「はぁ? なによ?」


「……本当に知らないの? ワタシの記憶……」


「知らないわよ。知っていたとしても、教えてなんかやらないわ」


 メルジーネは鬱陶しそうに、ひらひらと手を振る。


「……そう」


 義妹は悲しげに目を伏せてしまった。


「はぁ……気が進まないけれど、本気を出すしかないわね」


 ゆらり、とメルジーネの身体から魔力が立ち昇る。


「アタシのすべて――真の姿を貴方たちに見せてあげるわ」


 次の瞬間。


 メルジーネの全身から、魔力の嵐が巻き起こった。


「な、なんて凶々しい……!」


 そう口走りながら、イングさんは盾で魔力の嵐を防ぐ。


「本当、悔しいけど……悍ましすぎて吐きそうだわ」


「レオナ……はしたないですよ。でもわたしも正直……恐ろしいです」


 みんな、メルジーネの放つ魔力に戦慄いている。


 たしかに俺もヴィントはもちろん、プリムス砦で戦った巨竜よりも、凄味みたいなものをメルジーネから感じていた。


 ――なんだろうが、やるしかない。


 魔力の嵐がおさまり、メルジーネの瞳が妖しく赤く光を放つ。


「さぁ、覚悟はいいかしら?」


 メルジーネは三日月のように口を裂き、凶悪な笑みを浮かべた。

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