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第二十三話 フサッグァ

「ここが一番、奥っぽいな」


 地図に目を落としながら、俺は前方を歩くレオナに告げた。


「へ、へぇ? ぜ、ぜんぜん余裕だったわね……」


 なんて口にするレオナだが、ぜーはー肩で息をしている。


 まぁ、ここまで来るのに結構な数の魔物と戦ったからな、主にレオナひとりで。


 そんなこんなで到着した、ダンジョンの最奥なわけだが……


「なにもいないな」


「……そうね」


 洞窟の一番奥……そこはなにかを祀っていたらしい、祭壇のようなものがある場所だった。


 今や魔物の巣窟と化して、すっかり荒らされてしまっているみたいだが。


「おそらく、ここでは精霊を祀っていたんでしょうね……」


 痛ましげに言いながら、レオナは広間の中央まで歩を進める。


 そこには、破壊された祭壇の破片が散乱していた。


 レオナは石の破片を摘み上げ、それを調べる。


「これは……火の精霊石ね」


「精霊石?」


「そ、精霊の力を込めた石のこと。そのまんまだけど」


「へー、そんなのもあるのか。なんに使うものなんだ?」


「……あんた、本当になにも知らないのね。実は違う世界からでも来たんじゃないの?」


 ギクリとする。


「なーんて、そんなわけないか」


「あははははははは」


 いやいや大正解ですよ。


「そ、それで、その精霊石っていうのは?」


 俺は強引に話題を軌道修正する。


「これを持ってると、精霊と交信しやすくなるらしいわね。ま、お守りみたいものかしら」


 そういやエリシアの人間はみんな、精霊と交信できるんだっけか。


 でも程度の差がある……とか言ってたよな。


 つまり精霊との交信が苦手な人も、中にはいるってことで……


 精霊石ってのは、そういう人のための補助装置みたいなもん……なんだろうか?


「火の精霊石で作られた祭壇ということは……この場所で祀られていたのって……」


 顎に指を添え、レオナはなにやら思案顔になる。


 なんか……さっきから妙に暑い気がするな、ここ。


 まるでサウナにでもいるみたいだ。


 額に滲む汗を、腕で拭う。


 いや本当、どんどん気温が上がっているような――


 ヒュン!


 なにかが空気を切り裂く音が聞こえた。


 その一瞬後、正面に長い棒状のモノが突き刺さる。


 床に刺さったそれは――


「や、槍?」


「……槍ね、どう見ても」


 長さは一メートル六〇センチ強……ちょうど、レオナが使っていたものと同じくらい。


 柄は光沢のある真紅で、石床に刺さった穂先は大きな刃状になっている。


 これなら突くのも斬るのもいけそうだなーとか、ぼんやりと思う。


 いや、そんなことよりこの槍、どこから降ってきたんだ。


 上……だよな?


 俺は天井を仰ぎ見る。


 ところが、どこにもなにも見当たらない。ゴツゴツした岩肌が広がっているだけだ。


「ちょ、ちょっとシロウ!」


 急にレオナがガシッと俺の腕を掴んでくる。


「な、なんだよ!」


 びっくりして視線を下ろすと……


 石床に刺さった槍が、燃え盛る火炎に包まれていた。


 ――というよりも、槍から炎が噴出している?


「な、なんだこれ、なにしたんだよ、レオナ!」


「し、知らないわよ! あたしじゃないし!」


 槍から立ち昇る炎が、徐々になにかの形を取りはじめる。


 その形は人間――まるで裸身の女性のようなシルエットをしていた。


 人型になった炎が地に足をつけ、その手で槍の柄を力強く掴む。


 一気に槍を引き抜き、その穂先を俺たちに突きつけた。


「……なんだよ、こいつ。もしかして、これが噂の槍を持った魔物?」


「そうでしょうね、槍を持ってるんだし。だけど……これは魔物じゃないわ」


「魔物じゃない?」


 じゃあ、なんなんだ?


