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第二十八話 異世界で義妹ができました

 イングさん、レオナ、リーゼの三人は町長の屋敷に帰っていった。


 俺は少女を連れ、食堂から部屋に戻ってきたところだ。


 室内に入った途端、少女はぴゃっと走り出してベッドに飛び込む。


「ふかふか」


 どうやら、お気に入りらしい。


 手足を投げ出し、少女は仰向けに寝転がる。


「しろーもいっしょにごろごろする?」


「や……やめとく」


 イングさんやレオナから、さんざん注意されたし。


 しかし……少女の布のような衣服があちこちはだけ、白い肌が露わになってしまっているのは非常に目の毒だ。


 とか言いながら、ついつい見てしまったり。


 いや、これは不可抗力だよね?


 ……うん、我ながら注意されるわけだ。


 いかんいかん、心頭を滅却するのだシロウよ。


 というわけで、眠くなるまで本でも読もう。

 そう決めた俺は、リーゼからもらった本を開く。


 タイトルは『遠い国から来たりし勇者たち』だ。


 どうも色んな勇者たちの逸話が、オムニバス形式で綴られているらしい。


 あらためて読んでみても、やっぱりこの本の勇者たちって、転生者っぽいんだよなぁ。


 最初に出てくる勇者からして、「女神から授かった力」とか言ってるし。

 これチートスキルのことだよな、きっと。


 ちなみにこの勇者の能力は、『全属性の精霊魔法が得意』ってことらしい。

 なんか地味な感じだけど……エリシアの人からすれば驚異的なことなんだろう。


「しろー、なにしてるの?」


「ん、ああ……本を読んでるんだ」


 ベッドに転がっていた少女がいつの間にか、俺の隣に座っていた。


 興味津々といった感じで、俺が持つ本を覗き込んでくる。


「一緒に読むか?」


「アタシ、文字よめない……」


 しゅん、と少女はうなだれる。


「よし、じゃあ俺が読んで聞かせるよ」


「ほんと?」


 ぱっと少女が表情を明るくする。弾けるような笑顔だ。


 おおう……これは破壊力があるな。


 なんというか、父性を呼び覚まされそうだ。


「しろーって、おにいちゃんみたい」


「そうか? てか、お兄さんいんの?」


 これはもしや、身元の手掛かりゲットか?


「……わかんないけど、そんなかんじがしたの」


 どうやら単なるイメージだったらしい。


「ねぇ……しろーのこと、おにいちゃんって、よんでもいい?」


 少女が上目遣いで俺を見てくる。


「なん……だと?」


 お、お兄ちゃんだって?


「だめ?」


 不安げに少女が首を傾げる。


「よし、今から君は俺の義妹だ」


 年下の女子から『お兄ちゃん』呼びされるという憧れのシチュエーションが叶うときがくるとは思っていなかった! 異世界ありがとう!


「ぎまい?」


「まぁ、お兄ちゃんって呼んでくれていいってこと。というかむしろ呼んでください」


「うん、おにいちゃん」


 俺は身悶えする。


「ねぇ、おにいちゃん、本は?」


「おお、そうだった……ええと」


 気を取り直し、俺は本の朗読に取りかかる。


 そんなこんなで、異世界で義妹いもうとができました。



      ◆



 翌日の早朝、俺は義妹を連れてセクンドゥムの冒険者ギルドにやってきた。


 魔王軍との戦いに出る前に、ひとまずギルドで義妹を預かってもらうためだ。


 まだ眠そうな義妹の手を引き、ギルドの建物に入る。かくいう俺も眠い。


 中に入った俺は、まっすぐ受付へ向かう。


「おはようございます、冒険者ギルドへようこそニャ!」


 カウンターの向こうに立つ猫耳の受付嬢が、快活な挨拶で出迎えてくれた。


 ……あれ、なんか既視感が。


「ご用件はなんですかニャ?」


 あ、わかった。既視感の正体は、この猫耳受付嬢だ。


 リベルタスの冒険者ギルドにいた猫耳受付嬢と瓜二つ……いや、むしろ本人か?


「あのー……お姉さん、リベルタスの冒険者ギルドにいませんでした?」


「ンニャ?」


 はて、と猫耳受付嬢は目を瞬かせる。


「……あなた、リベルタスからきたのニャ?」


「まあ、そうですけど」


「にゃるほど……リベルタスのギルドにいるのは、私の姉ニャ」


「めちゃくちゃそっくりですね」


「よく言われるニャ。ちなみに他の姉妹も各地のギルドにいるニャ」


 なんだそれ。ポ○モンのアニメかよ。


 ジ○ーイさんとかジュ○サーさんみたいな。


「それで、ご用件はなんですかニャ?」


「ああ、そうだった……この子を預けにきたんですけど」


 今朝、宿屋にきたイングさんがギルドに話は通してあるって言ってたが……


「ああ! 例の件の女の子ニャ!」


 はたして、猫耳受付嬢はパンと手を打って「お待ちしてましたニャ」と微笑む。


「捜索依頼のほうも、すでに掲示板(クエストボード)に貼り出していますニャ」


「よろしくお願いします」


「おまかせくださいニャ……ゲホフッ!」


 どん、と自分の胸を叩き猫耳受付嬢は盛大にむせる。


 大丈夫かな。不安になってきたぞ。


「……おにいちゃん、ほんとにいっちゃうの?」


 きゅっと俺の手を握り、義妹は泣きそうな声を出す。


「ごめんな。今から俺が行くのは、とっても危ないところなんだ。必ず迎えにくるから」


 その間に身元が判明して家に帰っていたとしても、必ず会いに行こう。


「……うん」


 義妹が小さく頷く。その瞳には、うっすら涙が浮かんでいる。


 こ、心が痛い!


 俺は義妹の頭をそっと撫でる。


「はやくかえってきてね……おにいちゃん」


「お、おう!」


 よし、さっさと魔王軍第四師団を片づけよう。そして速攻で帰ってこよう。


 義妹との別れを惜しみつつ、俺は冒険者ギルドを後にした。

お読みいただき、ありがとうございます!


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