「たぶん、この場所で祀られていた精霊よ」


「精霊……」


 それにしちゃ、なんかこう俺たちに敵意を剥き出しって感じなんですがそれは……


「アアアアアアアアアアアアアアッ!」


 精霊が口を開き、耳をつんざくような金切り声を発する。


 そして手にした槍で俺たちに斬りかかってきた。


「うおっ!」

「きゃあ!」


 俺とレオナは、咄嗟に後ろへ飛んで攻撃を回避する。


「この精霊……暴走してるんだわ!」


 レオナは鞘から剣を抜く。


「暴走?」


「穢れたマナの影響ってやつよ!」


「ど、どうするんだ?」


「どうするって、戦うしかないわ!」


 熱風を巻き起こし、暴走精霊が俺たちを追撃してくる。


「アアアアアアアアアアアアアアッ!」


 怨念が乗った悲痛な声を発しながら、暴走精霊は槍による刺突を繰り出してきた。


 俺とレオナは、それぞれ左右に分かれて刺突を避ける。


 暴走精霊の槍が洞窟の岩壁に突き刺さった。


 槍が纏った炎の熱により、岩がドロドロに溶ける。


 こわっ。あんなもん喰らったら、さすがの俺も火傷だけじゃ済まないんじゃないか……


 暴走精霊の背後で、俺とレオナは合流する。


 岩壁から槍を引き抜き、暴走精霊がこちらを振り返った。


「アアアアアアアアアアアアアアッ!」


 暴走精霊は、またもや金切り声を上げる。


「くそっ、やかましいな!」


「この精霊……たぶんフサッグァね」


 不快な大音声に顔をしかめつつ、レオナはそう言った。


「フサッグァ?」


 暴走精霊の名前だろうか。


「火の中位精霊……その中でも結構、力のある精霊よ」


 よくわからんが、中の上ぐらいの強さってことだろうか?


「なら、俺がさっさとスキルを発動して……」


 眠りに入ろうと、俺は目を閉じる。


「待って」


 そんな俺の両目というか両瞼を、レオナは指で押し上げてきた。


「なんだよ!」


「シロウは手を出さないで。あたしひとりでやるわ」


「えぇ?」


 またかよ。イングさん対ヴィントのときもこんなんだったな。


 まぁ、俺は戦闘狂とかじゃないんで別にいいんだけど。


「でもなんで、ひとりで戦うんだよ」


「この精霊に、あたしの力を認めさせるのよ」


 レオナは握った剣の切っ先を、フサッグァに向ける。


「どゆこと?」


「力を認めさて、精霊と『直接契約』を結ぶのよ。イングリット隊長みたいにね」


「……『直接契約』って?」


「特定の精霊と契約を結べば、交信による一時的なものじゃなくて、ほとんど恒久的に精霊の力を借りることができるのよ……具体例としては、隊長の鎧と武器ね」


 ああ、なるほど。


「それ以外にも恩恵はあるけど、詳しくはまた今度ゆっくり教えてあげるわ。あんたが知りたければだけど」


 たしかに、今はゆっくりと講釈している暇はないだろう。


 ていうか、今までもよく会話できてんな。


「…………」


 フサッグァは槍を構えたまま、沈黙している。


 どうもあっちは、俺を警戒しているっぽい。こちらの様子を伺っているようだ。


 暴走してる割には冷静だな。本能的なもんだろうか。


 ん、暴走?


「なあレオナ、ちょっとした疑問なんだけども」


「なによ」


「暴走してる精霊と戦って、力を認めさせることってできんの?」


「え?」


 形のいい眉をひそめるレオナ。


「いや、暴走してるってことは、正気じゃないってことだよな。本来の意識とか、そういうのないんじゃないか?」


「だ、大丈夫でしょ……たぶん……きっと」


 最後は消え入りそうな声で、レオナが答える。


 おいおい、アバウトだなあ。


 これはもう『本来の意識はあるけど、身体が言うことを聞かなくて~』ってパターンであることを祈るしかない。

お読みいただき、ありがとうございます!


次回の更新は10/17以降の予定です。


よろしければ感想、ブクマ、評価など、よろしくお願い致します!

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